ニューエイジの監視
『……以上が天宮司アキトから緑川ヤナセにまつわる謎の全貌だ』
本郷博士がアキトとヴィニアの住処を離れて数十分後。
到着したアストライア本部。ニューエイジ用の執務室に集まったマヨイ、リン、エイシャは緑川ヤナセの映像データを見せられた。
続々と打ち明けられる真実。
天宮司アキトという存在。
彼の生存によって生じる数々の問題。
密かに調査していく内に重なっていく謎。
その解明の一助となるのでは、と。備えた心構えを砕くように、想像を絶する内容の連続で表情はどんどん暗く固くなっていく。
ヤナセの本郷博士に対する激励が終わり、映像データが停止した後の空気は、痛いほどに重苦しかった。
『機材が整っているこの場で映像解析を並行して行ったが、改変された余地なども見られなかった。……否定したい気持ちは理解できるが、すべて真実だ』
『天宮司君が、ネビュラスの改造人間……』
『やっぱり味覚異常は怪人化薬の影響だったんだ……』
『魔法ありきとはいえ、地球人らしからぬ身体能力の正体も判明したな』
三者三様に衝撃を受け、されど納得する部分もあった。
しかし誰もが少なからず言葉を交わし、日常的に関わりを持つ相手が、知らずの内に最重要人物になろうとは思いもしなかったのだ。
『君達がショックに感じるのも無理はない。これを共に見たアキト君の保護者、ヴィニア氏も心を痛めている様子だった』
『そりゃあ、我が子同然の弟分が改造されてたなんてキツいでしょ……』
兄弟姉妹の多い家庭で育ったリンは、もし自身がその立場にいたとしたら、と。想像し、身をつままれるような気持ちを抱く。
彼女だけでない。マヨイとエイシャも一目置いていたアキトに対する感情が乱れ、無意識の内に胸元へ手を置いた。
『だが、手をこまねいている状況でもない。事後報告になって申し訳ないが、ヴィニア氏にはこちらが把握した情報を共有させてもらったと同時に、君達の素性を明かすこととした』
『それは……いえ、同じパフアにいる身として警護に当たることが出来るから、ですね?』
『夜叉の変身者捜索が優先されるが、な。加えてアキト君が自身の正体を勘づかないよう、全面的に協力体制を取る運びとなっている。緊急時の連絡手段として私か三人の誰かへ直通で繋がる番号も渡した。生活に違和感を抱けば、即座に掛けてくるだろう』
『周到だな。まあ、そこまでする理由としては十分過ぎるか』
一日にして扱いがトップシークレットとなったアキトの顔を想像しながら、本郷博士とニューエイジは会議を進める。
『彼はもはやネビュラスにとっても、アストライアにとっても捨て置けない存在と化した。私が持つ、彼に関する書類とデータも既に削除した。ロゴスにも協力してもらい、完全にな。何を拍子として目を付けられるか分かったものではない』
『賢明な判断かと。私達も察せられないよう天宮司君に目を付けておきます。彼はとても聡いので、疑われない程度にですが……』
『たまーにだけど、同年代と喋ってるのかな? って思う時があるからねぇ。しかもこないだのマラソン大会でさ、カモフラで隠れてたインベーダーを探し当てたんでしょ?』
『うむ、我が駆け付ける直前に的中させていた。たとえそうであれと手が加えられた身だとしても、あの冷静な視座と他者に寄り添う心根。武の極致の一端に触れた技量は、決して侮れるものではない』
『ダークエルフ族の君が手放しで褒めるほどか……?』
異世界において森の狩人と称される者達の中で、ダークエルフ族は魔法を主とするエルフ族に比べて武術に精通している。
近接戦で油断ならない相手とはどの種族か。
そんな質問を街頭で行えば、十中八九、名を挙げられる種族なのだ。
ダークエルフ族の中でも戦士として隔絶した力量を持つエイシャが称賛する。それだけでアキトがどういう存在であるかを示していた。
『では──改めて総括に入る』
本郷博士はヤナセの映像データが入ったUSBを片手に。
