第二十八話
文字数少な目ですが、意図的なものです。
くずおれたかぐやの体を帝が抱き留める。
「回復を、早く!」
「……血が、出過ぎてる。体が動かない。たぶん、おれ、もう……」
回復する余力がない。後に続く言葉が帝の脳を殴った。
死んでいった二人の姿がフラッシュバックして奥の歯ががちがち音を立てて震える。
もう助からない? なんで? 嘘だろう? 舐めれば治るんだろ……。血が足りないってなんだよ。
「けどこれでみんな生きて帰れる。よかった」
笑うかぐやの首に発疹は出ていなかった。かぐやを抱き寄せて口から吐いた血を拭ってやると、かぐやは帝の胸に顔を寄せる形になる。速い心音が聴こえている。はあ、と長く満足したようなため息をかぐやは吐いた。
帝生きてんなあ。
「回復……綺麗な物、そうだ、俺の目食べていいよ、ねえ! かぐや、かぐや! だめだって息吸って、今止血する!」
黒く輝く瞳から、涙の雫が後から後からこぼれ落ちる。夜明けの光に反射して、きらきらと泉のようだ。血と燃え滓の臭いよりも強く帝の衣に焚き染められた優しい花の匂いがした。
目があってよかった。綺麗な物が見られる。
耳があってよかった。心音が聴ける。
鼻があってよかった。優しい匂いが嗅げる。
口があってよかった。誰かを呼べる。
捨てたもんじゃなかった。三年で色んなもの貰えたから。じいちゃん。ばあちゃん。
俺ね、俺……幸せだよ。すげえ。
「みかど……俺の、か、体喰って」
「は?」
「俺の体喰えば不死にはなれないけど、多分千年は生きられる、だから……おまえに、喰ってほしい。月衆には渡したくないから……」
焦点の合わないかぐやに帝は震えあがった。色の白いかぐやの肌は血の気を失いますます白くなり、初めてその姿を見た時の衝撃を思い出すほどに美しかった。
「かぐや! かぐや! 目ちゃんと開けて、なあ!」
帝の願いも空しくかぐやは目を閉じてしまう。
「俺を喰って……」
帝は泣きながら首をぶんぶん振る。涙がかぐやの頬に零れた。
「おれ、まだ……帝としたいこと、いっぱいあったから。千年もあれば生まれ変われるだろ。人の子に生まれ変わるから、待ってて。桃、採りに行こ……」
こんなに話せるなら死なないのではないか、こうしている間にも回復が進んでいるのではないかと淡い期待をしながら帝は必死にかぐやの腹を押さえて血が流れるのを止めようとしている。
「かぐや……」
「泣きやめ」
「そんなん……っ、無理だわ」
ぱたりと腕が落ち、とうとう、呼吸が途絶えた。
「あ、あっ、うそ、うそだ、やだ、やだ……いやだ、死なないで、おねがい死なないで……やだよ」
最後の一体になった下位の月衆は、粘液をごぼごぼと大量に流しながらかぐやの体を喰って回復しようと細い触手でかぐやの体を絡め取る。
「返せよ」
言葉にならない咆哮と共に帝は最後の月衆を殺し、かぐやの体を取り返した。
――――……
かぐやの体は棺に入れられ、長い弔いの儀式の後も帝の御所に安置されている。帝はかぐやの体を毎日花で囲み、かぐやが好きだろうと自らの持つ金銀財宝を詰め込んで泣き暮らした。
季節が移ろう風雅も、歌も舞も帝の心を慰めなかった。美しい玉も白銀ももういらなかった。
最後の願いを聞き入れるつもりもない。
「帝、かぐや姫の……あ、いえ、かぐや様の体を……召し上がられないのですか? 学者が調べた所月衆の体は千年生きられる妙薬だと。京が出来る前に海に現れる妖の生き胆を食べた漁師が今も生きていると噂が」
従者に向ける目は冷えていた。
「喰わねえよ」
入れ替わり立ち代わり、貴族が献上品を持って屋敷を訪れる。どうかかぐやの亡骸を食べさせてほしいと。親や子が不治の病に侵されていると嘘をつく者も大勢いた。多くが帝を口車に乗せ、弔いの宴で亡骸を分け合い食したらどうかと提案してくる。最高権力者である帝自らが亡骸を喰ってくれないと自分たちがそのおこぼれに預かれないと考えてのことだった。帝はそれを突っぱねて、歩いて旅に出た。豪農や貴族の圧政に苦しむ人間のなんと多いことか。帝は、訪れる先々で自分にできることを模索し、奔走した。
かぐやが愛したこの国を守れるように。
旅に出ている間、花を絶やさないようにとかぐやを育てた翁、媼に役割を与え、二人が世を儚むことがないように繋ぎとめる。
もうちょっとだけ続くんじゃ




