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秘められた過去《前編》

「院長、何を……【超人計画】? それに、アキ君が何者か、なんて」

『どうせ下手に勘繰りやすいお前のことだ。重要な部分を隠して自分だけで解決しようとしてるんだろうが、諦めろ。ヴィニアがこれを見せてる以上、無関係を貫くなんて出来やしない。ちょいと衝撃的な事実の連続になるし、錯乱しないようメンタルケアしてやれ』

「相変わらず癪に障る言い方を……」


 本郷博士は画面の向こうでため息交じりにぼやくヤナセを睨む。

 だが、いままでひた隠しにしてきた機密を漏出され、その意味を理解可能・不可能に限らず、知ってしまったのなら野放しには出来ない。今後のヴィニアへの対応は考慮せねばならなかった。


 しかし、解せない点もある。

 兄弟として過ごしていた間にも、ヤナセは先見の明に長けた人物だと、嫌でも痛感したことが多くあった。

 時に不気味がられるほど未来を予見して行動し、異世界関連の問題に関しても有用に働く様は何度も見てきたのだ。だからこそヤナセは天才という肩書きを欲しいがままにし、突飛な才能に追従できる本郷博士もまた、同じ称号を有している。


 そんな彼が、わざわざ死後のビデオレターを残した。

 自身が助かる道はあったはずなのに、その命を他所にして。

 いつ辿り着くかも分からない不確定な地点に情報を残した……いくらヤナセと言えど、そこまでの事が出来るだろうか。


『まっ、言いたいことは色々あるだろうが、今は呑み込んでおけ。後でさらっとバラすからな』


 ヤナセは熟考に陥りかけた本郷博士を気遣うように言ってのける。

 まるで画面の向こうでまだ生きているのでは、と錯覚してしまうほどに、自然体な様子で……いちいち反応しては彼の思う壺か。

 そう思い、本郷博士は思考を切り替える。そして自身と同じくヤナセを凝視するヴィニアを気に掛け、映像の続きを待った。


『んで、何から話そうかね? 色々端折っても長くなるのは確定してっからな。……時系列順に、事の始まりから行くか』


 そうして、ヤナセは語り出した──


 ◆◇◆◇◆


 アライアンス内で提唱された【超人計画】。

 インベーダーの細胞を人体に適応させ、強靭な肉体を持つ人造兵士を生み出すという倫理を犯した外法。

 凄まじい身体能力に人間を超越した感覚を植え付ける。いわばお手軽に兵力を確保できるメリットがあった。

 しかし血も肉も毒となるインベーダーの細胞によって、処置者を急速に老化させ、寿命を著しく減らすデメリットも内包している。

 最大でも三年で命が尽きる……生命維持の観点から見ても、人命を軽視し過ぎていることで物議を醸しだしていた。


 加えて当時は俺達が秘密裏に手回ししていた、パワードスーツ関連のノウハウが周知され始め、生産体制も順調。

 技術的特異点(シンギュラリティ)を越えた人工知能の台頭にナノマシン技術、VR訓練の確立も進み、【超人計画】よりも安定して多くの兵力を生み出せる。

 その影響で【超人計画】は棄却され、その危険性と非人道的手法からアライアンスのデータベースから削除。

 参加していた研究者も散逸し、自然崩壊。

【超人計画】は闇に葬られた──はずだった。


『アライアンスから身を引いた研究者たちは、そりゃもう烈火の如く(いきどお)ったらしいぜ』


 自身の計画に狂いはない、と。

 こんなにも完璧で究極でありながら受け入れないなどおかしい、と。

 中にはアライアンスが斡旋したセカンドキャリアに身を置く者もいたが……そうじゃない意見を持つ連中が再集結した。


『そうして出来上がったのが“人類を革新的領域に進化させる”ことを名目に置き、人材やら資金やらをかき集めた裏組織──ネビュラスだ』

「馬鹿な……【超人計画】が棄却された時点で既に誕生していたのか」

「ネビュラスって、怪人を発生させてるバイオテロ組織じゃ……?」

「そうだ。奴らはエクセラと名を変えた怪人化薬で、学園島を混乱に陥れている。その目的はヤナセが言った通りだが、デメリットを考慮しても出来る訳が無いのだ」


 インベーダーの細胞は人類にとって毒となる。

 これは地球・異世界に限らず共通した認識であり、現在でも念入りな除染や浄化作業を行うことで、ようやく実用化の段階に至れるのだ。


『んで、ネビュラスの連中はこう思った訳だ──“あいつらが納得しないのは完成品が無いから”“机上の空論でなく実現可能となれば目の色を変える”“我らこそ新しい時代の先駆者となる”……そんな風にな』


