のどかな昼下がりに
「──というのが超力棟、ひいては超能力科の概要となる。口頭の説明では軽い認識になるが、覚えておいて損はない」
「へー、超能力。地球にはそんなのがあるんだ」
シャリアを連れたアキト達は、出迎えに来た柊ユウヤと合流。
彼の案内で歩く道中、気になっていた単語の正体を語られ、知ることが出来て納得したのか、シャリアは幾度となく頷いてみせた。
そうしている内に超力棟付近にある休憩スペース。その内の一つを占領し、各々の弁当を広げ始める。
「歓迎会の時は詳しく話す機会ではなかった故、軽く科の名前を出した程度だったな。……実演するならば、こんな感じだ」
「わっ、浮いてる。なのに、魔力の繋がりが感じられない……魔法由来じゃない特殊な現象を引き起こす能力なんだ」
ユウヤは己の能力である“浮遊”で箸を浮かばせ、超能力が実際になんたるかを見せつける。
地球人に限らず、ネイバーからも理解を得られず忌避されがちな力。
されど、それを見たシャリアは最初こそ驚いた様子だったが冷静に分析し、自分なりの解釈に落とし込んで理解した。
「珍しいな。俺ん時は訳分かんねぇ力だってんで滅茶苦茶ビビり倒してたんだが、受け入れんの早くね?」
リフェンスは自身が作成してきた、茶色いおかずだらけの弁当箱を開けて、いただきますと呟いてから。
揚げ物を口内に放り込み、シャリアの反応にぼやいた。
彼に限らず、以前超力棟へ出向いたイリーナもそうだが、超能力の脅威に晒された経緯を持つ。
空間転移からの拘束というコンボでないにしろ、初めて見たのなら怯えるくらいはしそうなものだ、と。
そう考えていたリフェンスだが、シャリアは首を傾げ、考え込む素振りを見せてから頭を振る。
「びっくりはしたけど、そこまでではないかな。ほんの少し性質が違うだけで、根幹は魔法と何も変わらないように思えたから」
「根幹?」
「何を対価として、何を要求するか。世界のルールを限定的に作り変えることに必要な要素が違うってだけじゃないかな」
疑問を口にしたアキトへ応えながら、シャリアもまた、マシロが手ずから用意してくれた彩り豊かな弁当を広げる。
「魔法みたいに感知できない、察知できないのはメリットになるけど、デメリットでもある。その矛先が自分に向けられたら、きっと分からないんじゃないかな。逆に、こうして見えてる以上……」
超能力に関する考察を語りながら、シャリアが指先をくるりと回す。
体内を循環する魔力の余波。その伝播を感じ取ったリフェンスがピクリと肩を揺らした瞬間、ユウヤが浮かばせていた箸が風に絡め取られた。
超能力から主導権を奪われた箸は、改めて呆けたユウヤの手に収まる。
時間にして数秒と経たない内に、浮遊が無力化されたのだ、と。超能力が解除された感覚にユウヤは目を見開く。
「こんな感じに、対応策はいくらでも取れちゃうよ。むしろ魔力干渉が起きない分、対処は楽な部類に入るし。過剰に怯える必要は無いんじゃないかな」
「あー、言われてみりゃ確かに? 浮遊なら浮遊に類似した魔法で制御権を奪っちまえばいいのか。頭が固くて考えられなかったぜ」
「ふむ、実際に超能力が消え失せたのは事実。魔法による権限の奪取か、そもそも魔力自体を網の様に周囲の空間に展開。発動段階まで待機して網に掛かったら一瞬で……という手段が取れるな」
「大体インベーダーや対人戦の時って見敵必殺が常だからな。いかに魔力のロス無しに対応できるか否かで、継戦能力も左右されるんだ」
リフェンスがあっけらかんと言ってのける内容は、正しい。
人類や文明の破壊者たるインベーダーは、それらの痕跡を発見次第、己の糧とするべく周辺被害を考慮せず行動に出る。
少しばかり知恵の回る者がいれば、地形を利用して狩場を作るだろう。
あるいは配下を従え、徒党を組んで攻め立て利潤を得ようとするだろう。
情けが無ければ容赦も無い、本能から来る生存戦略。ゲートという、一部を除いて不確定要素の塊であるそれらを、我が物の如く扱い、駆使してくる連中から身を守る術とは何か。
そう、躊躇いなき自衛──あるいはサーチ&デストロイしかない。
