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水面下の情報戦

 ポラリスでのシャリアの歓迎会。

 かねてから交流していた彼女と新たな関係性を結ぶこと。

 そうでなくとも仲間として、同じ学び舎で筆を取ること。

 パフアでの生活に未知と希望を抱き、様々な感情がせめぎ合う中で、それはそれとして大量に用意された料理。

 ポラリス名物のカレーに新鮮野菜のサラダ、から揚げにフライ……特製オードブルに舌鼓を打つアキト達。

 楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、お開きの時間を迎える。そうしてポラリスの片付けを終えてそれぞれの帰路についたのだ。


『うぷっ……腹が、はち切れそうじゃ……』

「魔力エネルギーに変換できるからって食い過ぎなんだよ」


 歌えや騒げやな雰囲気に呑まれて暴飲暴食。

 アキトが腹ごなしにポラリス中庭の野菜収穫をしている最中でさえも、爆食していたリクは体調に異常を来たしていた。

 現に希釈化していながら、エネルギー変換に手こずり口元を押さえるリクを、アキトは呆れた目で見つめつつも。

 居住区マンションの中層階にある五〇五号室へ向かう。


「ただいま。……ん?」


 大量の野菜が入った手提げバッグを抱えて室内に入った時、見慣れない靴が玄関に並んでいることに気づいた。

 見た目からして男物だ、来客……誰だ? と考えながらリビングへ。


「姉さん、また野菜を採ってき──え」

『は?』


 ふよふよ、と浮遊しながら遅れてやってきたリクと共に。

 リビングのテーブルにつく二人。その内、ヴィニアでなく対面に座る男性を視界に入れて、思わず呆けた声が出る。

 何故ならば、そこにいたのは本郷博士。

 夜叉の正体を知らず、されど不思議にもアキトを調べていると予想していた、ニューエイジの指揮官。

 思いもしない相手との出会いに、体が硬直した。幸いなのは、口元を押さえていたおかげでリクの声が聞かれずに済んだことか。


「おかえり、アキ君! ポラリスの手伝いは終わったの?」

「ああ、うん。色々と準備して、お昼もご馳走になったよ。あとこれ、ポラリスで採ってきた野菜……」

「わあっ、ありがとうね! 私が片付けるから、ゆっくりしてて」


 先ほどアキトの正体を知り、驚愕していた人物のはずでは!? と。

 直前までの動揺を見せず、大きな声で自身に注目を集めて。ヤナセの映像データが入ったUSBを本郷博士へ、アキトから見えないように譲渡。

 ノートパソコンは仕事道具として使う為、リビングにあってもおかしくはない。USBも同様にだが、変に勘繰られるのは良くない。

 秘密を共有する本郷博士なら託せる、と即座に判断したのだろう。


 そしてアキトの傍に近づいて、あまりにも自然な対応で手提げバッグを受け取る。キッチンの冷蔵庫に向かったヴィニアを見やり、本郷博士は戦慄した。

 アキトもまた、そんな彼女を不審に思うことなく背中を見送り、リビングに置いていかれた両者はぎこちなく向かい合う。


「や、やあ。アスクレピアで出会って以来だな」

「どうも……どうしてここに?」


 アキトは視線でリクを自室へ向かうように指示。

 応えた彼女が希釈化したまま、壁をすり抜けて消えていったのを横目に、リビングの椅子に座る。


 片やネビュラスが残した手がかりを元に。

 片や入院中だったシャリアの懸念から。

 双方、シャリアの見舞いを機に顔を合わせ、言葉を交わした程度の間柄。

 お互い秘密裏に探り合いをしている関係性だが、よもや自宅たるマンションで本郷博士と邂逅するなど思ってもいなかった。


 ニューエイジの三人にポラリスで集まっていることがバレたのに続き、自宅住所まで割られたか。そこまでしてオレを調べたいのか?

 そんな疑いを腹の内に隠して、アキトは彼の真意を探るべく問う。


 なお、疑いの渦中に身を置く本郷博士は別の理由で焦っていた。

 アキトとヴィニアが住んでいるとはいえ、女性が一人でいる時間帯に男がいること。デリケートな家族関係に問題を抱える者達で構成された空間に、自身がいること。

 そも、どういった経緯で自宅まで来たか説明せねば、本郷博士の立場は怪しいにも程がある。大して関係が深いでもない赤の他人の家へ上がり込んでいる……アキトからは、そうとしか見えないのだから。


