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明暗の裏で

「はーっ、やれやれだぜ。アストライアと警察も馬鹿じゃねぇなァ」


 学園島の地下に存在する、インフラ点検用の地下通路。

 ジオフロントと呼ばれる入り組んだ道や空間の広がる場所に、薄明りを頼りとして潜伏していた龍崎カズマが(ひと)()ちる。


真鬼里組(まきりぐみ)の事務所は押さえられて、構成員はほぼほぼ身柄を確保された。運よく俺はエクセラと事務所の金をパクって生き延び、穴倉暮らし……下手に姿を見せりゃ即通報。こりゃ詰んでるな!」


 カズマは自身の超能力──テレポートでマーカーを置いたコンビニから、飲料水と弁当を窃盗。

 自然な流れの犯罪行為。常習犯でもある慣れ切った手管で、手元に現れた即席の夕飯にニヤリと笑みを浮かべ、恥も外聞もなく(むさぼ)り始めた。


「しっかし、エクセラで荒稼ぎはもう無理か。どうせ本土から参入した他の組も豚箱行きは確定してるし? こりゃ安くても販売元を変える必要があるな」


 冷めた白米をお茶で流し込み、カズマは考える。

 これまでは自身の組、あるいは別のシマで幅を広げるヤクザ、はたまた半グレとも言える社会の(うみ)や浮浪者を対象としてエクセラを広めていた。

 商売相手として、玩具として。テレポートによる神出鬼没の移動法と個人の手腕によって、ネビュラスという組織で動くよりもエクセラは学園島に波及している。


 ネビュラスの首魁である志島カリヤの目的はデータ収集である為、良い事である一方、欠点もあった。


 それは、アストライアが対エクセラ感知用の機材を完成させたことだ。

 個人携行も可能なほど小さな機材はアストライアだけでなく、学園島をパトロールする警察にも急速に普及していた。

 感知されたエクセラ所持者は問答無用に身柄を捕らえられる。苦し紛れに自分へ投与しても急行した夜叉やニューエイジ、その他の戦闘部隊に鎮圧されていた。


 そうして捕まった連中から芋づる式に反社組織の関係性や所在地が明かされることで、学園島の治安は急速に安定を取り戻している。

 このまま治安の浄化作業が進めば、いずれは潜伏しているカズマやネビュラスにも手が及ぶのは間違いない。


「うーん、面白くねぇんだよなァ。もっと混沌としてて刹那的な環境にしてぇんだが、下手に証拠を残すと楽しめねぇし」


 享楽的かつ他者を弄び、自身はそれを遠巻きに眺める。

 当事者にならず、世間が暴力と破壊に埋め尽くされる様を見ていたい……そんな思いがカズマの根幹にあるのだ。

 もはや人格破綻者と言わざるを得ない精神性の割に、事を慎重に見定めて運ぼうとする。テレポートの能力もあるが故に、今まで身柄が捕らえられることなく、極めて限定的な状況でありながら追跡から逃げおおせていた。


「こりゃあ手法を変える必要がある……そーいや、異世界から秘密裏に学園島へ侵入してきた人攫いの連中がいたっけな?」


 そんな生粋の悪党は、空になった弁当とペットボトルを辺りに投げ捨てる。


「ネビュラスの奴らだって、使用者のサンプルは多ければ多いほどいいはずだ。地球人、そこら辺の不健康なヤンキー、超能力者……そろそろネイバーにも手を出してみるか。俺ってばなんて優しいんでしょっ!」


 まっ、とっ捕まってなければの話だがな! と。

 カズマは自身の悪知恵を自賛し、立ち上がり、脇に置いていたエクセラを保管する厳重な冷蔵ケース。

 真鬼里組(まきりぐみ)の事務所から持ち出した札束の入ったアタッシュケースを両手に、ジオフロントの奥へ奥へと進んでいく。


 ◆◇◆◇◆


 時は変わってパフア校。

 衣替えの季節となって薄着の生徒達が各々の手段で登校し、それぞれの教室へ向かっていく。

 そんな中で、高等部一年の教室。

 魔法科ということもあって、生徒の内訳は地球人よりも多種多様なネイバーの方が比率の高い空間で。


「……では、自己紹介をお願いします」

「は、はい。このたびパフア校に編入する事となりました、シャリア・ハレフです。地球に来てまだ二ヶ月も経っていないので、不慣れな所もあると思いますが──ど、どうか皆さん、よろしくお願いします!」


 ある一人の新生活が始まろうとしていた。

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