ポラリスでの歓迎会
西暦二〇〇〇年を機に世界中で確認された、異次元へ繋がる“ゲート”。
異なる時空、異なる世界。普遍的で、局所的。ありとあらゆる可能性、人種を内包する異世界へ繋がる黒き門から現れる異形“インベーダー”。
人類や文明を破壊し尽くす暴威に対し、異世界を含む多国籍組織“アライアンス”の設立など──地球全体を取り巻く環境は、三〇年の月日を経過して様変わりした。
特にゲート災害における先導者という立場にある日本。
他国が未だゲート・インベーダーによる襲撃や過去の爪痕に悩まされている中、日本だけが独自路線をひた走っていた。
とりわけ目立つのは異世界から流入してきた技術によって、東京都近海に同規模の面積を持つ人工島。
パシフィック・フェデレーション・アシュランス専門校──頭文字を取ってパフアと呼ばれる学術機関を有するが故に、学園島と呼ばれる島には多くの異類人“ネイバー”が住んでいる。
エルフ、妖精、ドワーフ、ホビット、獣人……地球人と全く変わらない姿をしたネイバーもいる学園島は今、表裏の舞台で活動する組織によって混沌が滲みだしていた。
ゲート災害における数々の権限と裁量権を持ち、様々な部門や独自に武装し構成された戦闘部隊を持つアライアンスの枝分かれした組織、アストライア。
エクセラと名を変えた怪人化薬を精製し“インベーダーの力で人類をより高次元な存在へ進化させる”と宣うテロ組織、ネビュラス。
そのネビュラスがエクセラを卸し、無作為で突発的に怪人を発生させ、混乱を招く指定暴力団“真鬼里組”若頭、龍崎カズマ。
そして三つの組織に起因するゲート・インベーダー・怪人から学園島を守護する為に赤いマフラーをなびかせ、活動する無頼のヒーロー、夜叉。
そのヒーローに唯一変身可能な人物。
パフア初等部六年生である生徒の天宮司アキト。
彼は自らの協力者である逆波マシロが経営する純喫茶──“ポラリス”という、夜叉陣営のアジトに、他の仲間と共に集っていた。
昨今の学園島を取り巻く者達による脅威への対抗手段。
取るべき策や為すべき事案を語り合う為……などではない。
「それでは改めまして……退院おめでとう・ポラリスに初来店・パフア編入おめでとう・これからよろしくという色々な意味を込めてっ! シャリアちゃんの歓迎会を始めます!!」
「あ、ありがとうございますっ!」
『せめて理由は統一せんか?』
「付き合いの短いわたしが言うのもなんだが、逆波さんらしいというか」
「まっ、めでたいことに変わりはねぇぜ。アキト、人数分のグラスと氷をくれ。飲み物そそいどくわ」
「わかった」
かつて、ネビュラスの首魁“志島カリヤ”によって。
その身を利用されかけたネイバーの白髪の少女、シャリア。
これまでの境遇とストレスで痩身気味だった体から、アスクレピアでの適切な入院生活を送ったことで、年頃の女子らしい健康的な体躯へと変遷した彼女。
アキトの正体を知る者として。
夜叉陣営の頼もしい仲間として。
ポラリスの店主である逆波マシロを身元後見人として。
学園島を新天地とした再出発を祝い、アキト達は迎え入れたのだ。
◆◇◆◇◆
「それじゃ、まずはお互い自己紹介……と言っても、この場で初対面なのはユウヤ君だけだよね?」
アキト達はパフアの学生だが、本日は休み。
ポラリスは定休日でないが元々客足の薄い店である為、事あるごとに貸し切りしたって何も問題ない、と。
遠い目をしたマシロを中心にして飾り付けられた店内。
モダンな雰囲気を彩る華やかな中心地のテーブルにはポラリスが誇るカレーやフライドポテト、から揚げなどジャンクなメニューに加え、中庭から採れる野菜で作られたサラダが並ぶ。
そのテーブルを挟み、柊ユウヤとシャリアは向かい合った。
「そうだな。同じ学び舎に所属する者でもある、わたしから。パフア高等部二年、超能力科の“柊ユウヤ”だ。よろしく頼む」
「はいっ、よろしくお願いします! あ、えっと、ワタシもですね……」
シャリアは見知らぬ相手であるからか、少し緊張した面持ちで。
「ネイバーのシャリア・ハレフ、です。本当は苗字が無かったんですけど、不便だってマシロさんに言われて、故郷の名前を借りることにしました。今季からパフア高等部魔法科の一年へ編入します。よ、よろしくお願いします!」
「ああ。パフア、そして学園島に馴染めるよう協力する」
「頼もしいです! ああ、でも、科が違うから……」
