宇宙のたまご⑤
トスーゴ星の夜が明ける。
星の周りの環が次第に光を帯びる。季節により環の温度と日照時間が違う。
美理たちがステイしているマルゲリータの仕事は農業。
広大な畑はすべて機械で管理されており、基本人間がすることは何も無い。作っているのは小麦に似た農作物、他にも数種類の野菜果物だ。
天候も機械制御されているため、晴れ雨の日はあるが、台風や洪水といった災害級の出来事は起こらない。
それでもマルゲリータは手を抜かない。誠心誠意、心を込めて仕事に励む。
暇なときは娘のリリーの相手をする。リリーは7歳位。ツインテールがよく似合う活発な少女だ。特に喋る鳥ピンニョがお気に入り。
環の光が消えたら、夜だ。仕事を終え、夕食を食べて寝る。入浴は隔日。
日の光を浴び、風を感じ、身体を動かし、人と接して、大地に触れる(人工物だとしても)。気持ちがいい。心が豊かになるような気がする。
「トスーゴと私たちはわかりあえる」この時はそう思えた。
美理が夜風にあたっているとアッシュが尋ねてくる。
「眠れないのですか?」
「あなたこそ」
「私はいいのです」アッシュは笑顔が増えたような気がする。
「私は何をしているのでしょうか・・・こうしている間にも誰かが傷つき誰かが死んでいく。私は戦いを止めさせるためにここに来たのに!」
アッシュは美理を見つめて静かに言う。
「インパルスに乗艦していた時、流艦長が弓月副航行長に言われた言葉があります。
あの時、明さんは自分を責めていました。自分が操艦していて交戦、数人の死傷者が出たのです。艦長はこう言われました。
『思い上がるな。お前ひとりで結果が変えられたと思うな。こうなったのはお前ひとりのせいではない。私の指揮のせいでもある。ロイたち戦闘班のせいでもある。医療班、索敵班、みんなだ。運もある。たらればを言っていたらきりがない。お前が手を抜いていたなら別だが、お前は精一杯やった。胸を張れ。そして糞して寝ろ』と」
「父さんがそんなことを。最後のは余計だけど・・そうね、確かに焦ってもしょうがない」
美理は立ち上がる。
「ありがとう。おやすみなさい。貴方も早く休んで」
アッシュは敬礼で返す。美理が姿を消してからすぐの事だった。
「こんな事でよく護衛が務まるな」突然の声。
アッシュは身構える。声は林の中から聞こえた。
林の中からフードを被った人物が現れる。夜空の光が当たり、その人物が仮面で目を隠した男であることが分かる。
「私の名はリドル」
男は仮面を取る。
「! あ、あなたは!」
ある日の午後。昼食の後、マルゲリータは話し始める。
「美理様は本当にお母様によく似ておられます。私はエレーヌ様の侍女でした」
「え?」
「エレーヌ様は護衛隊長パミイ様の娘でした」
「!」 「パミイって!」 美理とピンニョは顔を見合わす。
「大神王ゼノン様はエレーヌ様を愛した。その結晶がオズマ様。その幼名は・・・確かケークでした」
「ケーク・・(啓作?)」
「トスーゴの神王のうち選ばれた者はその肉体が死んでも、魂は永遠に生き続ける。そして適合する“依代“が生まれたら、その肉体に転生される。それが”転生の儀“」
マルゲリータはカーテンを開ける。はるか彼方に赤い光が見える。
「あれが神王たちの魂が眠る<命の塔>の灯りです。“転生の儀”はあそこで行われます。管理されておられるのが大神官ムー様。エルザ王妃の御父上です」
「この距離であの高さ・・数千mはあるよ」ピンニョが小声で教える。
「転生って・・教えてください。別の人に魂が移るってことですか?」
「はい。ゼノン様もオズマ様も歴戦の勇者、何度も転生されています」
「オズマ王子も!・・じゃあそのケークさんはどうなったの?」
「ケーク様は・・“依代“は眠ったままその方と共に生きます。その肉体が死ぬまで」
美理が思い浮かべたのは“精神移植”だ。かつてアダムスが麗子を狙った。
「リナ王女も転生されたのですか?」
「リナ様は“神王”ですが、転生はされていません。転生されず一生を終えられる神王の方もおられます。リナ様に今のところ適合者はおられないと聞いています」
「・・・」
「“依代”に選ばれるのは名誉なことです。選ばれるのは神王だけではありません。私たち民徒からも選ばれることがあります。実はリリーももうすぐ“転生の儀“を迎えます」
「え?」美理はマルゲリータを見る。
マルゲリータは平然としている。いや嬉しそうだ。
「・・まマルゲリータさんは、それで・いいのですか?」
「いい?なぜです?神王になれるのですよ。こんな名誉なことはありません」
「でも・でも、リリーちゃんじゃなくなってしまう」
「おかしな事をおっしゃる。・・・思い出しました。エレーヌ様もケーク様の“転生の儀“を嫌がっておられました。それでエレーヌ様はケーク様を連れて他の銀河へ行かれたと聞いています。で・・どうなったのでしょう?ケーク様はすぐに戻られて、つい先日オズマ様に転生されましたが・・申し訳ありません。記憶があいまいです」
「・・・」
<スペースインパルス>メインブリッジ。
「クィーン大使、お疲れ様でした。どうでしたか?」
「手ごたえはあった。君達の協力のお蔭でな。あとはもう少し時間をかけないと」
クリスが「動き出しました!大規模な艦隊の移動です!・・トスーゴ第一・四連合艦隊がアンドロメダ・銀河系方面へ向け進撃」
「先手をとられたか」
「流艦長。我々はここに残る。ATUから高官がこちらに向っている。到着次第、一緒にバール連盟との交渉を再開する。君達は帰還してくれ」
「クィーン大使、よろしくお願いいたします」
「まかされて」
「艦長、ここからだとアンドロメダより銀河系の方が近いです」
「うむ」
「ATUからの通信では、別方面・・第二・六・七艦隊の移動も確認されています。まるで・・」
「まるで?」グレイが訊く。
クリスは少し困って「四方八方へ一斉に移動」
メインパネルを見ていた流は腕組みをして言う。
「逃げているのではないか?ビッグバンから」
「!」
「モカ、ATU本部は何て言っている?」
「『銀河系アンドロメダ銀河の中間デロタ宙域を最終防衛線とし、全艦隊で迎撃せよ』」
「ワープブースター装着完了」マーチンはいつもいい仕事をする。
明は操縦桿を握る。
「緊急発進!銀河系へ戻る!」
クィーン大使らをATU艦隊に託し、<スペースインパルス>は帰路を急ぐ。




