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シノビの介入

 のどかな時間が流れていたはずの公園内に、暴風が吹き荒れる。

 魔力を纏うことで周囲の景色に同化する、カモフラージュ能力。全身に備わる鋭利な羽根を無尽の弾丸とし、翼腕での打撃すら強力な攻撃性能。

 足音や影すらも掴ませない、軽やかな動きも加味された結果として“ラプト”はエイシャを徐々に追い詰めていた。


「はっ、やはり武器が無くては厳しいか……」


 草木のざわつきとわずかな違和感を捉える聴覚。

 そして異世界での豊富な戦闘経験がもたらす直感的な察知能力、鍛え抜かれた肉体と技術によって。

 エイシャは体の各所に傷を作りながらも、なんとか対応できていた。しかし、それも無限には続かない。


『──ッ』


 舌なめずりをするように“ラプト”は(くちばし)の奥で(さえず)る。

 どこか余裕を感じさせる態度や仕草は、慢心や油断によるものではない。


 エイシャが辺りへの被害を減らすように動いても羽根の弾丸は木々を裂き、芝生を抉り、まきびしの如く罠として機能する。

 戦闘地帯を制限される中、仕掛けられる近接攻撃も厄介だ。いかに戦士として優秀な者であっても、取れる手札が不足した状況では限度がある。

 猛禽の狩人が生成する狩場に、追いやられてしまっているのだ。


 そも、手早くフレスベルグを展開すれば良い話ではある。

 だが、自己判断での“装身(そうしん)”が許可されても、エイシャの立場はパフアに対する潜入捜査官に近い。

 未だ左腕に装着したフレスベルグのデバイスには、マヨイとリンから避難完了の報告が来ていない。

 どこに人の目があるか不明な現状で、仮に逃げ遅れた生徒がいたとして。

 エイシャ=ニューエイジの一員という情報を漏らす訳にはいかないのだ。


「まったく、歯痒いものだ……せめて我が魔法に秀でていればな」


 剣さえあれば、槍さえあれば、斧があれば、弓があれば、と。

 無い物ねだりに加えて、生まれながらにして自身の不足した部分を自虐し、されど視線は“ラプト”から逸らすことはない。

 一瞬でも隙を見せれば狩られるのはエイシャなのだ。慢心する状況でもなければ、驕るようなマネなどもしない。

 なけなしにも程がある魔力で肉体強化を行い、戦闘態勢を取り続ける──その思考の間隙を“ラプト”は見逃さなかった。


『──!』


 羽毛に包まれた体を翼腕で隠すようにして(たたず)んでいたラプトは、瞳を輝かせ、内包された魔力を解放。

 魔核に内蔵され、圧縮された魔力が全身に纏わりつく。

 今までと打って変わり、推測せずとも容易に想像できる大技の気配。

 異世界で交戦した経験が弾き出した答えは……全身の羽根を全周囲に高速でバラ撒く無差別範囲攻撃。

 魔力によってさらに鋭利、かつ硬質化した羽根の弾丸など、いくら肉体を強化しようが防げるようなものではない。


「くそっ、致し方ないか……!」


 翼腕を広げて発射段階に移った“ラプト”を睨みつけて。エイシャはもはやこれまで、と。

 正体がバレようが構わない意志で左腕のデバイスを起動し、胸の前に構えた──その瞬間。


『大がかりな動作だな。いい的だ』


 背後から投げかけられた言葉に、振り向く間もなく。

 後方より凄まじい速度で放られた鈍色(にびいろ)の輝き……クナイが数本ほど“ラプト”に飛来。

 大技の溜めに入っていたことで対応できず、体の各所に深々と突き刺さる。

 魔力が通されたことで、鎧としての機能を果たしていた羽毛を容易く裂いて、吹き出した鮮血が空を舞い、魔力が霧散。


『──!?』


 驚愕に表情を歪めたまま“ラプト”は自身がしていたことを返された、と。

 理解するよりも早く、クナイの高速投擲による衝撃で無様に転がされる。


『狩人という割に獲物を前に舌なめずりか……小物だな』

「夜叉……! 来たんだな」


 そうしてエイシャの隣へ姿を見せた忍者に、彼女は目を見開く。

 次いでハッと口を紡ぎ、構えていたデバイスをそのままに警戒を強める。

 そうする意図を理解した上で、忍者は口元を覆う赤い面頬を擦り、事前に考えていたセリフを口にする。


『パフアの教師か。自身を囮としてインベーダーの気を引いていたのだろうが……命は大切にするべきだぞ』

「は?」

『ダークエルフ族のネイバーである以上、交戦経験はあると見える。だが、素手にジャージ姿では無理なことも多い』


 あくまでエイシャをパフアの教師として認識し、ニューエイジと繋げない。

 既知ではあるものの、守るべき一般人として扱い、この場から退散させる。

 知らずの内の配慮だとしても、それが互いにとって益のある展開のはず。そう信じて忍者は提案する。


『公園内に逃げ遅れた避難者は、アンタ以外にいない。ここはオレが引き受ける……早々にシェルターへ逃げてくれ』


 体に刺さったクナイを筋肉で押し出し、体勢を整えて。

 痛手を負わせてきた忍者に“ラプト”は忌々しい目線を向ける。


『狙いもオレに移ったようだからな』

「……了解した。すまない」

『構わない、それがオレの役目だ。だが、じきにアストライアの戦闘部隊、あるいはニューエイジがやってくるだろう……安心しろ』

「ああ、そうだな……ありがとう」


 申し訳なさそうに、されど心からの感謝を述べて、エイシャは踵を返して戦闘地点から走り去っていく。

 負傷しているとは思えない健脚。

 凄まじい速度で離れる気配を感じながら、忍者は息を吐いた。


『さて、残された者同士でやり合うとするか』

『おう! シノビスタイルであれば遅れは取らん!』

『──ッッ!』


 互いを脅威と認め、己の武器を握り締めて。

 両者は気を(うかが)うでもなく、同時に地を蹴った。

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