執務室会議
翌日、ダニエルは再びアルフォンスを訪ねていた。
「今は10月半ばでしょう?閣下はいつ頃首都へ行くんですか?」
「…ギリギリまで引き延ばしたい。」
「お気持ちは分かりますけど…11月には雪も降り始めるでしょうし、延ばせても11月中頃ですかねぇ。」
「首都にはそれほど雪は降らないだろう。12月初旬に行く。」
「おやおやおやおや。イーゼンブルク侯爵閣下ともあろうお方が大事な社交シーズンにそんな大遅刻をしていんですかな。」
ドミニクが大袈裟に芝居ぶって横槍を入れる。
「まだベアトリーチェはこちらの暮らしにも慣れていない。帝国貴族の序列も学ばなければならないし大した問題ではない。」
「帝国社交界デビューですからね。十分に準備して華々しくいきましょう。」
我こそは社交界の華だと思い上がっている貴婦人たちの度肝を抜いてやろう、とダニエルはほくそ笑んだ。
「まぁ確かに主役は遅れて登場するもの…分かりました。それに間に合うよう家内にも伝えておきましょう。シュルツ家は一足早く首都入りして情勢を掴んでおきますので…11月下旬にはここを立ちます。」
「あぁ。」
ダニエルはスッと手を上げる。
「あのぉ、僕はいつもどおり閣下のタウンハウスに滞在させていただいてもよろしいですか?」
「……いいだろう。」
「渋らないでくださいよ…他に身を寄せる場所がないんですから…」
「うちに来るかい?」
「いえ…伯爵夫人はすぐにお見合いを勧めてくるので…」
「そろそろ身を固めてもいいと思うがねぇ。また令嬢たちの間で『侯爵閣下とシーゼ子爵って…』みたいな噂がなが」
「やめろ気持ち悪い。」
「その噂まだ生きてるんですかね。どうしよう、ベアトリーチェ様含めて『三角関係⁈』みたいな新たな噂になったら。」
「絶対に余計なことをするな。」
アルフォンスは鋭くダニエルを睨みつけた。
ダニエルは「冗談ですよぉ」と首を振る。視線だけで殺されそうだった。
その時、執務室の扉がノックされる。
「入れ。」
「失礼致します。シーゼ子爵様、奥様の用意が整いました。」
入ってきたのは執事長のヴァルターだった。
ダニエルがベアトリーチェを訪ねた際、まだ準備が整っていなかったため暇つぶしにアルフォンスの執務室に顔を出していたのだ。
「ありがとうございます。では閣下、シュルツ伯爵、失礼します。」
ダニエルが出て行った扉を見ながらドミニクは呟く。
「気さくで話しやすいと令嬢達からの人気もあるのに…もったいない。」
「あいつの知性や探究心を理解して共に歩けるような人物でないと無理だろうな。」
「……。」
(そういうところが誤解されるんですよ、閣下)とドミニクは思った。




