昔のこと
ベアトリーチェは暖かい外套に身を包み、アルフォンスと庭園を散歩した。その右手はしっかりとアルフォンスの大きな手に繋がれている。
「シーゼ卿はもともと学者になりたかったんだ。」
アルフォンスはゆっくりと歩きながら話し始める。
「彼の家は中流階級向けの装飾品を取り扱う商家だったが、戦争でなかなか売れなくなり生活が苦しくなった。学問どころではなくなったんだ。それに唯一の後継ぎだったからなおさらな。」
「え…。シーゼ子爵家は、武器商人ではないのですか?」
「もとはな。あいつは頭の回転が速く物事を柔軟に考える。その時に必要なもの、その為にしなければならないことを判断して独自に新型の兵器を発案した。…戦争が終わる2年前だから、奴が22のときだ。」
「新型兵器を発案って…」
アルフォンスは懐かしむ様に遠くを見つめた。
「怖いもの知らずというか…急に訪ねてきたんだ。『戦争を終わらせるための武器を作った』と言って、バヨネットの設計図を持ってきた。」
「バヨネット?」
「銃の先に槍が付いたものだ。遠距離にも接近戦にも対応できるし、なにより従来のものより精度が高かった。」
「へぇ…。なぜ、貴方を訪ねたのでしょう?」
「シーゼ卿は大陸征服中ザクセン王国を征服した俺に目をつけた。あそこは有数の鉄鉱山で有名だからな。発案した新兵器を大量生産すべく俺のもとにきた。そのおかげであと10年は続くだろうと思われた戦争が一気に片付いたんだ。」
「なるほど…。」
アルフォンスはベンチにベアトリーチェを座らせ、話の続きをする。
「なぜ、あいつは戦争を終わらせたかったと思う?」
「生活が苦しかったから…?」
アルフォンスはフッと笑った。
「『10年耐えたのにまだ戦争が終わらない。僕は早く学びたいんです。この10年のせいで科学の発展は30年遅れました。』だと。」
「学ぶため?」
「あぁ。広大な宇宙の一部に過ぎない地球上で領地の小競り合いをするなんて馬鹿げているだとさ。…その為に人を殺す兵器を開発するあいつもどうかしているがな。」
「確かに…」
「武器商人としてイーゼンブルク領の軍事力維持に貢献する対価として、私は学者としてのシーゼ卿の身の安全を保証しているというわけだ。」
そういう裏話があったとは、とベアトリーチェは驚いた。ダニエルは思っていたよりずっと計算高く立ち回っている様だ。
「侯爵という地位はただ受け継いだもので、私はそのレールの上を歩いてきただけだから…シーゼ卿の自ら切り開いていく生き方が少し眩しいと感じるんだ。」
かなり強引だがな、とアルフォンスは笑った。
あぁ、まただ、とベアトリーチェは思った。
この2人の信頼関係が、なぜだか羨ましい。
ベアトリーチェは少し俯いて、再び問いかけた。
「何者になれるか、というのは?」
そのベアトリーチェの様子に、一度にたくさんの話をしてしまったから疲れたのだろうとアルフォンスは判断した。
「それは、また本人に聞くといい。かなり葛藤しているようだから。」
冷えてきたから戻ろう、とベアトリーチェの手を取り屋敷への道を戻る。
(いいなぁ…)
アルフォンスの横顔をちらっと見ながら考える。
それがアルフォンスに対するものか、ダニエルに対するものかは分からなかった。




