事を終えての宴
「それじゃ、弟君達が無事にマラソン大会を終えられたということで!」
マラソン大会に次いでゲートの処理に怪人の撃破を終えてアキト達。
時間は午後二時。店頭に貸し切りの看板が立て掛けられ、人払いの済んだ純喫茶“ポラリス”の店内で。
カウンター席でグラスを持つアキトと実体化したリク、リフェンスとユウヤを見渡したマシロは意気揚々と声を上げた。
「本日は皆さんお疲れ様でしたー! かんぱーいッ!」
「「「『かんぱーい!』」」」
各々ジュースやウーロン茶の入ったグラスを軽くぶつけ合う。
軽くカチンと音が鳴ったそれらに口をつけ、呷り、一息ついた所で。
「いやぁ、四人とも大変だったねぇ。マラソン大会やってた総合公園にゲートが現れるなんてさ。しかもシフトバングル外してたんでしょ?」
「そうなんだよ。荷物置き場に戻ろうって時に出てきやがってよぉ」
「フギン・ムニンが持ってきてくれたおかげでどうにかなったけどな」
マラソン大会の最中に起きたゲート被害。
シノビスタイルの夜叉と合流したニューエイジのエイシャによって騒動は鎮圧。やってきたアストライアの各部隊によって現場検証が開始された。
その間にしれっと避難用シェルターに潜入し、変身を解いたアキトはリフェンスと合流。あたかも最初から避難していたと言わんばかりの態度で待機。
怪人の死体処理や規制線の設置、そして避難警報が解除されたことでパフアの生徒、教職員たちはシェルターから解放されたのだ。
しかし総合公園はアストライアの調査と事後処理が始まる為、マラソン大会は中止となった。とはいえ、走り終えた者から担任教師に報告し、順次帰宅しても良い……そもそもの規定が緩い大会ではあったのだ。
ほぼほぼ全員が走り終えていたこともあり、アキト達も今回の件をマシロに報告せねばならないだろう、と。
声を掛けて来たユウヤを伴い、公園から退散。
最後の最後で、忍者に一枚上手な手口で逃したことを憤るエイシャ。それを宥めるマヨイとリンのニューエイジを横目にすれ違って。
おにぎりなどの軽食を手早く腹に収め、ポラリスに移動して──事情を把握したマシロの手によって、今に至るのだ。
「ふむ……偵察用のガジェットドローンでありながら、かなりの運搬能力を保持しているんだな」
ユウヤは以前マシロから渡された、夜叉に関する道具類のマニュアルを開き、フギン・ムニンのページを眺めながら呟く。
『有能な分、ちょいと生意気な奴らではあるがのぅ。全くいったい誰に似たんだが……ぷはぁ、ぶどうジュース美味いなぁ!』
「いい飲みっぷりだねぇ! 怪人の相手をして疲れたでしょ? エネルギー補給も兼ねて、何か食べなよ!」
『いうてカレーにちょっとしたサイドメニューしかないじゃろ?』
「ホクホクのビーフシチューもあるよ」
『五十歩百歩みたいな料理じゃあないか?』
カウンター奥のキッチンを指差しながら胸を張るマシロへ、リクは呆れ気味にぼやきつつも、味が気になるのだろう。
折角だし、とマシロに頼んで盛り付けてもらったビーフシチューを一口。ホロホロと口の中で溶けていく肉と、共に煮込まれた野菜。そして湯気に混じって漂う、ほんのりスパイシーな風味のスープが食欲を掻き立てる。
『くぅ、こりゃあ美味じゃのぅ! 侮って悪かったわい』
「ふふん。ポラリスのカレーやコーヒー、一部のメニューは前オーナー直伝の物だけど、こういう料理は私が独自に編み出したレシピなの。一人暮らしの自炊料理からお店に出せるレベルまで、それなりに苦労したよぉ……」
「期待の新メニューということか。わたしも頂けるだろうか?」
「昼にサンドイッチ食ったばっかなんだが……俺も食おうかな」
「まだジュースでいいや。コーラください」
「はいはーい、ちょっと待ってね」
キッチンからお盆に載せたビーフシチュー、キンキンに冷えた瓶のコーラを運び、それぞれの前に置く。
アキトはオープナーで瓶のフタを開け、温度差による白いモヤが揺らめくそれを自身のグラスに注ぐ。結露したグラスに気泡混じりの液体が雪崩れ込んだ。
「つーかよ、エクセラ関係じゃないなんて久しぶりじゃね? 後腐れる要素が無くて助かったけど」
「最近はネビュラスと真鬼里組に関連した怪人騒ぎがほとんどだったからな。人工的でない天然の、というのは久しい」
『いかに学園島が偏向装置でゲートを誘発しているとはいえ、完璧ではないからのぅ。地球と異世界側の大気状態でゲート生成の条件などいくらでも変わる……発生しないに越したことはないが』
