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アンチ・マギア ~最低適性の僕は、まだ誰も知らない本当の魔法へ辿り着く~  作者: 山ノ上商会


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9/16

九条玲司


武器訓練から二日後。


午後の実践授業のため第二演習場へ向かうと、いつもより中が騒がしかった。


理由はすぐに分かった。


「今日は合同なんだ」


隣を歩いていた大和が、演習場の中を見ながら言う。


僕たちのクラスだけじゃない。


すでに別のクラスの生徒たちが集まり、壁際に座ったり、友人同士で話したりしている。


東央ではクラス単位の授業だけでなく、複数のクラスを集めた合同実践も定期的に行われる。


クラス内だけで訓練を続けていると、どうしても戦う相手や連携する相手が固定されてしまう。そのため、実践授業ではこうして別のクラスと一緒になることがある。


「結構いるな」


「二クラスだからね」


「単純に倍だもんな」


大和と話しながら、いつもの場所へ向かう。


すでに来ていた村上君が僕たちに気付き、軽く手を上げた。


最初の模擬戦以来、村上君とは少し話すようになった。


負けた直後は気まずそうにしていたけど、本人は思っていたより引きずっていなかったらしい。


むしろ最近は、


『次は絶対勝つ』


と言われている。


「今日は何やるんだろうな」


大和が腰を下ろす。


「合同だから、模擬戦とか?」


「またやるのか?」


「分からないけど」


話しているうちに、黒田先生が演習場へ入ってきた。


隣には見覚えのない男性教師もいる。


二人が中央へ立つと、それまで話していた生徒たちも静かになった。


「全員いるな」


黒田先生が僕たちを見回す。


「今日は一組と二組の合同実践だ。内容は対人戦。ただし、前にやった模擬戦とは少し違う」


やっぱり戦うらしい。


「今回は武器を使う」


その言葉に、周囲がざわついた。


黒田先生は気にせず続ける。


「もちろん訓練用だ。刃は潰してあるし、危険な攻撃は教師側で止める。身体強化も使用して構わん」


前回は素手だった。


今回は武器と身体強化。


より実戦に近くなる。


「勝敗条件も少し変える。降参、戦闘続行不能、場外。それに加えて、明確に攻撃を当てられる状態になったと俺たちが判断した場合もそこで終わりだ」


黒田先生が腰に差していた訓練用の剣を軽く叩く。


「刃を潰してるからって、本当に相手の頭をぶっ叩く必要はないからな。決まったと思ったら止めろ。俺たちも止める」


何人かが頷く。


「それと、今回は勝敗だけを見るつもりはない」


黒田先生が壁際に並べられた武器を指した。


「相手との間合い、魔力の使い方、武器の扱い。それから、自分より強い相手と当たった時にどう考えるか。色々見させてもらう」


自分より強い相手。


その言葉を聞いて、少し楽しみになった。


「組み合わせはこっちで決める。適性も実力も揃えるつもりはないから、そのつもりでいろ」


黒田先生が説明を続けていると、隣の大和が僕の腕を小さく叩いた。


「蓮」


「何?」


「あいつ」


大和が顎で二組の方を示す。


視線を向ける。


一人の男子生徒がいた。


身長は僕より少し高く、すらりとした体格をしている。整った顔立ちに爽やかな雰囲気もあって、黙っていても自然と目を引くタイプだ。


実際、近くにいる女子生徒たちが時折彼の方を見ながら、小声で何かを話している。


「九条だよ」


「九条……」


その名前には聞き覚えがある。


九条玲司。


今年の新入生で最も高い魔素適性を記録した生徒。


適性七十二。


「やっぱり目立つな、あいつ」


大和が呟く。


「そうだね」


「顔も良くて適性も高いって、ずるくね?」


「僕に言われても困るけど」


「それもそうだな」


九条君本人は、そんな周囲の視線を気にする様子もなく教師の説明を聞いていた。


「入試でも現役のディフェンダーに勝ったらしいぞ」


「知ってる」


入試結果の詳細までは公表されていないけど、実技で現役ディフェンダーを倒した生徒がいるという話は、入学してから何度か耳にしていた。


それが九条君だということも知っている。


「強いんだろうね」


「適性七十二で現役にも勝ってんだぞ。弱かったら詐欺だろ」


それもそうかもしれない。


「じゃあ始めるぞ」


黒田先生の声で、大和との話を切り上げる。


最初の組み合わせが呼ばれた。


◇ ◇ ◇


合同実践は、前回の模擬戦と同じ十五メートル四方の試合区画で行われた。


違うのは、二つの試合区画を同時に使っていることだ。


人数が倍になっているので、片方は黒田先生、もう片方は二組の先生が担当している。


僕たちは自分の出番を待ちながら、他の生徒の試合を見ることになった。


すでに何試合か終わっている。


武器が加わったことで、前回とはかなり違う。


適性で劣っていても、槍の間合いを利用して相手を近づけない生徒がいる。逆に適性は高いのに、武器の扱いに慣れておらず負ける生徒もいた。


適性だけでは決まらない。


前の模擬戦以上に、それが分かりやすく出ている。


「次、一組、村上颯太。二組、佐伯浩平」


「はい!」


村上君が立ち上がる。


「村上だ」


大和が前のめりになる。


「今度こそいいところ見せたいだろうな」


「この前の魔法では見せてたじゃん」


「戦闘でだよ」


村上君が選んだのは片手剣だった。


相手の佐伯君も同じ。


二人が試合区画へ入り、向かい合う。


「始め!」


ほぼ同時に身体強化が発動した。


先に仕掛けたのは村上君だった。


一気に距離を詰め、その勢いのまま剣を振るう。


佐伯君が受ける。


カンッ!


金属音が響いた。


そこから何度か剣がぶつかる。


やっぱり村上君は強い。


身体強化の出力も高いし、武器を持っても動きが大きく崩れていない。


佐伯君も負けてはいない。


正面から受けるだけでなく、剣を合わせて軌道を逸らし、そのまま反撃する。


しばらく互角の攻防が続いた。


それでも、少しずつ村上君が押し始める。


佐伯君が振り下ろした剣を横へ受け流し、そのまま踏み込む。


続けて振るわれた村上君の剣を、佐伯君が受け止めた。


カンッ!


