異の参 理不尽な暴力
「ほら、ガキ、お前のだ」
からん、と目の前に一本、棒を落とされた。
枝や葉を落としただけの木の棒は、手に持って振り回すのに丁度よさそうな長さだった。
クライブと呼ばれたおっさんは、その棒を拾えと視線だけで促してくる。
俺を助けてくれたアイビスさんや、魔法使いのような格好のリファさんが見守る中、焚き火から少し離れた場所に転がった棒へと恐る恐る手を伸ばす。
拾ってはみたものの、どうすればいいのかわからない。
杖にでもしろということなんだろうか。
「構えな」
おどおどする俺を見て、おっさんがしびれを切らしたように言った。
その右手にも、俺が持っているものと同じような木の棒が握られている。
いや、おっさんのやつの方が少し細いかもしれない。
構えろ、と言われても困る。
そりゃふざけて棒を振り回したことくらいはあるけれど、こういう雰囲気だとなんだか恥ずかしい。
俺はとりあえず、腰を落として、右手に持った棒をおっさんの方に向けた。
「ほ、こりゃ酷えな。それとも、そういう演技か?」
そんなに変だろうか。
可笑しそうに笑いながら、おっさんはひゅん、と音を立てて棒の先を俺の方に向けてきた。
ただそれだけで、棒の先っちょから息苦しくなるような気配が出ているのを感じる。
「あの、何を、するんですか」
「ああ? 言っただろ。お前を試すんだよ」
「試すって……」
「要領の悪い奴だな。つまり」
そこから先、おっさんが何をしたのか、俺にはほとんど分からなかった。
「こういうことだ」
自分の持っていた棒が横に弾かれた感触の後、二の腕で何かが弾けたような鋭い痛みが走った。
かと思えば、顎の先にもう一発、さらに左の太腿に一発。衝撃が立て続けにやってくる。
「うあ……ぐ、あ、いってえ」
悲鳴をあげる暇もなかった。
おっさんに棒で殴られた。
それがようやく頭で分かった後で、俺は地面にへたり込む。
とんでもなく、痛い。
なんでだ。
なんで俺が殴られなきゃいけないんだ。
悔しくて、情けなくて、ムカついて、目の中に勝手に涙が溜まっていく。
「ちょっと、あなたねえっ!」
「黙ってろや! 俺には俺のやり方があるっつったろ!」
「だからって……アイギスちゃんも、あれ、止めなくていいの?」
俺を庇うように声をあげてくれたリファさんが、おっさんには話が通じないと思ったのだろう。アイギスさんの方を見る。
「止めるのは無理、だろうね。見守るしかない」
「そんな!」
「がちゃがちゃうるせえなあ。安心しろよ。殺しゃしねえから」
とても苦々しい顔をしたアイギスさんと目が合った。
今にもごめんと言い出しそうなほど申し訳なさそうなのに、何もしてくれない。
どうして、さっきみたいに助けてくれないんだろう。
「おい、いつまでへたばってんだガキ。立てよ。男だろ?」
どうやらおっさんはまだ許してくれないみたいだ。
さっき俺を叩きのめした棒の先を、地面に転がったもう一本の棒へと向ける。
殴られた痛みで、手放してしまっていたのにも気が付かなかった。
「聞こえなかったか」
おっさんが構えた棒の先が、また、俺の喉元に向けられる。
怖い。
顔が勝手に引きつって歪むのがわかった。
「拾って、構えろ」
無表情で告げてくるおっさんの理不尽な態度に、今は、従うしかない。
俺はほとんどやけくそになって、自分の木の棒を掴み、立ち上がった。
体罰は駄目、ゼッタイ。
これが当たり前であるということは、世の中が平和である証拠何だと思います。




