ダニエルの思惑①
結婚式から3日後。
約束通りダニエルはベアトリーチェを訪れた。
が、その前に一応侯爵へ挨拶せねば、とアルフォンスの執務室を訪問する。
アルフォンスは、とても機嫌が良かった。
ダニエルが見ても一目瞭然なほど機嫌が良かった。
「あぁ、シーゼ卿。今日は約束の日か。ベアトリーチェは最近少し疲れているからな、あまり無理をさせないように。」
疲れさせているのは閣下が原因では?と喉元まで出かかったが飲み込んだ。新婚だから大目にみましょう。
「新婚さんですもんね。」
口から出ていた。
アルフォンスはフッと笑い、仕事に精を出す。
気味が悪かった。
「ごきげんよう、ベアトリーチェ様。」
通された応接室では、ベアトリーチェがぽやーっと窓の外を見ていた。完全に意識がここにない。
「ベアトリーチェ様〜」
「ハッ…!ダニエル卿、お久しぶりです。」
結婚式の時よりさらに美しさに磨きがかかっている気がする。艶が出て、成熟した女性になったと言うか…というところでダニエルは考えるのをやめた。
まぁ、新婚だしな。と結論づけた。
「幸せそうでなによりです。」
ベアトリーチェの頬がぽっと赤く染まる。
「えぇ、あの、そう…幸せなんです…」
そうでしょうね。オーラがダダ漏れです。
ダニエルは正直言って恋愛の何が良いのかわからなかった。恋情というものによって相手や自分の気分が浮き沈みし、思考に支障をきたすなど恐ろしい。感情という、理論とは真逆のものに振り回されるのが嫌だった。他人の恋愛ごとは見ている分には面白いが、自分に降りかかるのだけはごめんだ。
だが、まぁ、ベアトリーチェが幸せそうなのは良いことだと思った。あの侯爵から寵愛を受けているという事実は今後社交界での立場を確固たるものにできる。
「今後なにかお困りのことがあれば遠慮なく言ってくださいね。夜の指南書なんかも手配できますよ。…閣下には内緒でね。」
「よっ…、いっいりません!」
ダニエルの言葉にベアトリーチェは真っ赤になって断固拒否した。これ以上揶揄われては堪らない、と姿勢を正し本題へとうつる。
「こほん、ダニエル卿。それで、本日はどういったご用件で?」
「もちろん、『あの』お話ですよ。」
ベアトリーチェは視線を彷徨わせた。『あの話』とは『革命』のことだ。メイドを下げるべきか迷った。
「使用人は下げなくても大丈夫です。別に物騒なお話ではありませんし、閣下もご存知ですから。」
ダニエルは落ち着いた様子で茶を一口飲んだ。
「でも…、以前、貴方の血が流れるかもって。」
「うーん、万が一の確率です。その可能性は極めて低いですから、安心してください。」
まったく話が見えてこない。
ベアトリーチェは困惑した。
ダニエルはティーカップを置き、ベアトリーチェへまっすぐ視線を向ける。
「ベアトリーチェ様。貴方に社交界で『地動説』…この世は神の大いなる力で成り立つのでは無く、物理法則により規則的に動く機械であるという知見を広めてほしいのです。」




