12
エドワードの訓練は毎日続いた。
そしてアルシアの治癒も、毎日続いていた。
訓練後のエドワードの手を治す。転んで擦れた膝を治す。木剣が当たった腕の切り傷を治す。
最初は光の量が安定しなかった。多すぎたり少なすぎたり。でも毎日続けるうちに、少しずつ感覚が掴めてきた。
ヴィクター先生はその様子を観察しながら、授業で正式に治癒魔法を教えることにした。
「今日は治癒魔法の対象について学びましょう」
先生が教壇に立った。
「治癒魔法が対象とするのは、目に見える怪我です。切り傷、擦り傷、裂傷、骨折、火傷。これらは魔法で直接修復できます」
アルシアは真剣に聞いていた。
「では傷がない場合はどうでしょう」
先生が続ける。
「打撲や青あざ、運動した翌日などにある筋肉の痛みは治癒魔法の対象外です。外見上傷がないため、魔法が作用しません。これらは安静にして自然に治すしかありません」
「先生」
アルシアが手を挙げた。
先生の表情が、わずかに固まった。
「……なんですか、アルシア様」
「打撲は怪我ではないんですか?」
「怪我ではありません。傷がないので」
「怪我です」
先生が止まった。
「……違います」
「中で血が出ています」
「出血しておりません」
「でも痛いです」
「痛いですが…」
「じゃあ怪我です。中で出血してます」
「しておりません、外見上——」
「見えないだけです」
ヴィクター先生が止まった。完全に止まった。
エドワードが小声でアルシアに囁いた。
「……またやってる」
アルシアは気にせず続けた。
「見えない出血があります」
「……見えない、出血」
「はい」
「どこに」
「皮膚の下です」
「…………」
「もっと中とか」
「…………………」
先生の目が、ゆっくりと遠くなっていった。
しばらく沈黙が続いた。
先生が羊皮紙を取り出した。
「アルシア様」
「はい」
「なぜそう思うのです」
アルシアは少し首を傾げた。
「だって青いじゃないですか」
「青い」
「打撲した場所が青くなるでしょう。中で何かが起きているから色が変わるんだと思って」
先生がまた止まった。
「……色が変わる理由を、考えたのですか」
「だって気になりますもの」
先生は羊皮紙に何かを書き始めた。物凄い速さで。
エドワードがため息をついた。
「アリー」
「なあに」
「また先生が記録モードになってる」
「そうなの?」
アルシアは首を傾げた。
先生は書きながら呟いていた。
「皮下出血?……内部組織損傷……外からは見えない……これが治癒魔法の対象外である理由は……外見上の判断基準が……いや待て、もし内部の損傷も修復できるなら……」
「先生」
とエドワードが言った。
「なんですかエドワード君、今忙しい」
「あっはい。………いえ、授業は?」
先生が顔を上げた。
「……続けましょう」
羊皮紙をしまいながら、先生は静かに呟いた。
「………神よ」
今日も祈っていた。
授業の後アルシアはエドワードを呼び止めた。
「ねぇエド、ちょっと試してもいい?」
アルシアがエドワードの腕を見た。昨日の訓練でできた青あざがまだ残っていた。
「打撲に聖魔法をかけてみる」
「……できるのか?」
「わからない。でもやってみる」
アルシアが手のひらをエドワードの青あざの上にかざした。
目を閉じた。自分のものではない記憶が頭の中を流れる。
(皮膚の下で血が漏れている、毛細血管が傷ついている、皮膚の下に傷がある。それを修復する)
「ヒール」
白い光がじんわりと広がった。しばらくして、光が消えた。二人で青あざを見ると、あきらかに薄くなっていた。
「……薄くなってる」
エドワードが目を丸くした。
「できた」
アルシアが小さく笑った。
「できたわ」
翌日、アルシアは授業が始まるや否やヴィクター先生に話しかけた。
「先生」
「……なんですか、アルシア様」
「打撲に聖魔法かけたら薄くなりました」
突然の報告に先生が固まった。
「…………」
「やっぱり見えない傷も怪我だったんだと思います」
「…………………………」
「神よ」
今までで一番早い祈りだった。
エドワードは深くため息をついた。
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