『これより我々は天宮司アキトの監視および保護を目的として行動する。これは本来アストライアが実施する作戦にない例外となる。ニューエイジには負担がかさむこととなるが、私の方でも出来る限り支援しよう』
『場合によっては付近に怪しい人物がいないか、作戦室で監視カメラを確認していただく必要があるかもしれませんね』
『いうても、あんまり派手には動かず、もしバレそうになったら自然体にそれとな~く接する……で、いいよね?』
『ああ、下手に意識して支障が出てはいかんだろう。あくまで実習生として、彼を気に掛ける……そんな素振りで行こう』
こうして、緑川ヤナセと確かな血統を感じさせる、無茶を承知した上で独自の判断で作戦を立てた本郷博士。
身近な存在が脅威にさらされると知り、それが学園島の住民かつパフアの生徒である以上、協力する姿勢を崩さないニューエイジ。
アストライアに籍を置きながら規則に反するような内容だとしても、考案した監視を実行に移すのだった。
◆◇◆◇◆
「教室に戻ってからアキト君のことをこれでもかってくらい質問されたんだけど、なんでだか分かる?」
「あ~……コイツ、上級生だろうがネイバーだろうが関係なしに、物怖じしないで色々と動き回るからパフアで有名人なんだよ。そのおかげでこっちは知らないのに、向こうは知ってるみたいな状況が多発する」
「わたしのような超力棟に所属する者は出不精だからな。知る由ではなかったのだが、噂を聞くにかなり話題に上がっているようだぞ」
「そんな注目の的みたいな感じなのか、オレって」
「積極的に教師の頼み事やら生徒が困ってる事を解決してるし、そうなるのもさもありなんって感じだがな」
「道理でアキト君との関係性とか、好きな物とか好みのタイプとか聞かれるわけだよ。……ワタシだってまだ知らないのに」
「なんか、ごめん……」
時刻は変わって、放課後。
それぞれの教室で時間を過ごし、昼休みと同様に集まった四人。
雑談しながら昇降口を出ていく──そこから少し離れた位置で。
「ふむふむ。以前から繋がりのあるシャリアって子がパフアに編入して、色々と面倒を見てあげてるって感じなんだね」
「件のネビュラスに利用されかけた女子だったか。本郷博士が自制と善性に長けた素晴らしい子だと褒めていたな」
「最近になって逆波さんが後見人として名乗り出たそうで。天宮司君は関係者としてお見舞いにも行っていたそうですよ」
教育実習生としての業務に徹するフリをして。
校舎の柱に隠れ、監視と尾行を続けるニューエイジの三人がいた。
「とりあえず今日はこのまま帰るっぽいかな? 確か送迎に逆波さんが来るみたい話を職員室で又聞きしたよね?」
「噂をすれば、当人がやってきたようだぞ」
校舎に繋がる、並木道を歩く四人の後をつけて。
校門から駆け足でやってくる、見覚えのある女性をエイシャは指差す。仕事終わりにすぐやってきたのだろう、作業服姿のマシロが腕を振って四人に近づく。
「みんな、お疲れ様ー! シャリアちゃん、今日はどうだった?」
「授業は問題なく追いつけそうですけど、人がたくさんいて大変でした……あっ、お弁当ありがとうございます。美味しかったです」
「ほんと? 良かったぁ。ポラリスで余った物とか野菜を詰め込んだだけだからさ、バランスとか度外視だったんだよね」
「全部揚げ物のリフェンスより健康的で良いと思う」
「うるせっ。カロリーたけぇの食いたいんだよ」
「さすがに限度があると思うぞ……?」
昼休みにお互いの弁当を見合い、感じていたことを話しながら。
マシロを加えた集団は最寄りの魔導トラム駅へ向かう。
「本郷博士。監視対象が魔導トラムに乗車します。私達も追いますか?」
『三人で一斉に乗るのは避けた方がいい。さすがに怪しまれる……マヨイ君が先行し、後の二人が追いつく形としよう』
「実習生だからといって、集まってたら目に付くもんね」
「仕方あるまい。マヨイ、任せたぞ」
「はい。そちらも周囲に気を付けてください」
付かず離れずの距離を保ったまま。
緊張感のあるスニーキングミッションが開始された。