次の瞬間、村上君が身体強化を乗せて剣を押し込む。


佐伯君の腕が大きく外へ弾かれた。


体勢が崩れる。


村上君はすぐに一歩踏み込み、剣を振り下ろした。


その剣が、佐伯君の頭上でピタリと止まる。


「そこまで。村上の勝ち」


「よし!」


村上君が小さく拳を握る。


戻ってくる途中で僕と目が合った。


少し得意げな顔をしている。


僕が素直に称賛の拍手を贈ると、村上君は満足そうに笑った。


何試合かが続く。


そして、大和も呼ばれた。


相手は適性四十六の槍使い。


大和より適性は低いけど、槍の長い間合いを使ってなかなか近づかせてくれない。


それでも大和は焦らなかった。


大盾で攻撃を受ける。


ただし、以前のように真正面から全部受け止めるわけじゃない。


盾を僅かに傾け、槍を横へ流す。


前の授業で教わったことをちゃんと使っている。


「おっ」


思わず声が出た。


槍が流れた瞬間、大和が前へ出る。


距離を潰された相手が慌てて槍を引き戻すけど、もう遅い。


大和が盾を前へ構えたまま身体を寄せる。


槍を振るうだけの空間がない。


相手が横へ逃げようとする。


大和もそれに合わせる。


さらに一歩。


最後は盾で進路を塞がれた相手の足が白線を越えた。


「橘の勝ち」


「よっしゃ!」


大和の声が演習場に響く。


「橘、うるさい」


「すみません!」


周囲から笑いが起きた。


でも、僕も少し嬉しかった。


大和はちゃんと強くなっている。


「次」


黒田先生がタブレットを見る。


「二組、九条玲司」


演習場の空気が少し変わった。


さっきまで座っていた九条君が立ち上がる。


「一組、高瀬悠真」


「はい!」


僕たちのクラスから男子生徒が立ち上がった。


高瀬君。


何度か授業で見ている。


魔素適性は確か四十台後半だったはず。


武器は槍を使っている。


九条君がラックへ向かう。


何を選ぶんだろう。


そう思って見ていると、手に取ったのは片手剣だった。


二人が試合区画へ入る。


「九条って剣なんだな」


戻ってきた大和が隣に座る。


「入試でも剣だったらしいよ」


「へえ」


九条君が剣を構える。


構え自体は特別変わったものではない。


むしろ綺麗だ。


余計な力が入っているようにも見えない。


対する高瀬君も槍を構える。


槍と剣。


単純な間合いなら、高瀬君が有利だ。


「始め!」


身体強化が発動する。


先に動いたのは九条君だった。


真正面から距離を詰める。


高瀬君には槍がある。


当然、近づいてくる九条君へ穂先を向け、そのまま鋭い突きを放った。


九条君が僅かに左へ動く。


槍が身体の横を抜ける。


そのまま前へ。


高瀬君が槍を引き戻す。


でも九条君は止まらない。


二撃目が来る前に距離を潰そうとしている。


高瀬君もそれが分かったのか、後ろへ下がった。


その瞬間、九条君が止まった。


「……?」


距離を詰めるなら、そのまま行けばいい。


でも九条君は追わなかった。


高瀬君も一瞬戸惑ったように見えたが、すぐに槍を構え直す。


九条君が右へ動く。


高瀬君の槍先も右へ。


今度は左。


それを槍先が追う。


その瞬間、九条君が一気に踏み込んだ。


高瀬君が槍を突く。


でも、さっきとは違う。


槍が僅かに遅れていた。


九条君が剣で穂先を外へ弾く。


カンッ!


