作戦
ダニエルがベアトリーチェと茶会をした日の夜、ダニエルはドミニクを訪ねた。
「助けてください。」
「いきなりどうしました。」
「明日、おそらくまた公女様との茶会をセッティングされると思います。今日の閣下の様子をご覧になりましたよね?僕はまだ死にたくないんです。どうにか回避する策はありますか?」
必死だった。
あの後アルフォンスがやけに機嫌良く帰ってきたからホッとしたのも束の間、仕事を3倍に増やされた。
「明日は雨でしょうから、街の視察はありません。さすがに応接室に乗り込んでくることはないでしょうが、何が起きるか分かりません。念には念を入れなくては。」
「茶会を避けることは難しいでしょう…。シーゼ子爵、私にいい考えが。」
ー視察4日目ー
天気はあいにくの雨。予想通りだ。
ダニエルはマイヤー書記官と廊下を歩いていた。
『まず、シーゼ子爵は絶対にマイヤー書記官と行動を共にしてください。』
ドミニクに指示されたことをきちんと守る。
『おそらく…』
メイドが近づいてくる。
「シーゼ子爵様、公女様が是非お茶をご一緒に、と」
来た。想定通りだ。
『貴方が応接室を出た瞬間、茶会に誘われるでしょう。』
先見の明がありすぎる。
『2度は断りましょう。心苦しいでしょうが、乗り気だと思われても困ります。』
「すみません、急ぎの仕事がありまして…」
「かしこまりました。」
断れた。だが、いつくるかもしれない人物をただ待ち続けるベアトリーチェが不憫でかなり心が痛んだ。
再び歩き出すと、柱の影から別のメイドが出てくる。
もしや、と思った。
「公女様から…」
「いえ、あの、仕事が…」
監視されている。ダニエルはゾッとした。
「シーゼ卿…次が来ますよ。」
マイヤー書記官も引いている。
「シーゼ子爵様、公じょ」
「行きます。」
執念が怖い。
「こほん、ちなみに、どこでお待ちですか?」
「1階、南のティールームです。」
「分かりました。マイヤー卿、1階南のティールームへ行ってきます。あぁ、この書類の準備だけしておいてください。」
さらさら、と何かを書いてマイヤー書記官に手渡した。
「わかりました。」
『伝達を受けたマイヤー書記官はすぐに応接室へ行き、緊急用ノックをするように。』
マイヤー書記官は足早に応接室へと向かう。
コッコココッ
「なんだ今のノックは。」
「むっ、怪しいですね。閣下、私が見て参りましょう。」
護衛のアーバン卿が扉へ近づき、少しの隙間からマイヤー書記官を確認する。マイヤー書記官は白のハンカチに包まれたカフスをアーバン卿へ渡した。
「10時23分、1階南ティールーム」
「10時23分1階南ティールーム、了解」
「どうした」
「メイドです。落とし物を拾ったとかで、おそらくシーゼ子爵のものではないか、と。」
「見せてごらん」
ドミニクがハンカチの中のカフスを確認する。
「この紋章は確かにシーゼ子爵のものですね。」
「1階南ティールーム付近で拾ったと…10時23分。」
「随分細かいな。」
「几帳面なメイドですね。」
ハンカチにはカフスの他に紙切れが包まれていた。
《廊下、監視複数あり。警戒されたし》
ドミニクは思案した。すぐにここを出ては異変に気づかれ場所を移動されるかもしれない。慎重に動かなくては。侯爵にこの事態を悟られ不機嫌になられても困る。
公国側は子爵を丸め込むことに必死だが、こちらとしても侯爵の初恋がかかっているのだ。絶対に負けられない。
「アーバン卿、先ほどのメイドはまだ近くにいるかな。ハンカチまで受け取ってしまった、返さなくては。」
さっと書いたメモを包む。
「渡しておきましょう。」
今後の流れはこうだ。
30分後、マイヤー書記官が
『シーゼ子爵が行方不明だ』と言いにくる。
なんやかんや侯爵を説得して
『おそらく迷子だろう』と探しにいく。
そしてうっかり公女のティールームに迷い込んだシーゼ子爵を保護して侯爵を置き去りにする…。
完璧だ。
ベアトリーチェ公女の様子からしても侯爵に全くの脈なし、と言うわけでもないだろう。
話術に長けたシーゼ子爵がうまく誘導してくれるはずだ。あとは恋を自覚した2人なら上手く進めるだろう。
「ふふっ」
「そのニヤついた顔はなんだ」
「いえ、お気になさらず」
作戦は完璧だと思われた。




