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深窓のベアトリーチェ  作者: すみれ
運命の出会い
12/43

花が咲く

ベアトリーチェは苦しんでいた。


あの後ドレスを脱ぎ、湯浴みを済ませてメイドを下げた。そして今、ソファの端に丸くなり、頭からショールを被ってぎゅっと膝を抱えていた。


ベアトリーチェは不安な時、心細い時、いつも1人で小さく丸くなっている。ショールをかぶれば狭くて少し暗くて、落ち着いた。


しかし今日ばかりは無理だった。

あの黒の眼差しが、体を支える大きな手が、右手の指先が、消そうと思っても頭から離れなかった。

思い出すたびに心臓が跳ね、苦しくなる。


なんだろう、これ。

なんで、ずっと心臓が痛いんだろう。

…病気かもしれない。


ベアトリーチェは寝ることにした。




初めての感情に戸惑っていたのはベアトリーチェだけではなかった。




アルフォンスも1人、考え込んでいた。

らしく無いことをした、と。


たかだか17歳の少女の反応でこれほどまでに心乱されるとは。理解し難かった。

だが欲しいと思っている、それだけは確かだった。


これまで長年軍に在籍し、征服地で女を献上されることなど多々あった。当然女性とのあれやこれやも経験している。

けれどもこの感情については分からない。

いや、分からなくは無いが自分がまさか、という受け入れ難い気持ちだった。

気軽に恋だの愛だのと言えるような甘い感情ではなく、もっと暗く、執着に近いような気がする。


アルフォンスは考えるのをやめた。

これ以上は危険だと思った。


明日からの公国視察に集中しなくては。




翌朝、ベアトリーチェは当然眠れなかった。

目の下にうっすら疲れが見える。


今日から約1週間、帝国使節団の視察がある。

なるべく顔を合わせたく無い、と思うがもちろん無理である。早朝、公爵から「明日からの街の視察だが、レオナルドと共にお前もついて行きなさい。」との通達があった。


嫌だ。

なんて言えるわけもなく笑顔で了承した。

今まで敷地の外に出たことがない。確実に帝国貴族との接点を増やすため、そして公国の民にベアトリーチェの存在を知らしめるためだろう。


幸い視察は明日から。

今日は1人でゆっくりしよう。

そういえば、リンデンバウムの花はあれから増えただろうか。

デビュタントを終えて、もうコソコソする必要もない。少し、見に行こう。



「あれ…全然咲いてない。」

一昨日見た時と変わらず2輪ほどしか咲いていなかった。

「季節が早いから…狂い咲きしたのかな」


「いや」


出た。

いつも突然現れる。見なくてもわかるし、今はちょっと見たくない。


「ここに蕾がある。まもなく咲くだろう。…お前からは見えないか。」

僅かに笑っている気配がする。


横に並ぶ黒の男を睨む。

「なぜ、ここにいるのですか。視察中では?」

「休憩もしてはいけないのか。」

「…」


ここにわざわざ来る必要あるか?

という視線を向ける。


「…君の姿が見えたから。」


また、心臓が跳ねた。

なんなんだ、昨日の強引さが影を潜めて穏やかな雰囲気だ。別人なのではないか。

顔を赤く染め、手を握りしめて逃げる準備をする。

じり、と後ずさるとすかさず声をかけられる。


「そう逃げるな。」

「逃げてません。」

「逃げようとしただろう?」

「でもまだ逃げてません!」


必死だった。気を緩めたら、とって食われると思った。



手を握りしめて、肩を震わせ顔を赤く染めて怒っている。威嚇する猫みたいだとアルフォンスは思った。

少し可愛いと思えて、口元を緩める。

…かわいい?という疑問を頭の片隅に追いやった。


アルフォンスの手が伸ばされる。

ベアトリーチェは思わずビクッと肩を大きく震わせた。


ぽん、と頭に大きな手が乗せられる。


…?


「では、また。」


休憩は終わりなのか、そう一言だけ言い残してアルフォンスは屋敷へと去って行った。


…?…??

ベアトリーチェはより一層顔を赤く染め、先ほどアルフォンスの大きな手が触れた場所を確かめる。



リンデンバウムの花が、また一輪咲いた。




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