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アンチ・マギア ~最低適性の僕は、まだ誰も知らない本当の魔法へ辿り着く~  作者: 山ノ上商会


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5/16

粒揃い


あれから何度か、僕は白線の内側に立った。


結果は全勝。


それも、一度も相手の攻撃を受けることなく、全員を場外へ押し出すことができた。


もちろん楽だったわけじゃない。


僕より身体能力が高い人もいたし、身体強化の出力ならほとんどの相手が僕より上だった。


それでも、攻撃が来る場所は分かる。


力で勝てないなら、まともにぶつからなければいい。


避けて、崩して、相手の勢いを利用する。


昔からやってきた戦い方は、ここでも通用した。


「そこまで。朝倉の勝ち」


黒田先生の声を聞き、僕は息を吐いた。


「ありがとうございました」


「……ありがとうございました」


最後に戦った相手と頭を下げ、白線の外へ出る。


最初の時とは、少しだけ周囲の反応が違っていた。


「また一発も当たってないぞ」


「結局、全部勝ったよな?」


「二十一って何なんだよ……」


そんな声が聞こえてくる。


別に魔素適性が変わったわけじゃない。


二十一は二十一だ。


それでも、昨日その数字を見られた時とは、みんなの視線が少し違う気がした。


「蓮!」


戻ると、大和が手を上げる。


「また無傷じゃん」


「大和も全部勝ってるでしょ」


「まあな!」


自信満々に胸を張る。


大和も危なげなく勝ち続けていた。


午前中に指摘されていた魔力操作は、まだ上手いとは言えない。


身体強化をするたびに必要以上の魔力を使い、黒田先生にも何度か注意されている。


それでも五十八という適性と、生まれ持った体格の良さがある。


正面から大和を止められる生徒はほとんどいなかった。


「次。一ノ瀬凛。小林美咲」


黒田先生の声が聞こえる。


一ノ瀬さんが立ち上がった。


「六十七か」


大和が呟く。


僕も自然と白線の内側へ目を向けた。


一ノ瀬さんと、もう一人の女子生徒が向かい合う。


「始め!」


二人の身体を青い光が覆った。


先に動いたのは小林さんだった。


床を蹴って一気に距離を詰める。


一ノ瀬さんはその拳を正面から受け止めると、腕を外へ弾いて体勢を崩した。


そこへ一歩踏み込む。


速い。


一ノ瀬さんの掌が小林さんの肩へ触れ、そのまま身体強化の力で押し込んだ。


「きゃっ!」


小林さんの身体が後ろへ下がり、白線を越える。


「そこまで。一ノ瀬の勝ち」


「強っ」


大和が呟く。


僕も同じことを思った。


六十七。


やっぱり高い適性は、それだけでも大きな武器になる。


一ノ瀬さんはその後の試合も危なげなく勝ち続けた。


身体強化だけでも十分に強い。


少なくとも、今のクラスメイト相手なら余裕があるように見えた。


だけど。


この時の僕はまだ知らなかった。


一ノ瀬凛という生徒の本当の凄さは、身体強化なんかじゃなかったことを。


◇ ◇ ◇


夕方。


シャワーを浴びて着替えた僕は、大和と一緒に寮の食堂へ来ていた。


「腹減ったー」


大和がトレーを持ったまま呟く。


「今日ずっと動いてたもんね」


「俺、飯三杯いけるわ」


「毎日そんなに食べるの?」


「動いた日はな」


「今日が特別だったってこと?」


「……割と毎日三杯食う」


「じゃあ関係ないじゃん」


今日の夕食は生姜焼きだった。


ご飯と味噌汁。


サラダ。


小鉢。


それに牛乳。


空いている席に向かい合って座る。


「いただきます」


一口食べる。


美味しい。


運動した後だから余計にそう感じる。


「蓮」


「ん?」


「明日も朝走る?」


「走るよ」


「俺も行く」


「ちゃんと上着着てきてよ」


「いらねえって」


「四月だよ」


「走れば暑くなる」


昨日会ったばかりなのに、大和とは本当に話しやすい。


そんなことを考えていると、横から声を掛けられた。


「あのさ」


顔を上げる。


今日模擬戦をしていた田辺君と藤井君が立っている。


その後ろにも、同じクラスの男子が二人いた。


「ここ、いい?」


「うん」


僕が答えると、四人が空いている椅子へ座った。