「夜叉もアストライアも必要ないなら、それが一番なんだよ」
「そうだねぇ。リクちゃんだって魔核以外のエネルギー補給が可能になったんだし、楽できるところは楽をしなきゃね!」
ぶくぶくと泡立つコーラを口に含み、確かに感じる炭酸の舌触りに満足げな面持ちで、アキトはふと目線を上に向ける。
「真鬼里組と言えば……まだ逃げてるんだよな、アイツ」
「龍崎カズマな。超能力の中でも厄介なテレポーター……容易に尻尾を掴めるような奴じゃあないのは、理解しているが」
「警察とアストライアが協力しても、未だに捕捉できん神出鬼没な男だ。わたしが偶然に出会ったのは、ある種の幸運だったのやもしれんな」
『人海戦術が可能なあやつらと違い、儂らが打って出るには厳しい。こればかりは、後手に回るしかないの』
「超能力を感知する装置の作成は、さすがに昨日の今日で出来ないし。試作してからも検証しなきゃだし、しばらくは足踏み状態ねぇ……あっ、そうだ!」
和気藹々とした雑談の最中。
目を見開いたマシロがカウンターの奥から書類を取り出してきた。
「ユウヤ君にはまだ話してないけど、夜叉の正体を知る子がもう一人いてね。アタシが後見人になるネイバーの子なんだけど……」
「シャリアのことか。どうかしたんですか?」
「前に面会した時、退院日が決まったって言ったじゃん? なんと三日後、ポラリスにやってきます! しかも──」
興奮気味に見せつけてきたそれは、パフアへの編入手続届。
そこにはシャリア直筆の異世界言語で諸々の記入欄が埋められていた。
「ちゃーんとパフアの編入試験に合格したの! だから衣替えの時期も過ぎて……六月の初めくらいかな? その辺りで高等部魔法科一年生になるよ!」
「おおっ、マジか! いやあ、ようやくって感じだなぁ」
「一年……科は違えど後輩となる訳か。しかし、よく知らんな……どういった流れで知り合った相手なんだ?」
マシロとの出会いに関しても疑問を抱いていたユウヤだ。
アキト達とどういう関係性の者であるか、気になるのも当然というもの。
店内に香る食欲そそるビーフシチューに舌鼓を打つ彼に、アキトはあー、と言葉を伸ばして頭の中で整理する。
「経緯が特殊なんだよな……病院の先生がネビュラスの関係者で、そいつに言い寄られてエクセラを自分に打って、口封じされようとしてた?」
『間違ってないんじゃが語弊を生みそうじゃの。……ようは、ネビュラスに利用された被害者じゃったが、儂らが寸前で助けた女子なんじゃよ』
「より詳しい内情は、後で本人の口から聞いた方がいいかも? かなり複雑な事情があってさ」
「そうか。……地球人の逆波さんが後見人になる時点で、ゲート被災者なのは明白。色々と察せられるものはあるが……うむ、顔を合わせる日まで待っておこう」
新参であるという立場もあってか。
そもそも、夜叉陣営の中にそういった序列じみた立場は無いが。
今後も付き合いが増える相手であろうという判断もあり、ユウヤは追及せずにビーフシチューを楽しむ。
「という訳で、さっきも言ったけど三日後にポラリスで歓迎会するから! ちゃんと予定を空けておいてよね?」
「りょーかい。どうせ暇だし、退院祝いのプレゼントでも用意しとくか」
「わたしも差し迫った用事は入っていない。歓迎会への参加は可能だ」
リフェンス、ユウヤはシャリアを迎え入れる際の贈り物について思案。
「マシロさん、ヴィニア姉さんは呼ぶ? 一応、顔見知りだけど」
「んーどうしよっかな? 後で服の相談とかしたいから、いずれ会わせたいところだけど……」
『あくまで夜叉について知る者同士で集まった方が、気疲れせんで済むじゃろう。共有し合う情報も絞れる……というか、顔合わせが主となろう? 性急に事を進めても理解が遅れてはいかんし、落ち着いた頃合いでよかろうて』
「学校生活の説明なんかもしなきゃいけないし、そうしよっか」
「わかった。……シャリアと一緒にパフアで、か。正直、楽しみだな」
複雑な境遇から続く関係性が、新たな展開を迎えることに。
アキトはリクとマシロを交え、再会に思いを馳せるのだった。
「しかし、同年代の女性への贈り物か。何が良いだろうか……ぬいぐるみなら安定しているか」
「「「『いや、それはちょっと……』」」」
「揃いも揃って否定するほどか?」




