彼の企み②
「…なんですって?」
「誤解しないでくださいね。血を流すようなものではありません。…いや、場合によっては流れるかも知れませんが、その時は僕の血が流れるだけなので安心してください。」
到底安心できるような言葉では無い。
ベアトリーチェは困惑した。
「あの…貴方のことを、友人だと思ってもいいのですよね?」
少し不安だった。以前友人になってくれる、という話をしたばかりだが、今までの気の良い青年は影を潜めなんとも得体の知れない男が目の前にいた。自分の気持ちの行先を優しく導いてくれた事には感謝しているが、ここまま友人だと思ってもいいのだろうか。
「もちろんです!僕はもう親友だと思っています。」
ただ、とダニエルは続ける。
「僕は友達でも利用する人間です。」
アルフォンスは呆れている。
だが怒っていない事をベアトリーチェは不思議に思った。アルフォンスはベアトリーチェの手を優しく引き、ソファに座らせた。その隣にアルフォンスが座る。
その些細な行動にさえ心臓がどきりと脈打つ。
「こいつは私でさえも利用する。私もこいつを利用する。君がそう割り切った関係を築けないならば、友人と思わない方がいいだろう。」
「閣下のことは友人だなんて思っていませんよ、恐れ多い。」
「こっちから願い下げだ。」
なんだか羨ましかった。
お互い壁を作らず思ったことをただ口にし、信頼関係が成り立っている。ベアトリーチェにはそんな経験が無かったため、2人が友人では無いと言っても仲の良いそれにしか見えなかった。
ダニエルならば、今後も壁を作らずベアトリーチェとありのままで接してくれるのだろう。
いいな、と思った。
「…では、親友、ということで。」
ベアトリーチェの言葉にダニエルはにっこりと笑った。アルフォンスは眉間の皺に手を当て、諦めたようにため息をつく。
「シーゼ卿、そろそろ出ていけ。ベアトリーチェと話がある。」
「はい。じゃあ、ベアトリーチェ様。詳細は帝国にお越しになってから、ねっ」
ダニエルはベアトリーチェにパチっとウインクを寄越して退室した。
友人だからといきなり馴れ馴れしくベアトリーチェの名を呼んだことにアルフォンスは苛立った。
「侯爵?」
「…あいつを信用してもいいが、あまり心を寄せすぎないでほしい。」
目を閉じて一つため息をつくと、アルフォンスはベアトリーチェに向き直った。
「晩餐会の衣装のことで来たんだろう?」
「あ…はい。」
先ほどまでダニエルに刺々しく当たっていたのに、ベアトリーチェには優しく労わるように接してくることがむず痒い気持ちになる。
ベアトリーチェの髪を大きな手がすべり、そのまま頬を撫でる。隣り合ってソファに腰掛け、今までないほど至近距離で見つめられてベアトリーチェは思わず目をそらしてしまった。
「ベアトリーチェ」
その低く優しい声に抗えなかった。ちらっ、とエメラルドの瞳をアルフォンスに向ける。
「俺の色に染まってくれるか?」
熱の籠る黒い瞳に、体がぞくりと震えた。




