第三十一話【最終話】
自粛期間の暇つぶしにしていただければ、と書き始めたかぐや少年も最終話を迎えることが出来ました。小説って難しい。楽しんでいただければ幸いです!
かぐやは一条天皇と御簾越しに向かい合っていたが、天皇は人払いをして御簾を上げた。
「育ての親を百まで生かし、親友を百年以上延命しましたがとうとう私も一人きりになりました。永遠に生き続けるのは辛うございます。私の滅ぼし方は私が一番よく知っています。ただ死んだのではつまらない。民の安寧のため魑魅魍魎と戦い続けた私のために山の奥に大きなたたらを作っていただきたいのです」
「たたら? なにゆえ」
言う通り、大きな製鉄のためのたたら場が作られる。
「私の血肉を、御代の守りとなされませ! とこしえに」
炉の中で砂鉄と木炭がごうごうと燃えている。山から吹く風により火が絶えることはなく、炉の中で砂鉄が精錬されているのだ。
自分たちを脅かす妖が月から襲来したものだと露ほども知らない人々は、月の光に不変の癒しを見出した。そして今やかぐやや帝の手によって月衆は滅ぼされ、月はただ満ち欠けを繰り返しながらそこに『ある』だけの天体になったのだ。
「見えるか、おまえら」
火の爆ぜる音だけが響く中、わけもわからず付いてきた一条天皇やその御付の兵たちはかぐやの指し示す真上を見る。そこには柔らかい光を放ち、遠く宇宙から友達を見守る月の姿があった。
「かぐや様……」
「あの月みたいに、俺もずっとおまえらのこと見てた」
風がかぐやの涙をさらって、月に照らされ頬が光っている。
「なあ『帝』。守らせてくれ。これからも」
おまえを、おまえが大好きだったものを。そう言って、見上げる一条天皇に親指を突き立て、酒呑童子に飲ませた毒酒……強力な睡眠薬入りの酒をあおると意識を失い炉の中に身を投じる。
「かぐや様!」
一条天皇は呆然と立ち尽くし、かぐやの魂がようやく浄土に行ったのだと理解した。
炭になったかぐやの体は、砂鉄に宿り、たたら場の職人の手によって青い粒子の混じった玉鋼になった。
天皇の前に一人の男が深々と頭を垂れて座っている。どうやら、京で名を馳せる鍛冶師のようである。目の前にある鋼で守り刀を鍛えてみせよ。
「……これで」
「ああ。あの空に浮かぶ月のように、千代に、我らを守護する刀を打て」
「はい」
やがて、国の至る所で争いが起こり、武士の源流であった源氏は平家を討ち滅ぼし台頭した。この国は形を大きく変えることになる。人々は刀を取り、血を滾らせ、命を削り、醜く美しく戦いながら、生きて、生きて、生き続ける。
――――……
――――……
現代、関東のとある銭湯。男湯は珍しく貸切状態で、まだ未成年と思しき若い男たちが立派な富士山の絵を眺めながら湯に浸かっている。帝、石上、御行と同じ顔の青年たちだった。
帝そっくりの青年が、富士山の絵を見て涙を一筋零した。
「帝杜なんで泣いてんの?」
青年たちはざわついた。
「わかんないのよ。なんか子供の頃から富士山見ると勝手に涙が……悲しいわけじゃないんだよね。嬉し涙なのよ。不思議じゃない? いっちゃんそういうのある?」
「いやねえわ……ねえなあ」
幸は? と話を振られた青年、みゆきが飛沫を飛ばしながら答える。
「俺ある! なぜか海怖い!」
「そういうのって前世関係あるらしいよ」
言いながら掛け湯をして入ってきたのは、かぐやと同じ顔の青年、輝哉。
「そういう怖い話止めよ?」
怯える帝杜に、怖いか? と笑いながら輝哉が水を掛ける。
「つめたっ、何? なんで?!」
「いや、怒らないなあと思って」
まだ蛇口から出ている水を手に掬って帝杜に掛けている。
「怒らないよ、冷たいでしょ、やめて」
「やめる」
ようやく止めて、輝哉も湯船に浸かる。
「ごめんは?!」
「ごめん」
「素直か」
輝哉は歳より幾分幼く見える顔で、きゃっきゃと笑っている。
「幸せだからじゃないの? 嬉し涙。いやー幸せ。でかい風呂最高。俺は今とっても幸せです」
「そうね……」
噛み締めるように輝哉が言い、帝杜もしみじみと答えるのだった。
おわり
一気読み用にまとめた物をアップ予定でしたが、改ページのやり方や栞の挿入法がわからないので、読みやすさを考慮してこのままの形で残しておきます。ピクシブの方には一気まとめ読み用を上げたいと思います。