故に凝り固まった思考では、先手が取れなければ死か致命傷が確定するという考えが先行し、後手での対応に回らなかったのだ。
「つっても、そう簡単な話じゃあないけどな」
続々と弁当箱の中身を消費していくリフェンスは、思わぬ展開から進んだ話題に捕捉をねじ込んだ。
一般的に魔力は魔法へ変換しなければ、使用するに効率が劣悪すぎる。
例として魔力量が一〇〇の値である内、半分の五〇を消費して魔法を撃てる回数は一〇回以上。
そこに等級などで分けられた魔法、術式変換による追加能力などを加味すれば、相応に消費も増える。それでも状況や場面に即応した魔法が使えるのは、不測のピンチを打開するに十分な代物であった。
ただし、仮に残った五〇を魔力そのままとして行使する場合。
気体のように、もしくは液体や固体のように、体外へ放出した魔力は即座に大気へ溶けだしていく。
偶にアキトがインベーダーに襲われた際、建物などの崩落から身を守る魔法“シールド”。あれはマギアブルに貯蔵された魔力エネルギーを消費して、かなり近しい現象を引き起こしている。
魔力は濃度によって溶出する時間は変わるが、いずれにせよ数秒と経たずに霧散し、放出者の制御から離れていく。
逆に大気中の魔力を手繰るには魔法へ変換するしか方法が無く……そういった点から、リフェンスは魔力の扱いは本来デリケートなものだと言ってみせる。
「だからリソースそのものである魔力を、直接ソナーの代わりとして使うなんてマネはしない。もったいねぇからな。だが……」
「限定的かつ局所的な状況であれば、有用ではありそうだな」
「見極めは大変かもしれないけど、超能力対策に関して一歩前進した気がする。すごいな、シャリア。そんなとこに気づくなんて」
「何かの参考になったのなら、よかった」
アキトの称賛に、気恥ずかしそうに頬を掻くシャリア。
意図せずして超能力、とりわけ目下問題として大きな存在になっているテレポートについて対策が取れそうだ、と。
確かな手応えを感じたリフェンスとユウヤは、対超能力用の機材作成に手間取っているマシロへ伝えてあげようと思った。
……が、そこでハッと我に返る。
「やべっ、普通にメシ食ってパフアを案内しようと考えてたのに、ついつい話し込んじまった」
「この面子で集まると、自然に夜叉関連の課題へ推移してしまうな。これはよくない、よくないな……自省しなくては」
「超能力が夜叉関連……?」
「隠したい訳じゃないけど、詳しくは人の目があるパフアじゃ話せない。ポラリスでなら、どうしてオレ達が悩んでるか教えるよ。それまで待ってて」
「わかった。マシロさんもいた方が、話は進みやすいもんね」
「理解が早くて助かる。さっ、今は折角の昼休み。ちゃんと弁当を食べて、午後の授業に挑まないとね」
「うっ……そっか、また教室で質問攻めに遭うのかぁ。……ちゃんと応えられるように、考えておかないと」
「ある程度想定しておく? 心構えは大切だよ」
「円滑なコミュニケーションの始まりとして大事な部分だからな」
「つっても、シャリアの個人的な話になったら……あんまり言いたくねぇけど、暗くならねぇか?」
「ワタシ自身、凄い境遇だなって思うから……」
各々が抱える問題に思いを馳せつつも。
昼休みの穏やかな空気に、不慣れな学校生活への悩みを打ち明けるシャリアへ親身に接しながら。
和気藹々とした光景を繰り広げるアキト達であった。
「ニューエイジから本郷博士へ。監視対象、天宮司アキトの動向に異変は見当たりません。年代こそ違えど友人と集まり、昼食を取っています」
『了解した。ネビュラスが彼の身柄を狙っている可能性がある以上、パフアであっても気を抜くことはできない。引き続き目を光らせてくれ』
「分かりました。通信解除」
「ねぇ、マヨイ~。アタシらこんなとこで覗き込んでるの怪しくない?」
「うら若き実習生が三人して一堂に会し、わざわざ昼餉を持ち寄って食いながら、一部の生徒を木陰から見つめている状況。……うむ、事案だな」
「第三者視点から見た私達を冷静に分析しないでください……!」
アキト達から遠く離れた場所で。
ニューエイジの三人は密かな監視を実行していた。




