14
ようやく陽の光が暖かくなってきた頃、この日伯爵邸の庭は、朝から賑やかだった。
使用人たちが花を飾り、テーブルを並べ、料理を運ぶ。青い空の下、ヴェルナ家の庭園がいつもより一層明るく見えた。
今日はアルシアの誕生日だった。
「おねいたま!!」
カリナが走ってきた。
「リナ、走らないの」
「だってだってー!!おねいたまのおたんじょうびー!!」
アルシアの手をぎゅっと握った。
「おめでとー!!」
「ありがとう、リナ」
カリナが後ろ手に隠していた紙を差し出した。
「あのね、かいたの!」
差し出された絵を、丁寧に受け取った。
丸と線と、何かよくわからない色がたくさんついていた。
「……なにを描いてくれたの?」
「おねいたま!」
「……そうなの」
「そうなの!!」
アルシアは笑った。
「ありがとう、大事にする」
カリナが満足そうに笑った。
カリナと入れ替わりに、レオナルドが近づいてきた。
「誕生日おめでとう、アルシア」
「ありがとうお兄様」
「これ」
小箱を差し出した。それを開けると、淡い色の髪飾りが入っていた。小さな花があしらわれた、繊細な細工のものだった。
「お兄様が選んだの?」
「……ああ」
耳が少し赤かった。
「似合うと思って」
アルシアはすぐに髪につけた。
「どう?」
レオナルドがアルシアを見た。
「……似合ってる」
ぶっきらぼうだったけれど、嬉しそうだった。
こんどはセシリアが、アルシアの前に立った。
「アルシア、こちらへ」
連れて行かれた先には、淡い青紫のドレスが用意されていた。
「今日のために仕立てたの」
「お母様……!」
「着てみましょう」
着替えて戻ってくると、全員の視線が集まる。
「まあ」
とセシリアが微笑んだ。
「素敵よ、アリー」
カリナが飛び跳ねた。
「おねいたまきれいー!!」
レオナルドが目を逸らした。
エドワードは固まったまま動けない。その様子に、アルシアは気づかなかった。
アルベルトが分厚い本を持ってくる。
「これを」
受け取ると、表紙に細かな植物の絵が描かれていた。
「植物図鑑だよ。この大陸で見つかっている薬草や植物が全部載っている」
「お父様!!」
アルシアの目が嬉しそうに輝いた。
「温室の植物と照らし合わせてみるといい」
「絶対する!!」
アルベルトが目元を緩めた。
最後にエドワードが近づいてきた。
「……これ」
小さな包みを差し出した。
受け取って開けると、金色の栞が入っている。透かし彫りで、小さな花の模様が施されていた。光を受けてきらきらと輝いている。
「綺麗……!」
アルシアが目を丸くした。
「エドが選んでくれたの?」
「……ああ」
「どこで?」
「街で」
「一人で?」
「……レオナルド様に連れて行ってもらった」
レオナルドが遠くから小さく手を振った。アルシアは栞をじっくり眺める。
光の加減で少し模様が変わって見えた。
「すごく好きだわ」
エドワードが視線を逸らし、耳を赤く染める。
「……気に入ってもらえたなら」
アルシアはもう一度栞を見て、大切そうに胸元に抱えた。
その後のガーデンパーティーは賑やかだった。料理を食べて、笑って、カリナが庭を走り回った。なぜかヴィクター先生がカリナを追いかけるはめになり、レオナルドは笑いを堪えていた。
セシリアが優雅にお茶を飲みながらその光景を眺め、エドワードがアルシアの隣に座っている。とても暖かな空間だった。
「アリー、楽しい?」
「うん、すごく。エドは?」
アルシアが笑った。
エドワードは少し目を細めた。
それだけで十分だった。
日が傾き始めた頃、アルベルトが立ち上がった。
「少し、話がある」
全員がアルベルトを見た。
「アルシア」
「はい」
「春から、領地へ行こうと思っている」
静かな声だった。
アルシアが目を丸くした。
「領地!」
「ああ」
「みんなで?」
「もちろんみんなで行く」
アルシアが顔を輝かせた。
「行く!!絶対行く!!」
エドワードがため息をついた。
「……もう少し考えてから返事をしなくていいのか」
「なんで? 楽しそうじゃない」
「楽しそうって……」
そんな会話を尻目に、カリナだけが
「りょうち!!」
と叫びながら、まだ庭を走り回った。
春の空が、少しずつ近づく気配がした。
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