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聖属性を授かったら前世の記憶が戻りました ~伯爵令嬢アルシアのほのぼの領地生活~  作者: クロミ


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 三日目の午後、街道が川沿いに変わった。

窓から見える川は広く、水が透き通って見えた。

「綺麗な川ね」

アルシアが呟いた。

「ヴェルナ領を流れる川だよ」

とアルベルトが言った。

「領地に入ったんだ」

「もう領地なの?」

「端の方だけどね」

アルシアは川をじっと見た。


 川沿いに村が見えた。小さな村だった。

馬車が村の近くで止まった。

「少し休憩しよう、馬にも水を飲ませてやらないとな」

村の人たちが馬車に気づいて集まってきた。

アルベルトの顔を見て、深々と頭を下げた。

「伯爵様、お帰りなさいませ」

「久しぶりだ。みんな不自由はないかい?」

「へぇ、おかげさまで」

アルシアは村を見渡した。川のすぐそばに家が並んでいた。

川から直接水を汲んでいる人がいて、洗濯をしている人もいた。その側で子どもが川で遊んでいる。

その少し上流に視線をやると、釣りをしている人と釣ったのであろう魚を捌いている人がいた。

アルシアは何も言わず、しばらくそれを見つめる。どのくらい眺めていただろうか、不意にアルベルトに話しかけた。

「ねぇお父様」

「なんだい」

「あの人たち、川の水をそのまま飲んでるの?」

「そうだよ。この辺りは川の水が綺麗だから」

「煮沸しないの?」

アルベルトが首を傾げた。

「しゃふつ?」

「火にかけて、沸かすことです」

「……なぜそんなことを?」

アルシアが少し考えた。

「お肉って、生で食べたらどうなりますか?」

「お腹を壊すね」

「なんで?」

「中に悪いものがいるから火を通すんだよ」

「じゃあ水は?」

アルベルトが止まった。

「水は……」

「水にだって、悪いものがいるかもしれないじゃないですか」

「水は透き通っているから」

「エドが病気になった時、体の中の悪いやつは目に見えなかったですよね」

アルベルトが黙った。

「見えないだけで、水の中にもいるかもしれない」

しばらく沈黙が続いた。

アルベルトとアルシアの話を近くで聞いていた、村人の一人が言った。

「あの川の水で腹を壊すことも、たまにありますよ」

アルシアが勢いよく振り返った。

「たまに?」

「ええ、夏場とか、雨の後とか」

「どのくらいの人が?」

「そんなに多くはないですが、子どもはよく……」

村人が少し言いづらそうにした。

「子どもは特に、腹痛がひどいことも……」

アルシアが真剣な顔になった。

「やっぱり水の中に何かいるかも…」

「アルシア様」

とヴィクター先生が羊皮紙を持ちながら近づいてきた。

「川の水に目に見えないなにかがいると?」

「うん、でも煮沸すれば悪いやつはいなくなると思うの。」

「煮沸する……」

「だってお肉も焼いたら大丈夫なのだし、エドの時も、熱が出てたじゃないですか。体が悪いやつと戦ってた。だから体自体が熱くなった」

先生が止まった。

「体が熱くなるのは……防御反応?」

「そうだと思う。だから水も熱くして、悪いやつをやっつければいい」

「…………」

先生の羊皮紙を持つ手が震えていた。

エドワードが小声でアルシアに言った。

「アリー」

「なに」

「それ、本当にそうなのか?」

「わからない。でも多分」

「多分って……」

「試してみないとわからないけど、きっとそう」

エドワードはしばらく川を見た。

「……俺が病気になったのも、水が原因だったりするか?」

アルシアが少し考えた。

「わからない。でもエドの時は違うかも。悪いやつがいるのは、水だけじゃないのかもしれないし」

エドワードが川を見たまま黙った。

それから静かに言った。

「……領地の井戸や川は大丈夫なのか」

「それを確かめたい」

エドワードはもう一度ため息をついた。

今度は呆れではなく、少し違う色のため息だった。

アルベルトは子供達の会話を全部聞いていた。考え込むように黙って川を見つめる。水面に光が反射し、透き通ったみずがキラキラと輝いている。


 ヴィクター先生がアルベルトに近づいて来た。

「伯爵」

「……わかっています」

「アルシア様の話が正しければ…」

「領地の衛生を根本から、見直さないといけないかもしれない」

その言葉に先生も頷いく。

今までの真剣な表情が崩れ、アルベルトからふっと笑みがもれる。

「面白い考えだな」

温室で品種改良の話を聞いた時と、同じ声だった。

たっぷりと休憩をとった馬車が再び動き出した。川沿いの道を進む。窓から先程の川が見えている。さっきまで綺麗だと思っていた川が、今は少し違って見えた。


 アルシアはエドワードだけに聞こえる声で話しかける。

「エド」

「なに」

「汚れた水と飲む水を分ける方法ってないのかな」

「……水をわける?」

「水をきれいに使うための仕組みなんだけど」

「それは」

「領地でできるかな」

エドワードが窓の外、川を見る。そして、深く、深くため息をついた。

「……着いてもいないのに」

「気になるんだもの」



しばらく進むと窓の外に、領地の村々が見え始めた。遠くに、大きな屋敷の屋根が見えた。

「見えてきた」

とアルベルトが言った。

「領地の屋敷だよ」

アルシアが窓に顔を近づけた。その目が輝いていた。

エドワードは興味深々に外を見つめる、アルシアの横顔を見た。

(この人と一緒にいると、世界がどんどん変わっていく気がする)

そう思った。悪くなかった、少しだけワクワクする。

お読みくださりありがとうございます!


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