 高速でグルグルと回る思考回路。

 熱暴走すら起こしかねない速度で知恵を絞り、秒数にして二秒。

 天才と揶揄される脳を酷使した本郷博士は、表情を取り繕って口を開く。


「実を言うと以前に話をした時、気づいたことがあってな。というのも──君やヴィニア君が過去に所属していた孤児院の院長、緑川ヤナセにまつわるのだが……」

「院長? 院長がどうかしたんですか」

「彼の本来の姓は本郷。緑川は旧姓……つまりは、私の身内なのだ」

「…………はい?」


 今度こそ、思いもよらぬ真相の開示に、アキトは眉間に皺を刻んだ。


 ◆◇◆◇◆


「……なるほど。施設の件と院長の死を遅れて知って、生存者であるオレやヴィニア姉さんの元へ挨拶に」

「うむ。今更それがなんだ、と言われればぐうの音も出ないが、居ても立ってもいられなくてな」


 緑川ヤナセが本郷博士の兄であること。

 アキトとの会話から真相を知ったこと。

 仕事で空きが出来た機会に話をしたかったこと。

 違和感のない適切なまとめの言い訳を述べ、本郷博士は胸を撫で下ろす。


 本来の目的であるアキトの正体やヤナセとネビュラスの繋がりは、ヤナセが残した映像データによって解明されたが、当人には打ち明けられない。

 変わらず自身とニューエイジ、そして不意とはいえ知ってしまったヴィニアの間で留めておくべき、と判断。

 事実、アキトは思案するように顎へ手を当てているが、納得していた。そんな彼に、本後博士は頭を下げる。


「既に過ぎたこととなってしまったが、すまなかった……!」

「いや、しょうがないと思いますよ。オレはあんまり院長のこと覚えてないけど、自由な人だった印象はあるんで。本郷さんが知らないのも無理ないです」

「ああ……情けないが、弟である私から見ても、何を考えているか推し測れなかったからな。ついぞその機会が訪れることは無くなってしまったが……」

「でも、ヤナセ院長の昔話が出来て嬉しかったです」


 ボロが出ないよう言葉を選ぶ本郷博士の元にヴィニアがやってくる。

 その手にはビニール袋が下げられ、中にはポラリスで採取した様々な新鮮野菜が詰められていた。


「これ、貰い物のお裾分けになりますが、食べてください」

「むっ、いいのか? それはアキト君が採ってきたのでは?」

「特にこだわりは無いんで、大丈夫です。元々が店で使えない物とかも混じってるんで……でも、味は保証しますよ」

「それにウチで消費し切れるか分からないくらいなので、手伝ってもらえたら嬉しいです。職場の方々にもどうぞ」

「……そうか。かたじけない、ありがたく受け取ろう」


 本郷博士は差し出されたビニール袋を手元に置き、次いで流れるようにリビングに掛けられた時計へ視線を移す。

 時刻は午後二時半。

 これ以上長居しては本業に支障をきたす。そして現在相対しているアキトは勘と察しが良い。下手に問答を繰り返して情報を漏らし、自身の正体に気づく、などといった事態になっては目も当てられない。

 情報整理と今後の展望を相談する為にも、ここは一時退却するべき。本郷博士はヴィニアと視線を合わせ、軽く頷いた。


「さて、君が帰宅した手前、もっと話をしたいところだが……時間だ。そろそろお(いとま)させてもらうよ」

「ん? 結構長く話し込んでたの?」

「あはは……お互いにヤナセ院長の思い出話で盛り上がっちゃったから。お昼から二時間近くになるかな?」

「そうだな。それと実のところ、昼休憩を長く取って訪問したのだが、予定時間をオーバーしていてね。業務時間が伸びると帰宅できず、そこに追加で仕事が舞い込んでデスマーチ継続……ようは大変なことになる。故に仕事場へ戻らせてもらうよ」


 アウェーな場所で不利な状況に身を置く必要は無い。

 本郷博士とヴィニアは暗に内通し、そそくさと退散するべく意見を合わせ、あれよあれよという間に帰る準備を整えた。


「では、また機会があれば訪ねる。二人とも、お元気で」

「はい、本郷さんも気をつけてお帰りください」

「今度来た時は、オレに院長のこと教えてください」

「ああ、たくさん考えておくよ。お邪魔しました」


 玄関口まで見送りに来た義姉弟へ踵を返し、荷物を持って外に。

 誰の耳にも入らない場所……マンション専用の駐車場まで降りてから、本郷博士はほっと息を吐いた。


「まさか件のアキト君と遭遇してしまうとはな……」


 肩から提げたカバン、野菜の詰まったビニール袋。

 そしてヴィニアから預かったUSBを手にし、ポケットに仕舞ってから、自家用車に乗り込みエンジンをかける。

 座席越しに伝わる振動を感じながら、通信用のデバイスを耳に装着。そのままデバイスを指先で何度か叩き、数コールした後、応対に人の声が届いた。


『こちら戦闘部隊ニューエイジ、リーダーの如月マヨイです。秘匿回線の暗号ということは、本郷博士ですね?』

「ああ。リン君とエイシャ君も近くにいるか? 早急に共有したい情報を入手した。詳しくは合流してからになるが、概要だけでも把握してもらいたい」

『っ……ようやく掴めたのですね? 分かりました、すぐにでも』

「それと──じゃがいも、かぼちゃ、きゅうり、ナス、ピーマン、トマト、キャベツ、レタスなどの野菜が欲しいかも聞いてくれ。分配したい」

『了解しまし…………えっ、や、野菜?』


 車を高速道路へ走らせながらの通信。

 突拍子の無い内容にどもるマヨイの声を聞き流しながら。

 解明された謎をどう扱うべきか、本郷博士は思案するのだった。


 ◆◇◆◇◆


『ほう、孤児院の院長が兄で、その線から挨拶を、のう……』

「最初は夜叉の正体がバレて、姉さんを問い詰めに来たかと思ったけど、そんな感じじゃなかった。純粋に身内の死を偲んでの行動だったのかも」

『直接相対したお主が言うんじゃ、間違いなかろう。とはいえ、これまで以上に油断する訳にはいかなくなったな』


「一度だけでも疑いの目が掛かった上で、ポラリスも家も割れた。……今後は突然の来訪に気を付けるべきか。リフェンスとマシロさんにも伝えておこう」

『儂がメッセージを送っとくわ。ユウヤとシャリアにはパフアであった時にでも口頭で伝えておけ』

「分かった。そうするよ」


『にしても、数奇な縁があったものじゃな。世を守るアライアンスの天才どもとこうも関係性があるなど……』

「だとしても、やることは変わらない。リクが新しくエネルギー補給手段を得ても、魔核の吸収には劣る。……ついでって言い方は嫌だけど、夜叉として皆を守る為にも頑張ろう」

『クフフフッ……そうじゃのう。儂ら二人で、夜叉なのだからな』

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