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十二 窮地の二択

 このままだと、まずいな。

 殺されるかもしれない。


 左肘に負った切り傷から、生温かい血が指先に向かって伝っていくのが分かる。

 薄汚れたアスファルトに赤黒い滴が落ちては弾け、足元に小さな血だまりができ始めていた。

 出血の量からすると、太い血管に傷はついていないはずだ。

 肌は裂け、痛みもあるが動かせないほどじゃない。

 筋肉や腱が切れているわけでもなさそうだ。

 腕はまだ大丈夫。


 だが、問題は腕と同じように切られた右脚と、しこたま殴られた右脇腹だ。

 一歩踏み出そうとするたびに、ふくらはぎから鋭い痛みが走る。

 息を吸うだけであばら骨が軋み、思わず呻いてしまいそうだ。


 確実に何本かにヒビが入っているだろう。

 折れていないだけ、まだマシとも言えるわけだが。


 この状態では、逃げに徹することは難しそうだ。

 長引けば長引くほど不利になる。


「……つっても、こっちに有効打はなし、か」


 まいったな。

 手持ちの武器を思い起こしても、身の回りを見ても、起死回生の策は思いつかない。


「なんかガッカリじゃん? 尾長の話だと、もうちょい手応えあるのかと思ってたんですけど」

「油断するな。まだ何かしてこないとも限らないだろう」

「はああ、パパってばお堅すぎんのよねえ。どーせもう無理だって。ね、おチビちゃん」


 目の前に立つ二人組のうち、女の方が俺をせせら笑ってくる。


 自分の勝ちを確信しているその声色は腹立たしいが、その通りだ。

 打つ手はない。


 今、追い詰められているのは俺の方だ。


 それもこれも全て、俺が相手を見くびりすぎていたせいだ。

 厄介な相手だが、前もって準備をしておけば対処する方法はいくらでもあったはずなのに。


「悪く思うな。お前のような奴は、一度目で潰しておくに限る」


 そう言いながら、二人組の男の方がゆっくりとこちらに向かってくる。

 後は俺を仕留めるだけなのを理解しているんだろう。

 一歩一歩進むたびに地面を揺らす重たい足取りには、迷いがない。


 どうする。

 もう、時間も逃げ道もない。

 選ぶべき道は二つに一つ。


 このまま逃げ回って力尽き、殺されるか。

 それとも。


「………………」


 腹の底から焦りのほかに、別の感情が沸き上がってくるのがわかった。

 もう一つの道を選べば、取り返しがつかなくなる。

 それが分かっているから、自然と呼吸が荒くなっていく。


 自分で蒔いた種だ。

 思い上がって、準備を怠った罰は受けなければならない。


 殺されたくなければ、殺すしかない。

 そんなこと分かっては、いるんだ。


「終わりにしよう」


 男が振り上げた大きな拳が目の前に迫ってきても、俺はまだ、どちらに進むか選ぶことができなかった。

 久郎は異世界帰りで強いのですが、チートと呼べる能力は特に持ち合わせていません。

 無双してスカっと解決、みたいな展開にはならず、これから結構頻繁にピンチに陥るでしょう。

 そういう状態からどう成長していくのかもテーマになります。

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