第99話 ペコラの工房
工房の外観は至って普通と言うか、この辺りには色々な工房が多いらしく、似たような建物が多かった。
どの店先にも木製の看板が下げてあるので、これが目印なのだろう。
ペコラさんの工房の看板はシンボルマークのようだが、よく見ると平仮名になっている。
ぱっと見は羊が笑っている顔のようだが、これは平仮名の『ひ』を元にしたマークだと思う。
と言う事は、ペコラさんは元日本人の可能性が高そうだ。
友好的な人だと良いのだが。
期待を胸にドアを開ける、カランカランと大きなベルの音が響いた。
中は小さな商店のような造りになっており、棚には製品の織物がいくつか並べられている。
その手前はカウンターになっており、小さな子が1人で店番をしていた。
「いらっちゃいませぇ。」
カウンターからは顔しか出ていないけれど、クルクルくせ毛の頭からは獣耳が飛び出している。
その頭がカウンターの下へ引っ込むと、少ししてカウンターの横からこちらへと出てきた。
どうやらカウンターの向こう側で台に乗っていたようだ。
「こんにちは。俺はガルドって言います。ハナさんの紹介で来ました。」
俺は屈んでから話しかけた。
スカートを履いているので、どうやらこの子は女の子のようだ。
「ハナちゃんの!アレは持ってるですか?」
「コレの事かな?」
ハナさんから貰ったハンカチを手渡す。
「黄色ですねぇ。ちょっと待っててくだちゃい。」
女の子はハンカチを持って奥へと走って消えた。
黄色って言っていたけど、色に何か意味があるのか?
少し待っていると、奥からさっきの女の子が女性を連れて出てきた。
「お待たせしました。私がペコラです。ここで織物工房をやっています。この子はネーベ、私の子供です。」
「初めまして、ガルドです。サイモンの町で魔具師をやっています。今日はハナさんの紹介で伺いました。」
「あら、遠くからありがとうございます。こちらのハンカチはお返ししておきますね。」
「ありがとうございます。今日はお願いしたい物があるんですが。」
「それではそちらの席で話しましょうか。お連れの方はどうされますか?何なら工房内の見学も出来ますよ?」
「それじゃあ、リポポさん達は見学に行ってますか?」
「そうですね。面白そうなので見学させてもらいます。」
ピートも頷いている。
「それじゃあ、ネーちゃんはお姉さん達を工房へ案内してくれる?」
「はーい。こっちですよ。」
可愛いガイドさんに連れられてリポポさんとピートは行ってしまった。
ペコラさんが気を利かせて2人にしてくれたのだろう。
カウンター横のテーブルへと場所を移して本題へ入るとしよう。
「ガルドさんは転生組で良かったかしら?」
「そうですね。前世の記憶を最近に思い出したんですけどね。」
「そんな事もあるのね。」
「ペコラさんも転生組ですか?」
「えぇ、なぜか羊の獣人だったわ。羊は可愛いから良かったけどね。ふふふ。」
ペコラさんはフワフワなショートヘアに優しそうな垂れ目が印象的な雰囲気まで柔らかい女性だ。
娘のネーベちゃんはお母さん似だね。
「ちなみに、あのハンカチには何か意味があるんですか?」
「そんな大層な物じゃないけれど、合図にしてあるの。」
「黄色はどんな合図なんですか?」
「それはハナちゃんとの秘密よ。」
ペコラさんはウインクをして誤魔化した。
そう言われてしまうと、これ以上は聞けないか。
「残念です。あっ、ハナさんのお店でバスローブを見かけたんですけど。ペコラさんがあのタオル生地を作ったんですよね?」
「えぇ、あの生地はうちの工房で織ったオリジナル品よ。実は私、前にアパレルでテキスタイルデザイナーをやっていた事があるから、それを活かしたくて工房をやっているの。」
「なるほど、そうなんですね。あのタオル生地でバスタオルやフェイスタオルも作ってもらえますか?」
「もちろん、出来るわよ。フェイスタオルは知り合い用に作っているし。」
「そうですか!是非、俺にも作って欲しいです。こっちのタオルはペラペラで物足りなかったんですよ。吸水性が悪いのかお風呂の後もスッキリ拭けなくて。」
「あら!ガルドさんの家にはお風呂があるの?」
「はい。魔道具で自作しました。温度とか水圧を調節したりしたかったので。」
「それ!私も欲しいわ。こっちのシャワーってぬるいお湯が出るだけで物足りなかったの。ハナちゃんも絶対欲しがるわ。」
「もちろん、良いですよ。」
「あら、嬉しいわぁ。他にも私に出来る事なら協力するから相談してね。」
ペコラさんが友好的な人で良かった。
これからも協力してくれるみたいだし、良い関係を築いていけそうだ。




