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route:00  作者: レイレイ
第1章 学園編
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卒業通知

route:00


22話「卒業通知」



朝。


アニカは、

自分の部屋で目を覚ました。


窓の照度が、

起床時間に合わせて少しずつ上がっている。


端末は、

まだ何も読み上げていなかった。


静かだった。


隣に、

誰もいない。


それだけで、

胸の奥が痛くなった。


月ちゃん。


名前を、

心の中で呼ぶ。


それだけで、

涙が出た。


アニカは、

布団の中で目を閉じた。


泣かないようにしたわけではない。


止め方が、

もう分からなかった。


しばらくして。


涙が少し落ち着くまで、

そのままでいた。



廊下。


講義区画へ向かう途中、

アニカは足を止めた。


壁際に、

小さな休憩スペースがある。


前に。


月と、

甘いものを分けて食べた場所。


月が、

アニカの分まで取ろうとして。


アニカが怒って。


月が笑っていた場所。


空いている椅子。


何も置かれていない机。


もう誰も座っていないのに、

そこだけ月の形が残っているように見えた。


アニカは、

視線を逸らした。


でも。


一度見てしまったものは、

見なかったことにはできなかった。


涙が、

また落ちる。


アニカは、

袖で拭った。


拭っても、

また落ちた。


通り過ぎる学生たちは、

誰も立ち止まらない。


講義開始時刻。


移動経路。


次の予定。


みんな、

自分の進行に戻っていく。


アニカだけが、

そこに残っていた。


アニカ

「……月ちゃん」


声に出した瞬間、

息が詰まった。


声は、

思ったより小さかった。


返事はなかった。


当然だった。


それでも。


呼ばなければ、

もっと遠くへ行ってしまう気がした。


アニカ

「月ちゃん」


もう一度、

呼んだ。


涙が止まらなかった。



その日。


アニカは、

講義へ行かなかった。


自室へ戻り、

寝台の端に座っていた。


何かを始める気力もない。


端末を開く気にもならない。


食事通知も。


講義通知も。


未処理のまま、

画面の端に積み重なっている。


アニカは、

膝を抱えた。


このまま。


何もしないまま。


誰にも会わず。


何も見ず。


何も選ばず。


少しずつ、

小さくなっていく。


そんな自分が、

頭に浮かんだ。


怖かった。


月がいないことと同じくらい。


このまま、

自分までいなくなっていくことが。


アニカは、

顔を上げた。


海先生の声を、

思い出した。


あの日。


海の前で、

言われた言葉。


海先生

「悲しみを、

そのまま誰かへ渡すのではありません」


「怒りを、

そのまま世界へぶつけるのでもありません」


「でも、

無かったことにもしない」


「あなたが見てしまったものを」


「あなたが苦しいまま綺麗だと思ったものを」


「どういう形で世界へ戻すのか」


「それが、

あなたの次の課題です」


アニカは、

その言葉を何度も思い返した。


意味は、

まだ全部分からない。


月を失った悲しみを、

何に変えればいいのかも。


どこへ返せばいいのかも。


まだ分からない。


でも。


今は。


分からないままでも、

その言葉に預けてみようと思った。


自分ひとりでは、

この先を決められないから。


アニカは、

ゆっくり端末へ手を伸ばした。


未処理通知が、

いくつも並んでいる。


食事。


講義。


体調確認。


出席要請。


その中に。


見慣れない通知が、

ひとつだけあった。


【卒業判定照合完了】


アニカの指が止まる。


表示を開く。


【対象個体:ANIKA】


【卒業判定:承認】


アニカは、

しばらく文字を見ていた。


卒業。


その言葉に、

何も実感がなかった。


喜びも。


達成感も。


終わったという感覚も。


何もなかった。


ただ。


次へ進むことだけが、

決められている。


そんな通知に見えた。


表示が、

続く。


【卒業対象個体】


【REI】


【AMANE】


アニカは、

二つの名前を見た。


レイ。


天音。


月の名前は、

なかった。


分かっていた。


それでも。


そこに名前がないことを確認すると、

また涙が出た。


アニカは、

端末を閉じなかった。


泣いたまま、

表示を見ていた。


卒業対象個体。


三名。


アニカは、

小さく息を吸った。


その時。


新しい通知が、

重なるように表示された。


【卒業決定個体向け最終講義】


【受講要請:必須】


【講義名:人類定義論】


アニカは、

その文字を見た。


人類。


定義。


月は、

ヒトではなかった。


そう分類されていた。


でも。


アニカにとって。


月は、

月だった。


端末の表示が、

静かに光っている。


アニカは、

しばらくその文字を見たあと、

ゆっくり立ち上がった。


涙は、

まだ止まっていなかった。


それでも。


このまま、

何もせずに小さくなっていく自分のままでは、

いたくなかった。


まだ、

いくらでも泣ける。


苦しくて、

仕方がない。


でも。


アニカは、

涙を拭った。


そして。


最終講義への参加通知を、

承認した。





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