帝国の侯爵
アルフォンス・フォン・イーゼンブルク侯爵。
栄光なるグロリア帝国の東、トスカ公国との国境に位置するイーゼンブルク領を統治する若き侯爵である。
5年前、グロリア王国は周辺を取り囲む5つの国をを 侵攻し征服。大陸に数多ある小国は侵攻されてはひとたまりも無い、と降伏し属国となりグロリア帝国が誕生した。
この戦で功績を上げたアルフォンスは東の国境領地を任されイーゼンブルク領とした。
黒い髪に漆黒の瞳、長身で軍人らしく体格もいい。
そして極め付けに端正な顔立ちをしていた。
年も33とちょうど良く、帝国中の令嬢が侯爵夫人の座を狙っていが彼は恋愛ごとに全く興味がなかった。
むしろ煩わしいと感じていた。
戦から5年、まだ帝国は安定していない。恋愛だ、結婚だなどと抜かしている暇はなかった。
今回トスカ公国に出向いたのも当然仕事である。
トスカ公国建国100年記念祭に皇帝代理として参席する。
トスカ公国は属国であり、その国の中である程度の統治が認められているが戦後まだ5年だ。
不穏な動きがないか、国境を接するイーゼンブルク領をおさめる侯爵が視察及び監査の目的でもあった。
トスカ公国をおさめるのはトスカ公爵であり、爵位で言えばアルフォンスよりも上である。
ただこちらは帝国の侯爵、むこうは属国の公爵。
兵力にも数万の差があり、万が一侵攻されればひとたまりも無いのはトスカ公国のほうであった。
となれば、爵位などほぼ意味はなく
パワーバランスで言えばアルフォンスのほうが上であった。
建国100年記念祭であり、帝国からの視察もあるとなれば公国としても相当の力が入る。
記念祭を明日に控え、
帝国からの使節団をもてなすための宴が開かれていた。イーゼンブルク侯爵を筆頭にその領内で力を持つ伯爵や子爵たちが参席し、公爵邸で親睦を深めていた。
アルフォンスは正直うんざりしていた。
公爵のごますりにも、公国貴族の令嬢たちからの視線もすべて。明日もあるのにやる必要あるか?と。
だから視察がてら1人宴会場を抜け出した。
特段、花にも興味はない。
公爵邸をぐるりと回ってみるか、と薔薇園とは反対側に歩いてみた。
屋敷の裏、リンデンバウムの樹の下に、
淡い金色の髪をした少女が佇んでいた。
服装からして使用人ではないだろう。
しかし宴に参席している令嬢のように着飾ってはいない。
1人、静かに樹を見上げていた。
風が吹き、葉が揺れ、木漏れ日がうごく。
少女の髪も風に弄ばれていた。
つい、
「誰だ」
と声をかけてしまった。




