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聖属性を授かったら前世の記憶が戻りました ~伯爵令嬢アルシアのほのぼの領地生活~  作者: クロミ


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 その日異変に気づいたのはアルシアだった。

朝の訓練の時間になっても、エドワードが訓練場に来ない。おかしい、エドワードが訓練を休んだことは、今まで一度もなかったのに。

アルシアは不安な気持ちを抱えたまま廊下を走った。

エドワードの部屋の前につくと、扉を叩く。返事がなかった。

嫌な予感がして、もう一度叩いて耳を澄ます。中から微かにうめき声がした。アルシアは慌てて扉を開けると、エドワードがベッドの中でうずくまっている。顔は真っ赤だった。

「エド」

「……アリー」

声がかすれていた。

「熱がある?」

額に手を当てた。ものすごく熱かった。


 すぐにセシリアが呼ばれ、アルベルトが呼ばれ、ヴィクター先生が呼ばれた。

先生がエドワードを診た。額に手を当て、目を確認し、喉を見た。それから静かに立ち上がった。

「高熱です。子供は体力があまりない、これ以上ひどくならないと良いのですが」

「治癒魔法では?」

アルベルトが聞いた。

「試みましたが……外傷がありません。魔法が作用しません」

室内が静かになった。

「安静にして、水を飲ませて、薬を飲んで熱が下がるのを待つしかありません」

先生は静かに言った。でもその表情は、隠しきれない心配を帯びていた。

アルシアはエドワードを見た。

ベッドの上で、エドワードが苦しそうに息をしていた。

「病気も治せると思います」

アルシアが言った。

全員がアルシアを見た。

「アルシア」

セシリアが優しく呼びかけるそして続けて言った。

「でも先生が——」

それでもアルシアは止まらなかった。

「病気も怪我も体の異常です」

ヴィクター先生が止まった。

「……病気は怪我ではありません」

「怪我ではないけど、体の中で何かが悪さをして、体が戦ってるんです。だから熱が出る」

「……体が、戦っている」

「だから体の中に普段とは違う異常がある。見えないだけで」

先生がアルシアを見た。

アルシアはすでにエドワードのそばに移動していた。

「やってみます」

アルシアはエドワードの額に手をかざし、目を閉じた。

(体の中に悪いものがいる。それを排除する。炎症を抑える。免疫を助ける)

「ヒール」

白い光がエドワードの全身をゆっくりと包んだ。今まで出したことのない規模の光がエドワードの体に吸い込まれるように消えた。全員がエドワードを見た。

しばらくして、エドワードが少し深い息をした。

「……さっきより、楽かも」

アルベルトがエドワードの額に手を当てた。

「熱が……少し下がっている」

室内がざわめき、ヴィクター先生が固まっていた。

「熱に……ヒールが……」

羊皮紙を取り出した。手が震えていた。

でもアルシアは満足していなかった。

「なんで完全に治らないんだろう」

眉をひそめた。

エドワードがかすれた声で言った。

「……十分だよ」

「十分じゃない。でも今はこれ以上できないみたい。」

アルシアは考え込んだ。

それから、アルシアは動き始めた。

「お母様、水と塩と砂糖はありますか?少しだけでいいので」

セシリアが首を傾げながらも用意した。

アルシアが丁寧に混ぜた。

「エド、これ飲んで。少しずつでいいから」

「……なに、これ」

「水分補給。汗かいたでしょ?体の中の水が足りなくなってるから」

次に使用人を呼んだ。

「部屋をもっと暖かくしてください。それから濡れたタオルをいくつか干してほしいんですけど」

「濡れたタオルを……ですか?」

「乾燥してると体に悪いので」

使用人が困惑しながらも動いた。

セシリアが厨房に声をかけた。

「消化にいいものを作ってもらえる? パンがゆとか、野菜をくたくたに煮たスープとか」

アルシアの行動を見ながら、セシリアがそっと動いた。

ヴィクター先生は部屋の隅で羊皮紙に書き続けていた。

「体内に侵入した何かが熱の原因……ヒールで体の防御を助ける……水分と塩分の補給……加湿……消化への配慮……」

書きながら呟いた。

「……神よ」


 三日後、エドワードの熱が完全に引いた。

「もう平気だ」

ベッドの上で起き上がったエドワードが言った。アルシアが真偽を問うように、じっと顔を見据える。

「顔色は?」

「普通だと思う」

「頭痛は?」

「ない」

「喉は?」

「痛くない」

「食欲は?」

「……お腹空いた」

そのひと言でようやくアルシアがほっとした顔をした。

「よかった」

エドワードはアルシアを見た。三日間、ほとんどずっとそこにいた。水を飲ませて、タオルを替えて、おかゆを持ってきて。

「アリー」

「なに?」

「……ありがとう」

アルシアが首を傾げた。

「当然でしょ」

エドワードは何も言わなかった。

ただ、視線を窓の外に向けた。

冬の空が見えた。


 その夜、アルベルトの書斎にヴィクター先生が訪ねてきた。

「伯爵、少しよろしいですか」

「どうぞ」

先生が椅子に座った。

しばらく黙っていた。

「……お伝えしなければならないことがあります」

アルベルトが静かに頷いた。

「アルシア様の聖魔法は…いえ、その発想力が規格外です」

先生が言葉を選んだ。

「このままでは、いずれその能力が外に知れます」

アルベルトが窓の外を見た。

「……わかっています」

「早めに、環境を整えた方がよいかと」

沈黙があった。

「春に、領地へ連れて行こうと思っています」

先生は静かに頷いた。

「エドワード君も一緒に?」

「もちろんです」

先生はまた少し黙った。

「………私も一緒にいかせていただいてもよろしいでしょうか?」

アルベルトが先生を見た。

「記録しなければならないことが、まだ山ほどありそうですので…」

そう答えたヴィクターの表情はいたずらっ子のようだったが、その瞳は愛しいものを見るような優しさで溢れている。

「……あの二人を、よろしくお願いします」

そう言い、アルベルトは深く頭をさげた。

「ええ…。神よ、どうかこの先もお力をお貸し下さい」

今度ばかりは、その祈りに笑いが混じっていた。

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