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聖属性を授かったら前世の記憶が戻りました ~伯爵令嬢アルシアのほのぼの領地生活~  作者: クロミ


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二日目の昼前、街道沿いの町に立ち寄ることになった。補給のためだとアルベルトが言った。馬車から降りると、町の中心に市場があった。色々な店が並んでいる。野菜、果物、肉、魚、布。活気があって賑やかだ。

「お父様、行ってみていい?」

アルシアがアルベルトに聞いた。

「エドワードと一緒にな」

「はい!」

エドワードと二人で市場に入った。

最初に気づいたのは匂いだった。

食べ物の匂いと、土の匂いと、それから何か別の匂いが混ざっていた。

アルシアは肉屋の前で足を止める、台の上に肉が並んでいた。直接台の上に、皿も蓋もなく。その上を虫が飛んでいる。

「エド」

「なに」

「あの肉、大丈夫?」

エドワードが肉屋を見た。

「どういう意味だ?」

「虫が止まってる」

「……市場だからな」

「食べて大丈夫?」

「火を通せば大丈夫だろう」

アルシアが少し考えた。

「そもそも、なんで直接置いてるんだろう」

「置く場所がないからじゃないか」

「布とかかけないの?」

「……」

エドワードは答えなかった。

その時肉屋の主人が人の良さそうな顔でにこにこしながら

「いかがですか」

と声をかけてきた。

二人は礼儀正しく笑って、通り過ぎた。


 次に井戸があった。

町の中央の広場に、一つの井戸。

その周りに人が集まっていた。水を汲む人、洗濯をする人、子どもが遊んでいる人。

アルシアは井戸を見た。井戸の周りが、少し汚れていた。

「みんな同じ井戸を使ってるんだね」

「ああ」

「洗濯も?」

「そうだな」

「飲み水も?」

「……そうだな」

アルシアがじっと井戸を見た。

洗濯に使った水が地面に流れていた。その近くで子どもが遊んでいる。洗濯をしたその水が地面に染み込んでいた。

「……エド」

「なに」

「井戸って、地面の下から水を汲むよね」

「そうだ」

「地面に染み込んだ水って、どこへ行くんだろう」

エドワードが止まった。そしてしばらく井戸を見つめる。

「……まさか」

「わからないけど」

二人は同時に井戸を見ている。そこには先程と変わらぬ、風景。

エドワードがゆっくりと息を吐き出した。

「……アリー」

「なに」

「それ以上考えるのをやめてくれ」

「でも」

「頼む」


 馬車まで戻る途中、市場の端にゴミが積まれている場所があった。

野菜の切れ端、魚の骨、布のきれ端。その近くに食べ物を売る店があった。

アルシアがそれを見た。何も言わず、ただじっと見ていた。

エドワードが小声で言った。

「……何を考えてるんだ」

「……あのね、」

「待て、やっぱり言わなくていい」

「でも」

「言わなくていい」

アルシアは口を閉じた。

でも目が、まだなにかを考えていた。エドワードはその目を見て、深くため息をついた。


 馬車に戻ると、ヴィクター先生がいた。

「どうでしたか、市場は」

「色々と気になることがありました」

先生が羊皮紙を取り出した。

「たとえば?」

「肉の保管と、井戸とゴミの場所と、あとは……」

「うん」

「全部まとめて考えると、なんかいろいろ問題がある気がして」

先生が物凄い速さで書き始めた。

エドワードがため息をついた。今日、何回目のため息だろうか…

アルベルトは馬車の中で、静かにその会話を聞いていた。口を挟まず、でも考え込むようなそぶりだった。

その夜の宿で、アルシアはまだ考えていた。

「ねぇエド?」

「なに」

「昼間の市場で肉に虫が止まってたじゃない」

「……ああ」

「エドが病気になった時、体の中に悪いやつが入ったって言ったよね」

「言った」

「虫って、悪いやつを運んでたりしないかな」

エドワードがしばらく黙った。

「……寝ろ」

「でも」

「今夜は寝ろ。明日また考えろ」

「……わかった」

アルシアは宿屋の自分の部屋入り扉を閉めた。それを確認してからエドワードも部屋にもどる。エドワードはベットに潜り込み目を閉じる。

(あの人は領地に着いたら何をしでかすんだろう)

春の夜は、まだ少し寒かった。

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