19
翌日からアルベルトは視察がてら、アルシアやカリナに領地を案内をしてくれるという。
「どうだ、立派な果樹園だろう」
1番初めに訪れた果樹園は、たくさんの花をつけてた木奥の方まで植っていた。
空を見上げると、透き通った青空に蜂が飛び交っている。
「お父様、蜂さんがいっぱい居るわね?」
頭の上を飛び回る蜂を見ながら、アルシアが言った。
カリナがアルシアの後ろに隠れる。
「はちさんちっくん!こわーい」
「刺されなければ大丈夫だよ」
アルベルトが笑った。
「蜂は果物が実るのを手伝ってくれていると言われているんだ」
「おてつだい?」
カリナが首を傾げる。
「そうだよ。それに蜂の巣から取れる蜂蜜はリナも好きだろう?」
カリナの目がぱっと輝いた。
「はちみつすきー!!」
「パンにつけて食べるやつだね」
「おいしい!」
アルベルトが頷く。
「ただ蜂蜜はあまり取れないんだ。森の中で蜂の巣を探さないといけないし、刺される危険もあるからね」
「そうなの?」
「毎年探すが、なかなか見つからないこともある」
カリナがしょんぼりした。
「はちみつ……」
アルシアは飛び回る蜂を見つめた。
しばらく考えてから言う。
「なら飼えばいいんじゃない?」
沈黙。
蜂が一匹、ぶーんと飛んでいった。
「……飼う?」
アルベルトが聞き返した。
「うん」
アルシアは当然のように頷く。
「豚さんも牛さんも飼ってるでしょう?」
「そうだね」
「蜂さんも飼えばいいじゃない」
再び沈黙。
アルベルトが蜂を見る。
蜂は花から花へ飛んでいる。
アルシアを見る。
アルシアは本気だった。
「蜂を……飼う……」
「うん」
「蜂を……」
「うん」
ヴィクター先生がいつの間にか羊皮紙を取り出していた。
エドワードが額を押さえる。
「……先生」
「なんですかな」
「まだ何も始まってません」
「ええ」
ヴィクター先生は真顔で答えた。
「ですが始まる気がします」
早速屋敷に戻ったアルシアは図書室から蜂についての記述がありそうな昆虫図鑑を引っ張り出してきた。
「蜂のお家を作ればいいのよ」
アルシアが言った。
「お家?」
「蜂って自分でお家を作るでしょ。でもお家を先に用意してあげたら、そこに住んでくれるかもしれない」
アルベルトがしばらく考えた。
「……試してみる価値はあるかもしれないな」
「でしょ!」
カリナが手を挙げた。
「りなもつくるー!!」
「リナは見てて」
「えーっ」
昼食を食べ終わると、アルシアは屋敷の使用人たちと一緒に蜂のお家作りを始めた。
エドワードももちろん巻き込まれた。
「なんで俺が」
「エドは手先が器用だから」
「そういう問題じゃ……」
「お願い…ダメ?」
エドワードはため息をついて、木材を持った。
それから廃材を利用して色々な形のお家を作った。
欠けてしまい廃棄予定だった、丸い壺型のもの。細長い木箱のもの。平たい板を重ねたもの。
「入り口はどのくらいの大きさにする?」
エドワードが聞いた。
「色んな大きさで試してみよう」
「なんで?」
「蜂にだって好みがあるかもしれないし、でも図鑑にある蜂の巣は全部入り口は小さいかも」
「……図鑑の蜂の巣」
「とにかくいろいろ試してみればいいよ」
エドワードはしばらく考えてから、入り口を指で示した。
「このくらいか?」
「もう少し小さく」
「これくらい?」
「そう、それくらい!」
夕方頃、出来上がったお家を果樹園のあちこちに置いた。木の根元、枝の又、日当たりのいい場所、少し陰になる場所。
全部で十個ほど。
カリナが一つ一つ覗き込んだ。
「はちさんはいってるー?」
「まだよ、これから」
「いつおひっこしするの?」
「わからない。待ってみましょう」
カリナがしょんぼりした。
「まつのきらい」
「リナ、蜂蜜食べたいでしょ」
「たべたい!!」
「なら待って」
カリナは渋々頷いた。
一週間後、アルシアが果樹園を見回った。エドワードが後ろをついてきた。一つ目、二つ目、三つ目。何もいなかった。
四つ目。
「エド」
「なに」
「見て」
エドワードが覗き込んだ。
小さな入り口から、蜂が出入りしていた。
「……入ってる」
「入ってた!!」
次を見に行った。
五つ目。これも蜂がいた。
六つ目。いない。
七つ目。いない。
八つ目。いた。
十個のうち、三個に蜂が住み始めていた。
「入ってないやつと入ってるやつ、何が違うんだろう」
アルシアが住み始めたお家と、そうでないものを見比べた。
「入り口の大きさが違う」
エドワードが言った。
「大きいやつには入ってない」
「入り口が広いのはダメみたいね」
「……本当に入り口の大きさだったのか」
「蜂さんは狭いお家が好きなのよ、きっと」
アルシアが満足そうに頷いた。
エドワードは住み始めた蜂の巣を見た。
確かに、蜂たちは狭い入り口のものばかりを選んでいた。
その様子を少し離れた場所から見ていたアルベルトが、ヴィクター先生に言った。
「蜂を飼うとは思わなかったな」
「えぇ本当に」
「うまくいくと思いますか」
「……アルシア様のおっしゃることは、だいたいうまくいく気がします」
アルベルトが笑った。
「ははは、間違いないですね」
ヴィクター先生が羊皮紙に書きながら続けた。
「蜂の巣からは蜂蜜だけでなく、蜜蝋も取れます」
「蜜蝋?」
「蜂の巣から取れる蝋です。蝋燭の材料にもなります」
アルベルトがしばらく考えた。
「……それは面白い」
「アルシア様はご存知でしたか?」
「さあ」
とアルベルトは言った。
「でもそのうち言い出すんじゃないかな」
ヴィクター先生が頷いた。
「私もそう思います」
夕食の席でアルシアがカリナに報告した。
「蜂さん、三つのお家に入ってたよ」
「ほんとに!?」
「ほんとに」
「はちみつたべれる??」
「もう少し待って。蜂さんがお家に慣れてからね」
「どのくらい?」
「わからない。でも待てば食べられるよ」
カリナが考えた。
「……まつ」
「えらい!」
アルシアが褒めると、カリナが得意げに胸を張った。そのやりとりにレオナルドが思わず微笑む。アルベルトがアルシアを見た。
「よくやった」
アルシアが照れたように笑った。
「まだ始まったばかりですけど」
エドワードがお茶を飲みながら言った。
「次は何をするつもりだ」
「色々と」
「色々って」
「まだ内緒」
エドワードがため息をついた。
ヴィクター先生がすでに羊皮紙を持っていた。
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