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「本日は属性魔法について学びます。各属性の初級魔法を実際に見せましょう」
ヴィクター先生が教壇に立った。
「魔法はイメージが重要です。どれだけ鮮明に現象を思い描けるか、それが魔法の精度に直結します」
アルシアとエドワードは並んで座り、先生の話を聞いた。
「まず火属性から」
先生が手のひらを上に向けた。
「炎を想像しなさい。揺れる炎、熱、光——」
ファイヤー。
手のひらに、オレンジ色の炎が灯った。
「次は水属性」
ウォーターボール。
丸い水の球が浮かんだ。
「風属性」
ウィンド。
柔らかい風が室内を吹き抜けた。
「岩属性」
アース。
床から小さな岩の塊が持ち上がった。
「そして木属性」
グロウ。
机の上に置いた種から、細い芽が伸びた。
ひと通り終え、先生が満足そうに頷いた。
「以上が初級魔法の基本です。それぞれイメージをしっかりと持って——」
「先生」
アルシアが手を挙げた。
先生の表情が、わずかに固まった。
「……なんですか、アルシア様」
「ウォーターボールって、なんで丸いんですか?」
「ウォーターボールだからです」
「四角じゃダメなんですか?」
「……………」
「中のお水は止まってるんですか?」
「……止まっています」
「普通の水って止まらないですよね?」
「魔法で形を保っているので」
「動かした方が強くないですか?」
先生が少し間を置いた。
「……動かす」
「クルクル回るの」
「…………ウォーターボールの水が回る?」
アルシアが首を傾げた。
「だめですか?」
「…………」
先生が羊皮紙を取り出し、エドワードがため息をついた。
「次に炎ですが」
アリシアが気を取り直して続けた。
「炎ってオレンジ色なんですね」
「一般的な炎はそうです」
「他の色はないんですか?」
「他の色……?青い炎というものがあると文献上では」
「どうしたら青くなるんですか?」
「温度が非常に高くなると——」
「温度が高いと色が変わるんですか? じゃあもっと高くしたら?」
「……もっと高く」
「白くなったりしますか?」
「………しろ?」
ヴィクターが完全に固まっている。炎ではなく先生が白くなった気がして、エドワードが目を逸らす。
でも火魔法の話、自分に関係ある気がした。
放心している先生を置き去りにして、アルシアはまだ止まらない。
「次に風属性ですが。風ってなんですか?」
先生が止まった。
「……なんですか、とは」
「何が動いてるんですか?」
「空気が動いています」
「空気ってなんですか?」
「……目には見えませんが、私たちの周りにあるものです」
「それを動かすんですか?」
「そうです」
「どこからどこまで動かすんですか?」
「……イメージした範囲を」
「イメージした範囲の外の空気はどうなるんですか?」
「……」
先生がまた羊皮紙に何かを書き始めた。
エドワードが小声で言った。
「アリー」
「なあに」
「少し落ち着いて」
「だって気になるんだもの」
エドワードから先生に視線を戻す。
「あと岩属性ですが。岩ってどこまでが岩なんですか?」
先生の手が止まった。
「……どういう意味ですか」
「土と岩の違いってなんですか?」
「硬さの違いです」
「じゃあどのくらい硬かったら岩ですか?」
「……」
「鉄も岩ですか?」
「鉄は金属ですので」
「金属と岩は違うんですか?」
「……違います」
「どう違うんですか?」
「金属は……その」
先生が額を押さえた。
「岩から抽出して純度を高めたもので…」
「じゃあ岩と金属の境界はどこですか?」
「…………」
長い、長い沈黙だった。
エドワードが諦めたように、深くため息をついた。
授業が終わった後、ヴィクター先生は椅子に座ったまま、微動だにしなかった。
羊皮紙には今日だけで両面びっしりと書き込みがある。
「先生、大丈夫ですか?」
何がかはわからないが、エドワードが思わず声をかけた。
「……大丈夫ですよ」
先生は静かに言った。
先生は自分の手をじっと見つめ、窓の外に視線を移し、それから天井を見上げた。
「…………………………神よ」
今日一番長い祈りだった。
エドワードは静かに扉を閉めた。
廊下でアルシアが待っていた。
「先生、また神様に話しかけてたね」
「……うん」
「なんでだろう」
エドワードは呆れたようにしばらく黙る。
「アリーのせいだよ」
「私?」
「君だよ」
アルシアはしばらく考えたが、思いあることはなかった。
「……私、何かしたかしら」
エドワードは答えなかった。
廊下の窓から、秋の空が見えた。
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