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聖属性を授かったら前世の記憶が戻りました ~伯爵令嬢アルシアのほのぼの領地生活~  作者: クロミ


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 ここ2ヶ月ほど、夜明け前から訓練場に響く音がある。木剣が空を切り、足が地面を踏む音。それだけが、静かな朝に響いていた。

エドワードは毎日黙々と続けた。素振り、足さばき、走り込み。最初は木剣を振るだけで腕が痛くなったし、走り込みでは足がもつれて何度も転んだ。素振りをする手は何度も皮が剥ける。それでも休まなかった。

理由は一つだ。


 朝練を始めて2ヶ月が過ぎたある朝、教師が木剣を持って訓練場に歩いてきた。

「エドワード」

「はい」

教師が素振りをしていたエドワードをしばらく眺めてから、声をかけた。

「今日から次に進む」

その言葉にエドワードの表情が引き締まった。

「対人訓練だ」

言葉と共に木剣が一本投げられた。エドワードが受け取る。

少し緊張していた。でもそれ以上に、嬉しかった。

ここまで毎日続けてきた、その成果だから。

レオナルドが木剣を持って待っている。

「打ち込んで来い」

レオナルドが構えた。エドワードも構えた。

数秒の沈黙。

踏み込んだ。

バシィ!!

一撃で弾かれ、転がった。

(行けるかも、と思ったのに)

地面に手をついて、顔を上げた。

レオナルドが見下ろしていた。

「まだ早い」

言葉とは裏腹に、声は穏やかだった。

「今の踏み込みは良かった」

手を差し伸べながら言った。

「だが腕だけで振るな。腰を使え」

エドワードは立ち上がった。

「もう一度」

二回目、弾かれた。

三回目、また弾かれた。

四回目、転んだ。

それでも…レオナルドは気づいた。

打ち合いが、少しずつ長く続くようになっていく。最初は一瞬で終わっていたのに、今は数合やりとりができる。

(成長している)

五回目、エドワードが踏み込んだ。腰を使って木剣を振った。レオナルドが刀身で受けた。今日一番の手応えだったが、また弾かれた。それでも今度は転ばなかった。

レオナルドがわずかに目を細める。

「……今のは良かった」

エドワードは息を整えながら、もう一度構えた。


 訓練が終わった頃、エドワードは地面に座り込んでいた。

全身が痛い、泥だらけの上に汗だくだった。両手に視線を向ける、手の皮がまた剥けていた。でも…その痛みも疲労感も悪くなかった。


「エドー!」

遠くからエドワードを呼ぶ声がして、顔を上げた。

アルシアが訓練場にむかって走ってきた。

息を切らせて、エドワードの前に立った。

「見てたわ!」

「……そうか」

「すごかった!」

「弾かれたけどな」

「でも最後は転ばなかったでしょ!」

エドワードは少し黙った。

「……転がった所見てたのか?」

「ずっと見てた」

エドワードが赤くなった頬を隠すように、手で目元を覆う。

「エド、手」

顔の前に翳された手をみて、アルシアが心配そうにつぶやく。それからエドワードの手をそっと両手で包んだ。

「痛い?」

「……平気だ」

「嘘つき!…ヒール」

白い光がじんわりと滲んだ。

皮が剥けた部分が、少しずつ塞がっていく。

エドワードは何も言わず、ただアルシアが自分の手を包んでいる温かさを感じていた。

そんな2人をレオナルドが遠くから見つめて、小さく笑った。そのまま何も言わずに訓練場を後にした。

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