いつの間にか、僕と大和だけだったテーブルが賑やかになる。


「朝倉、今日すごかったな」


藤井君が言う。


「そう?」


「そう? じゃないだろ。一回も攻撃食らってないじゃん」


「俺、村上とやったら普通に負けると思う」


田辺君が苦笑する。


「俺も」


別の男子も頷いた。


「というか、本当に二十一なんだよな?」


「うん」


「信じられねえ」


悪意のある言い方じゃない。


むしろ純粋に不思議そうだった。


昨日とは違う。


「適性だけじゃ分かんねえもんだな」


藤井君が言う。


「先生も言ってただろ。実戦じゃ全部が絡むって」


「それにしたって三十差を完封はおかしいだろ」


「蓮は昔から格闘技やってるからな」


なぜか大和が自慢げに答える。


「なんで大和が自慢するの?」


「いいだろ、別に」


「朝倉、何やってたの?」


「道場に三年くらい通ってた。その後は自分で続けてただけだよ」


「それであんな動きできんの?」


「できてるからしてるんだろ」


「橘には聞いてねえよ」


「なんだと?」


笑い声が上がる。


僕もつられて笑った。


昨日。


教室で二十一という数字を知られた時。


みんなの視線が少し気になった。


この学校でやっていけるのか、自分でも不安がなかったわけじゃない。


でも。


今は誰も僕の二十一だけを見ていない。


同じクラスの一人として。


同じディフェンダーを目指す仲間として。


少しずつ見てもらえている気がした。


それが、なんだか嬉しかった。


◇ ◇ ◇


同じ頃。


東央ディフェンダー高等学校、職員室。


黒田は自分の席でタブレットを眺めていた。


時刻は午後七時を回っている。


職員室に残っている教師も、もう多くない。


画面に表示されているのは、一人の生徒のデータだった。


《朝倉 蓮》


黒田が指を滑らせる。


一般科目。


国語、数学、英語。


どれも平均前後。


特別優秀というわけではない。


続いて専門科目。


《ディフェンダー基礎知識 A》


《魔物生態・対処知識 A》


「こっちは高いな」


両親を魔物に殺されている。


入学資料にはそう記載されていた。


その後は祖父母に育てられ、十二歳の頃からディフェンダーを目指して訓練を続けている。


知識についても、その頃から身につけてきたものだろう。


そして。


《魔素適性 21》


何度見ても変わらない。


機器の故障でもない。


過去の測定結果もほぼ同じ数値だ。


黒田がさらに画面を送る。


身体能力。


一般的な同年代と比較すれば上位。


だが、全国からディフェンダー候補生が集まるこの学校では中位程度。


魔力出力。


下位。


魔力操作。


上位。


ここまでは今日見たものと一致している。


問題は、その下だった。


《実技試験》


黒田の指が止まる。


東央の実技試験。


受験生は自分が得意とする武器や魔法の使用を許可され、現役ディフェンダーと戦う。


目的は試験官を倒すことではない。


その時点で、どれだけ実戦で動けるのか。


攻撃。


防御。


判断力。


魔力操作。


そして実戦への適応力。


それらを総合的に見るための試験だ。


だから現役相手に制限時間までまともに戦えれば、それだけでも十分に高い評価となる。


だが。


今年は何人か、その基準から外れた受験生がいた。


黒田が一度、朝倉のデータを閉じる。


そして、自分が担任を務める一年三組の入試結果を開いた。


最初に表示したのは――。


《一ノ瀬 凛》


《魔素適性 67》


黒田が実技試験の映像を再生する。


画面の中。


一ノ瀬が試験官と向かい合っている。


武器は持っていない。


「始め!」


試験開始と同時に、一ノ瀬の周囲へ魔力が集まった。


次の瞬間。


複数の光弾が試験官へ向かって放たれる。


試験官が横へ跳ぶ。


一発目を回避。


だが、その先へ二発目が飛ぶ。


さらに三発目。


一ノ瀬は試験官の動きを追いながら、次々と魔法を放っていく。


最後は防御を突破され、試験官が膝をついた。


《結果――一ノ瀬凛 勝利》


黒田が映像を止める。


「六十七とはいえ……入学前でこれか」


身体強化も悪くない。


だが、一ノ瀬の本領は明らかにこちらだ。


次。


《橘 大和》


《魔素適性 58》