一気に懐へ入った。


高瀬君が慌てて下がろうとする。


九条君も前へ出る。


でも、その動きを見ているうちに違和感を覚えた。


ただ追い掛けているわけじゃない。


高瀬君が右へ逃げようとすれば、その先へ剣を置く。


行き場を失った高瀬君が左へ動く。


そこへ九条君が踏み込む。


また高瀬君が下がる。


少しずつ、確実に白線へ近づいていく。


「……追ってるんじゃない」


思わず呟いた。


「何?」


大和が僕を見る。


「いや……」


九条君は高瀬君を追い掛けているんじゃない。


逃げる場所を一つずつ潰している。


高瀬君自身が選んで動いているように見えるのに、その選択肢を九条君が作っている。


高瀬君も白線が近いことに気付いた。


表情が変わる。


これ以上下がれない。


強引に前へ出ようと槍を振るった。


九条君が半歩だけ下がる。


槍が空を切った。


その瞬間には、もう九条君が懐へ入っていた。


剣先が高瀬君の胸元で止まる。


「そこまで」


黒田先生の声が響いた。


「九条の勝ち」


演習場が僅かにざわつく。


圧倒的な身体能力で吹き飛ばしたわけじゃない。


大技を使ったわけでもない。


それなのに、高瀬君は最後まで自分の戦いたい形で戦えていなかった。


「強え……」


大和が呟く。


僕も同じことを思う。


でも、それ以上に気になったことがあった。


黒田先生から言われた言葉を思い出す。


――自分から仕掛けて相手を動かす。


九条君は、それをやっていた。


最初に真正面から距離を詰めたから、高瀬君は槍を突いた。


それを避けられたから、次は距離を取った。


九条君が右へ動けば槍先で追い、左へ動けばまた追う。


一つ一つは、高瀬君自身が判断して動いている。


でも、その判断そのものを九条君が誘導していた。


「朝倉」


突然、黒田先生に呼ばれた。


「はい?」


「分かったか?」


一瞬、何を聞かれたのか迷った。


でも、すぐに分かった。


「……はい」


黒田先生が少しだけ笑う。


「なら、よく見とけ」


九条君が試合区画から出ていく。


その姿を目で追う。


適性七十二。


身体強化の出力だけでも、僕とは比べものにならない。


でも、たぶん九条君が強い理由はそれだけじゃない。


「次。一組、朝倉蓮」


名前を呼ばれる。


僕は立ち上がった。


「二組、藤堂亮介」


向こうから一人の男子生徒が立ち上がる。


僕はラックへ向かい、前の授業でも使った少し小振りな片手剣を手に取った。


柄を握りながら、さっきの九条君の戦いを思い返す。


自分から仕掛ける。


相手を動かす。


言葉で聞いた時は、まだよく分からなかった。


でも今なら、少しだけ分かる気がする。


試合区画へ入る。


藤堂君が向かい側で剣を構えた。


僕も腰を落とす。


「始め!」


身体強化を発動する。


藤堂君が動き出した。


いつもなら、ここで待つ。


肩や腰、脚の動きを見て、どこから攻撃が来るのかを読む。


でも今日は、それだけじゃない。


藤堂君が僕へ届くより先に、こちらから一歩踏み込んだ。


「っ!」


藤堂君の動きが変わる。


構えていた剣が僅かに上がった。


僕が動いたから、相手も動いた。


その変化を見ながら、僕はもう一歩前へ出た。

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