異の玖 少年は初めの一歩を踏み出す
町が魔族とかいうすごい奴に襲われて燃えた夜から、二日経った。
襲ってきた相手はアイビスさん達がなんとか追い払ったらしい。
燃えてしまった町の後片付けが進む中、瓦礫運びやらを手伝っていた俺はアイビスさんに呼び出された。
「クロウ、ひと月だ。私達はこの町が復興するまでのひと月の間、ここに留まることにした」
化け物に引っ掻かれたせいで頭を包帯でぐるぐる巻きにされた俺に、アイビスさんはそう告げた。
怪我をしたものの、どうにか宿まで逃げかえることに成功した晩、傷ついた俺を見てアイビスさんはものすごく怒った。
そして、その後で頑張ったなと褒めてくれたのだ。
宿屋のお姉さんからも感謝された。
無茶をした俺のことを殺さんばかりにキレていたクライブさんからも庇ってもらったし。
死ぬ思いをした意味はあったんじゃないかな、と自分では思っている。
「ひと月、ですか」
「ああ。この町の周辺に例の魔族は拠点を構えているはずだ。それを叩くまでの間だと思ってくれ」
この世界のひと月が何日なのかは知らない。
だけど、そんなに長い時間ではないんだろう。
アイビスさんはタイムリミットを教えてくれているのだ。
俺と、別れるまでの時間を伝えてくれている。
「あの森の中で、君に言ったことを覚えているかい?」
「……はい。覚えてます」
アイビスさん達と一緒に行くという事は危ないということ。
それこそ毎日命がけになるはずだ。
そのことは身をもって味わった。
俺なんかがついて行っていい世界じゃない。
ここで分かれるのが正しいんだ。
頭でわかっていても、やっぱり少しだけ心細い。
黙って俯きかけた俺の頭に、アイビスさんがポンと手を乗せ、言った。
「あれは少しだけ、訂正する。私は君のことを誤解していたらしいからな」
「え?」
「君にその気があるのなら、私について来い。クロウ。ひと月は、そのための準備の時間だ」
「準備の……時間」
ついて来い、だって?
行っていいの?
俺が?
嘘か冗談かと疑い、固まった俺に、アイビスさんが笑みを向けてくる。
「ひと月の間、この町を元通りにするのを手伝いながら、できるだけ体を鍛えるんだ。簡単な戦い方も教える。君が私達と一緒に来ても大丈夫だと思えたら、ついてくるのを許すと、みんなで決めた」
みんなって、リファさんと、クライブさんまで?
あのおっさんがオッケーだと言う姿がまるで想像できない。それに。
「なんで、その、急にそんなこと……」
「私が、そして、リファも、クライブも、君に可能性を感じたからだ。体の強さでも、戦いの経験でもない。私達の旅にとって一番必要な素質を、君は持っている」
俺の頭に置かれていたアイビスさんの指が、そこに巻かれている包帯をなぞる。
治療してくれたリファさんが言うには、魔法で治療しても痕に残る傷なんだそうだ。
まあ、俺は男だから、ちょっとくらいの傷跡は気にならないけど。
「君は誰かのために命を懸けられる人間だった。怖くても、弱くても、人のために困難に立ち向かえる強い子だ。この傷がその証拠だよ。だから、私は、君に期待することにした」
ぐしぐしと、アイビスさんが俺の頭を撫でる手に力を込めて、笑う。
「急いで成長するんだぞ、クロウ」
優しく、でも、どこか悪戯っぽい笑顔で、そう言ったんだ。
こっちのクロウは、こっから地獄を味わうことになるのですが、それはまあ、別のお話。