映像を再生する。


試験官は若手の現役ディフェンダー。


対する橘は、学校側が用意した試験用の大型盾を構えていた。


開始直後から試験官が攻撃を仕掛ける。


拳。


蹴り。


そして、刃を潰した試験用の剣による一撃。


橘はそれらを盾と身体強化で正面から受け止め続けた。


魔力操作は荒い。


今日と同じだ。


必要以上の魔力を使い、力任せに防いでいる。


だが、それでも崩れない。


最後まで試験官は橘の防御を突破できなかった。


《結果――時間切れ》


《判定――引き分け》


《評価:防御能力A》


《備考:魔力操作に大きな改善余地あり》


「こいつは分かりやすいな」


黒田が小さく笑う。


鍛えれば優秀なタンクになる。


そして。


次。


《朝倉 蓮》


《魔素適性 21》


黒田の表情から笑みが消える。


映像を再生する。


画面の中。


朝倉が刃を潰した試験用の剣を構えている。


体格に合わせた、少し小振りな剣だ。


試験開始。


試験官が踏み込む。


振るわれた剣を、朝倉は僅かに身体をずらして躱した。


続く横薙ぎも避ける。


試験官が距離を詰めても、朝倉は大きく逃げない。


攻撃の軌道から必要な分だけ身体を外し、その隙に剣を振るう。


朝倉の剣が試験官の防具へ触れる。


だが、浅い。


魔力出力が足りない。


何度か攻撃を当てているものの、現役ディフェンダーの防御を突破するだけの威力はなかった。


試験時間が半分を過ぎる。


そこで、試験官の動きが変わった。


速度が上がる。


それでも朝倉は避ける。


さらに一段階。


朝倉は攻撃を避けながら、隙を見つけては反撃する。


結局、試験終了まで一度も試験官の振るう剣が朝倉を捉えることはなかった。


《結果――時間切れ》


《判定――引き分け》


黒田は画面を止めた。


続いて、試験官の所見を開く。


《攻撃力不足》


《魔力出力は合格者平均を大きく下回る》


そこまでは分かる。


だが、その下。


《回避・予測能力は受験生の水準を大きく上回る》


《試験後半、出力を段階的に上昇させるも有効打なし》


そして。


《本人に特殊能力使用の自覚なし》


黒田はその一文を見つめる。


「……やっぱり入試でもか」


今日と同じ。


相手の動きを先に知っているかのような回避。


朝倉本人は感覚だと言った。


格闘技経験によるものも間違いなくある。


だが。


本当にそれだけなのか。


黒田は椅子の背にもたれた。


「今年の一年は粒揃いかもな」


一ノ瀬。


橘。


朝倉。


自分のクラスだけでも、かなり面白い生徒が揃っている。


そして、黒田の頭にもう一人の名前が浮かんだ。


今年の新入生の中で、教師たちの間でもすでに話題になっている生徒。


黒田が別のクラスのデータを開く。


《九条 玲司》


《魔素適性 72》


今年の新入生主席。


七十二という適性。


さらに実技試験では、現役ディフェンダーに勝利している。


そこまでは黒田も知っていた。


だが、実際の試験映像までは確認していない。


黒田が実技試験の項目を開く。


試験官の名前が表示される。


その瞬間、黒田の眉が僅かに動いた。


「こいつが相手だったのか」


新人ではない。


現役の中でも、戦闘能力に定評のある隊員だった。


《結果――九条玲司 勝利》


結果は知っている。


問題は、その内容だ。


黒田が映像を再生する。


九条が刃を潰した試験用の剣を構える。


向かい側では、試験官も同じく試験用の剣を構えていた。


開始。


そして――。


数分後。


映像を見終えた黒田は、しばらく何も言わなかった。


「……完封じゃないか」


九条は勝った。


ただ勝っただけではない。


試験官にほとんど主導権を渡していない。


攻撃を捌き、反撃し、相手が魔法を使えばそれにも対応する。


最後は正面から試験官の防御を打ち破っていた。


魔素適性七十二。


それだけでも十分に異常だ。


だが。


九条玲司の本当の強さは、その数字だけでは説明できない。


一ノ瀬凛。


橘大和。


朝倉蓮。


そして――九条玲司。


黒田は椅子の背にもたれ、しばらく天井を見上げた。


「……今年は、とんでもないのが揃ったな」

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