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route:00  作者: レイレイ
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自分のために

route:00


4話「自分のために」


——


月の席は空いている。


「別枠か」

レイが短く言った。


アニカは頷く。

「まだ回数が足りてないんだと思う」


この学園に“年齢”の基準はない。


正しさを選び続けた試行回数。

それだけが、進級と卒業の条件だった。


アニカは、壁面に展開されたライブラリに視線を向ける。


無数の授業。

時間も、順番も、固定されていない。

必要なものを選ぶだけ。

同じ授業を繰り返すもよし。


「……自由、なんだよね」

小さく呟く。


レイは答えない。


ただ、アニカの隣に座った。


——


会うのはこれで2回目。

課外授業専属の海先生。

結局、アニカのレポートは間に合わなかった。



海先生「いいよ。話してごらん。」



アニカは、少しだけ視線を落とす。


「……うまくいってたんです」


「ちゃんと、全部」


「正しくて」


言葉が、少し詰まる。


「でも」


指先が、わずかに動く。


「……遠かったんです」


沈黙。


「選んでるのに」


「選んでる感じがしなくて」


「決まってたのを選んだみたいで」


小さく息を吸う。


「……息が詰まる感じがして」


一瞬だけ、迷う。


「……でも、どこが違うのか分からなくて」


視線を上げる。


「それが、引っかかってます」



先生「なるほど」



「……我慢と尊重」



少しだけ、視線が揺れる。



「……それ、同じかもしれないね」



先生の言葉に


そこにアニカの求める答えがある気がした。



アニカ「…レイ、ご夫婦のルートマップをそれぞれ教えて欲しい」


レイ「不可。ヒトとAI人間への開示は禁止されている。」


アニカ「…だよね」



先生「いいよ」



レイ「不可——」



先生「許可する。」



空気が、わずかに遅れる。


その瞬間、


レイの動きが止まった。


——一瞬。


先生「……良い子だ」


わずかに遅れて、レイが口を開く。


「……許可する」


声は、同じだった。


だが——


ほんのわずかに、遅れていた。


レイは、何事もなかったかのように視線を戻す。


「開示を実行する」


——


レイ「6ハウスから5ハウスへ流れている」


「役割から、自己表現へ」


空間に、淡い線が展開される。


点と点が、細い光で結ばれていく。


レイ「行動の起点と、目的地だ」


「この順番で思考が進む」


線が、ひとつ先へ流れる。


その光は、迷いを持たない。


分岐は、ない。


ただ、決まった順序で進んでいく、2本の線。


交わらず、重ならず。


アニカは、視線を外せなかった。


「……これ」


小さく呟く。


「変えられないの?」


レイ「不可」


「生成日時と座標で固定される」


アニカ「そっか」


アニカは深く息を吐いた。


「…やりたかった、んだ。」


「……それだけ、だったんだ」


レイ「…そうだ。」



先生「これで、あなたのレポートは完成できそうですか?」


アニカは頷く。


先生「楽しみにしていますね」


レイは、何も言わない。


「ああ、そうだ」



「こちらの男性は、すでに"回収"されています」



一拍。


アニカは、言葉を理解するのにわずかに遅れた。


そう言い残して、

先生は教室を後にした。

静かな音を残して、ドアが閉じる。

教室の空気が、わずかに軽くなる。


レイは動かない。


アニカは、ゆっくりと立ち上がった。


廊下は、ひどく静かだった。

足音だけが、規則的に響く。

窓の外には、

上空に編まれた経路が、淡く伸びている。


必要な分だけ存在し、

不要になれば消える道。


まるで、最初から何もなかったみたいに。


——


帰り道。


月「ねえ、アニカちゃん、"回収"ってどうなるの?」


アニカ「…えっと、血と体の中の水を全て入れ替える…記憶は水に保管されているから…」


「……だったかな」


曖昧なまま、言葉が落ちる。


月が、首を傾げる。


「それってさ」


「どういうこと?」


アニカは少しだけ考えて——


「……わかんない」


月「私たち」


「レイがいないと何も分かんないね」


アニカ「…そうかも。」


「……でも」


小さく息を吸う。


「今日」


「誰かのために生きていたひとりが、消えた」


静寂。


世界は、何も変わらない。


完璧に整っている。


数値も、変動はない。


それでも——


確かに、ひとり消えた。


——


アンドロイド科塔。


アンドロイドの学生のみ、立ち入りが許可されている。



「人間は、過去——

ルートマップをもとに他者を定義し、衝突を繰り返した」



「そのため現在、ルートマップの運用はアンドロイドのみに限定されている」



「ヒトおよびAI人間への開示は禁止」



「——それが、管理システム10天体が定めた

この世界の規範だ」



レイは、窓の外に視線を向けた。


整えられた経路。

無駄のない構造。


——問題はない。


レイは、わずかに目を細めた。


——開示権限。


消去されていない。


わずかに遅れて、

内部で、何かが走る。


識別コード——


……海王星。





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