「その辺りは気にしないでいいぜ、シャリア。上級生かつ知り合いのいない校舎だろうと入り込む、鋼の精神を持ったクロトと一緒に送り込むからな」
「なんでしれっと貶した?」
「褒めてると思うよ……たぶん」
『自信ないんかい』
互いに名前を知り、歓迎会を通して交流する。さらにはポラリスがシャリアにとっての自宅となる為、諸々の機能やガレージの説明。
テーブルに並ぶ料理にも舌鼓を打ちながら、夜叉としての活動遍歴なども交えることで話題は尽きない。
「アキトに助けられた経緯で、正体を知ったことは把握している。それに、ゲートによる人口流出……大変だったようだが」
「うん……故郷は無くなっちゃったけど、ワタシは生きてる。マシロさんもいるし、皆もいるから心細くはないんだ」
新天地における心構えは十分なようで、言い方こそ悲壮に思えるが、シャリアの表情はとても明るい。
わずかながらの人付き合い。確かに感じた優しさと気遣い。
そして夜叉という希望を見たことが彼女の支えとなり、新生活に向けた活力へ変換されていた。
「ほんと出来た子だよ……ウチに来てくれて嬉しいわぁ」
『もうすっかり母親代わりみたいじゃのう』
「ってか、今更だがマシロさんの両親にはちゃんと言ったんだよな? シャリアを後見人にすること」
「そりゃね。元々独り立ちして色々と好き勝手やらせてもらってるけど、人の命を預かる以上、ちゃんと話し合ったよ。ヴィニアとか弟君のことも合わせて説得して、しっかり許可を貰ったんだから」
「さようで。つーか、そうじゃなきゃここまで事は進まねぇか」
納得した様子でリフェンスはグラスを傾ける。口内で炭酸を転がしながら、揚げ物に手をつけた。
くーっ、これこれ、と。
にんにくの利いた香ばしい風味に唸り、酒が飲みたいと独り言ちた。
「シャリア、パフアに来る日はいつなんだ?」
「えっと、次の月曜日からだよ。制服とか教科書は部屋に用意してるから、準備はもう万全なんだ」
『なんと、明日ではないか。かなり急じゃな……』
「だって時期的に引き延ばすと夏休み明けになるじゃない? せっかく退院してもポラリスで働いてもらうことしか出来ないし、多少無理を通して一学期のど真ん中に組み込んでもらったの」
「曲がりなりにも進学校レベルのパフア編入試験に合格してるし、優秀な人材は早めに抱え込んでおきたかったのかもな」
マシロは苦渋の決断の末だと言い、リフェンスはパフア側の事情を想像し、編成が大変だったろうなとぼやく。
ちなみにリフェンスも魔法や異世界の植生知識など。膨大な情報を処理できるだけの才能と努力を重ねている為、魔法科に入れた可能性はあった。
しかし地球側の常識が著しく欠けていたこと。
そして今では考えられないが、アキトが夜叉であると知るまで周囲を見下していた傾向があり、それを矯正するべく初等部に組み込まれたのだ。
「うーん、トラムの乗り方とか路線図の説明、学園島の施設案内とかもしたかったけど……後々の方がいいか」
「そうだね。一応、明日の送迎はアタシがついていくから大丈夫! マギアブルの使い方も教えたから問題なし!」
「ってことは、連絡先を交換しといた方がいいか」
『その方が円滑じゃろうな。あとは……いや、マシロのことじゃ。ゲートとインベーダー警報やフギン・ムニン専用アプリは入れとるんじゃろ?』
「もちろん。あの子達には顔写真と身体データを読み込ませたから、迷子になった時は恥ずかしがらずに頼ってね!」
「助かります、マシロさん」
過保護なまでにあらゆる方法でマシロはシャリアを保護していた。
そもそも前提としてシャリアは入院生活が長く、日常に慣れていない。その辺りの懸念はアキト達の力を借りようと考えてはいるが、学園島の治安は正直に言って警戒域に到達している。
ただでさえ世間知らず──急速に知識を付けているとはいえ限度がある。
加えて自然災害のゲートやインベーダーはともかく、故意に引き起こされる怪人騒動へ巻き込まれては堪ったものではない。
故に、第三者から見ても手厚すぎるほどの手段を用意していたのだ。
自身を思って策を講じてくれていると理解しているシャリアはお礼を伝え、その様子にマシロは満足そうにはにかんだ
「よーしっ、ひとまず共有すべきことは話し終えたし、後は慣れてからだね。今は歓迎会を楽しんで、明日からの学校生活への英気を養わなきゃ!」
「そうだね」
意気揚々とグラスを掲げるマシロに頷いて。
アキトは自身の弱い味覚でも味を感じられる料理に手をつけた。
これから始まる、シャリアとの生活に思いを馳せながら──




