20
領地に来て数日が経った頃、アルベルトが言った。
「今日は森に行ってみるか。この季節は野生の果実が取れるんだ」
「行く!!」
カリナが飛び跳ねた。
「森は危なくないですか?」
エドワードが聞いた。
「領地の森は管理されているから大丈夫だよ。護衛もつけるから安心しなさい」
こうして一行は森に向かった。
森の入口から少し進むと、木々の間に赤い実が見えた。
カリナがその木に駆け寄った。
「あかいー!!」
「これは木苺だよ。食べられる」
アルベルトが一粒摘んでカリナに渡した。
カリナが躊躇なく口に入れる。
「あまーい!!」
「良かった」
続いてアルシアも一粒食べた。口の中に爽やかな甘みが広がる。隣の木の実も摘んで食べる。
「あれ?……酸っぱい」
「そうだね、同じ木苺でも味が違うものがある」
アルシアが食べた甘い木の実と酸っぱい木の実を見比べた。
「見た目は変わらないのに、なんでこんなに味が違うの?」
「さあ、昔からそういうものだと思っていたけど」
アルシアが木をじっと見た。
「なんでだろう?」
エドワードが小声で言った。
「……また始まった」
果実をたくさん摘んで屋敷に戻る途中、アルシアがアルベルトに聞いた。
「お父様、果樹園の木も味が違うものってある?」
「あるよ。同じ林檎でも甘いものと酸っぱいものがある」
「なんで?」
「それは……昔からそうだとしか」
「なら甘いのだけ増やせないかな?」
アルベルトが足を止めた。
「増やす?」
「温室でも言ったじゃない。甘い実がなった木の種だけ育てたら、だんだん甘くなるんじゃないかって」
アルベルトが少し考えた。
「でも果物は種から実がなるまで何年もかかる。実験するには時間が……」
「でも果物より早く育つものだったら?」
「早く育つもの?」
アルシアが頷いた。
「トマトはどのくらいで実がなるの?」
「トマトなら……早ければひと夏で」
「じゃあトマトで試してみたい」
アルベルトがしばらく考えた。
「……面白い考えだな」
また同じ声だった。
ヴィクター先生が羊皮紙を取り出した。
エドワードがため息をついた。
翌日、畑の端に小さな区画を作った。領地の農夫が首を傾げながら手伝ってくれる。
「何をなさるので?」
「トマトの実験です」
「実験……ですか」
「甘いトマトだけ選んで種を採って、それをまた育てるんです」
農夫がもっと首を傾げた。
エドワードが小声で言った。
「アリー、農夫さんが困惑してる」
「でも興味があるみたいよ?」
確かに農夫は困惑しながらも、目が少し輝いていた。
最初のトマトの種を蒔いた。
アルベルトが手をかざし、成長を促進させる。緑の光がトマトの苗を包むと、葉も茎もぐんぐんと育った。
「お父様の魔法ってすごいね」
「品種改良に使うとは思わなかったけどな」
アルベルトが苦笑いする。
1週間後、トマトが実った。全部の苗から良く熟れた実を収穫して、一つ一つ食べた。
甘いもの、青くさいもの、酸っぱいもの、その味は様々だ。
「甘いのだけ種を採って」
アルシアが甘いトマトの種を丁寧に採った。
「次はこれだけを育てる」
ニ回目、また同じように育てた。
そして全部の苗から収穫し、また全部食べた。
アルシアは前回の事を思い出して呟く。
「前より甘いのが増えた気がする」
農夫が目を丸くした。
「……本当ですか?」
「食べてみて」
農夫が一口食べた。
「……甘い」
「でしょ」
「でも気のせいでは?」
「三回目を育てたらきっとわかるわ」
三回目、またアルベルトの木魔法で加速させながらトマトの苗を育てた。
同じように全部収穫し、みんなで食べた。
「甘い」
農夫が呟いた。
「前より甘い」
アルシアが頷いた。
「でしょ」
農夫は一度畑を見た、それから空を仰ぎ、最後にアルシアを見た。
「……アルシア様」
「なぁに?」
「これは、すごいことでは?」
アルシアが首を傾げた。
「普通のことだと思うけど。だって子供は親に似るでしょ?トマトも甘いトマトからできた種のトマトは甘いのよ」
農夫が頭を抱え、ヴィクター先生が羊皮紙に書き続ける、それからいつものようにエドワードがため息をついた。
アルベルトが一つトマトを食べた。
「……確かに甘い」
口元が緩んでいた。
その夜の夕食に、三回目に収穫したトマトが出た。
カリナが一口食べた。
「トマトあまーい!!」
「でしょ」
「おいしい!!」
レオナルドも食べた。
「……本当に甘いな」
セシリアが上品に一口食べてから言った。
「まあ、美味しい」
アルベルトがアルシアを見た。
「よくやった」
アルシアが笑った。
「まだ三回しかやってないから、もっと甘くできると思う」
エドワードがトマトを食べながら言った。
「どこまで甘くするつもりだ」
「もっと甘くなるまで」
「……際限がないな」
「だって気になるんだもの」
エドワードはため息をついた。
でも手元のトマトは、今まで食べていたトマトより明らかに甘かった。
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