第三十話
エピローグの部分が長くなりました。時代考証ふんわりです!こいつがこの人だったんか!という感覚をお楽しみください。
板張りの広間には多くの武者が集まり座していた。甲冑や鍔のぶつかる金属音で広間は騒がしい。
帝が入室すると、居並ぶ武者は深く頭を垂れる。ここに集められた兵の目的は、時の帝、一条天皇より仰せつかった、鬼の総大将酒呑童子の討伐である。百四十年余りの月日が経ったこの時代に、帝とかぐやの真実を知る唯一の人物一条天皇を二人も信頼し尊敬していた。
「作戦を確認するぞ、月衆は嘘がつけない。だから騙すという発想はない。俺たちは山の神の斎主として偉大なる妖、大江山酒呑童子様をもてなしたいと採掘して集めた紅玉、碧玉、翡翠を持って山に入る。男女の別なく繁殖する月衆は男女の別なく美しい人間に目がない、のでかぐやが女装し巫女になり神楽舞を見せる」
今は別の名を名乗っているが、帝は時々以前のようにかぐやと呼んだ。
武者たちは皆神妙な顔をしていたが内心大興奮であった。神楽舞だと言っているにも関わらずアメノウズメや出雲阿国が見せたようなストリップを想像した者もいた。
(中身は百四十年ぶりに女装する爺だけどな)
口を開くと嘘をつくことになり発疹が出てしまうので黙っている。
「卜部と坂田からやめておけと言われたのだが、俺も美しいので巫女姿で舞うことにする」
「自分で言うの」
かつて皆で宴の真似をしたことを思い出して、かぐやは思わず噴き出した。あの時もこんなやりとりがあった。百年以上月日が経ってもこいつは何も変わらない、と隣の帝を見て笑いを堪えている。
「利用できるものは利用していかんとね」
「機嫌が良くなってきたらこの毒酒をじゃんじゃん注いでやれ。酒が回って動けなくなったら卜部が早馬で根城の前に隠れた兵を呼びに行く。一気に攻め入って、この刀で首を落として討伐完了!」
簡素な布団が敷かれた部屋に帝とかぐやは飛び込んだ。布団から埃が立つ。
「俺こっち!」
「俺が窓側で寝る!」
かぐやが古ぼけた枕で帝の後ろ頭をはたいた。帝は笑いながら自分の枕をかぐやの顔面に当てる。やるか? と口の端を上げたかぐやが立ち上がりまた帝の頭を枕で叩く。楽しくなった帝が応えて立ち上がるとやり返す。いつのまにか大きな笑い声を上げ、枕投げに発展しくすぐりあったり布団の上で相撲を取って転げ回ったり二人は童のようにはしゃいだ。
襖が勢いよく開いて腕を組んだ坂田金時が二人を怒鳴りつける。
「頼光様! 綱様! いい加減寝られませ!!」
帝の今の名乗りは源頼光。かつて天皇であったことはおそらく誰も知らないし、信じないだろう。どこからどう見ても生まれてから二十四、五年の若い武士である。
酒呑童子、茨木童子、土蜘蛛、大蛇、山姥に姑獲鳥。古の怪異と呼ばれる妖や鬼たちはおおよそが月衆の残党だった。あれからこれだけの月日が経っても、再度月からの侵略者が訪れることはなく、捕えた怪異たちに吐かせた情報によるとおそらく月衆のほとんどは、大王により生命を維持していた……人間とかぐや以外の餌が強力な生命力を持つ大王の体液しかなかった、大王や大王を守っていた人型月衆以外は侵略が出来るほどの高度な知性がなかった、などの理由により絶滅したらしかった。
こうなると餌である人間が近くにいる、日本に残ってしまった残党の方が危うい存在だ。月に帰る術もなく暴れていた妖たちを根絶やしにするため、二人は百四十年も生き続けたのである。ちなみに、涙の供給を止めてからも帝はそこそこに長生きをしたため、この時酒呑童子を倒してからも茨木童子や土蜘蛛との戦いは続く。
そして、源氏の子孫である源融の養子になり名を変えたかぐやが名乗ったのが、渡辺綱。
日本一有名な怪異殺しである。豪胆にして美男子であったとの記述が様々な御伽草子に残っている。
それからさらに、数十年。
年老いた帝は布団に伏していた。
「ああ、これで本当に、終わった。ありがとうかぐや」
「俺がありがとうだよ、ばか」
帝の呼吸は、だんだんと静かにゆっくりになっていく。
「また絶対遊ぼうな、愛してる」
帝はしわがれた声で笑った。和歌にも詩にも折りこまず直球で投げてくるところがかぐやらしい。向けられる感情の心地よいこと。
「……はは、わさびないのに泣いてるの? いいんだよ、充分長すぎるほど生きたんだから」
涙を拭おうと差し出した指は、もう頬まで持ち上げることができない。
「寂しいもんは寂しいんだよ」
「……泣き止め」
「無理」
帝の皺だらけの手を握り、その最後を看取る。かぐやだけが若い姿のままだった。
偶然なんですけど渡辺綱が美男子設定見つけた時は嬉しかったです。