 だから。


『ネビュラスは人の道を外れた。金に物を言わせて動物や、世界中のゲート災害で発生した孤児に浮浪者をかき集め、果てには治験だなんだと騙して拉致し、秘密裏に人体実験を実行したんだ。……アストライアの御膝元、学園島にて【超人計画】の要、怪人化薬の試験を』

「!? なんて、ことを……!」

『日を増すごとに加速していく犠牲者の数。耐えたとしても数日、耐え切れず死んだところで死体は溶けて残らない。……オレが異変に気づいて調査した時には、三桁に到達しかねないほどの命が失われたと想定される』


 苦渋の表情で語るヤナセの声音には、深い後悔が滲んでいた。


『オレはその凶行をどうにかして止めたかった。だが、当時のオレはアライアンスの中で重要なポストに就いていて自由に動けない。かろうじてアストライアに出向できても限度がある。……そこで大変申し訳ない気持ちでいっぱいだったが』


 決意の裏に確かな愉悦の揺らめきを宿し、瞳を本郷博士に向ける。


『オレの持っていた生体・技術研究の全権をタカシに預けて雲隠れすることにした。なんだかんだオレに次いで優秀なのはお前以外にいないからな、全幅の信頼を持って後腐れなく渡せたぜ! いやぁ、持つべきモノはやっぱりスケープゴ……いけに……家族の絆だよな!』

「この、クソ兄貴……! てめぇのせいでどれだけ苦労したと……ッ」

「おお抑えてくださいタカシさん!?」


 いけしゃあしゃあと(のたま)うヤナセに頭の血管が切れかけたのか。

 本郷博士は荒い口調を隠さず、これまでの苦行に近しい業務形態に陥った根本的な原因、凝り固まった鬱憤を晴らすべく殴り抜こうとした。

 されど横にいたヴィニアが振り上げた拳を抑えつける。彼女なりに、ヤナセ院長ならイタズラっぽいことはすると、理解しているからこその対応だった。

 故にパソコンは守られ、画面の中のヤナセは構わず話を続ける。


『だがまあ、おかげで色々と策は練れたし、かねてからの夢である施設の経営にも着手できた。そしてネイバーやら色んな協力者に事情を打ち明け、手を借りて三年も掛かっちまったが、ネビュラスの本拠地へ。……というより、研究施設の一つに攻め入ったんだ』

「なに? アストライアより先んじてだと?」

『ネビュラスの中で怪人化薬の完成形に最も近づき、成果を出していた施設だ。野心も強い連中の集まりで、学園島から東京都へ進出しようとしていたらしい。そうなる前に施設を強襲。こちらも痛手を負ったが、施設を壊滅に追い込んだ中……実験体を確保して東京方面へ逃亡を図りやがった』


 東京……もしかして、と。

 呟いたヴィニアの発言を助長するように。


『ただしネビュラス側も疲弊し、消耗していたこともあり、中心区へ逃走する前に事故を起こした。……オレはその時、支援側に回っていたから人伝(ひとづて)に聞いた程度だが』


 ヤナセは言いにくいのか、口元を手で覆い、されど(かぶり)を振る。


『運転手もろともネビュラスの構成員のほとんどが死に体の中、運び出された実験体は培養槽に入れられていた。だが事故の衝撃で生命維持を兼ねるそれらは破損し、中にいた者達は息をしていなかった』

「……っ」

『これだけの労力を割いて、犠牲を払っても救えなかった。──絶望と諦観に染められた時、たった一つだけ……無傷でいた培養槽があった。皮肉なことに、他の機材やら人体が緩衝材となって生存していたんだ』


 その培養槽に書かれていた名前は。


『当時まだ五歳だった孤児の一人。ネビュラスによって物心がつく前から怪人化薬の実験体にされ、度重なる負担に耐え切り、適応した唯一の存在。体の隅々まで手が施された改造人間の最高傑作“AK‐10”──それがアキトだったんだ』

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