第二十六話
かぐやは格好いいんですけど格好良すぎると人間らしさがなくなるので素が男気溢れてるタイプの役者さんではなく素はほわほわした感じの役者さんに演じてもらいたいんですよね(脳内舞台化の話です)
「あーあ……帝隠されちゃった。じゃあおまえでいいや! おまえからも品のいい匂いがするぞ。白い着物のあかちゃん! お肉が柔らかそうだなあ」
元服し冠を着け始めたばかりの少年に月衆は狙いを定める。つい先日まで殿上童として下げみづらを結っていたような子だ。帝を慕ってくれていたので体を張って守ろうと屋根の上に上がってきたのだ。少年は震える手で大きな太刀を構える。月衆はすでに斬り伏せた兵の手から刀を奪い取り切っ先を向けて笑った。間合いを詰め一気に飛びかかってくる。
少年が目を閉じた瞬間、目の前で鎬がぶつかり合う音と火花が散った。
「かぐや姫、危のうございます! 姫がこのような」
その獣のような目を見て少年は息を呑んだ。かぐやが男だとようやく悟る。
月衆と刃を交えるかぐやに目を奪われている貴族も次々声を上げた。
「な、なんと、かぐや姫は男であったか!」
かぐやは月衆の集中が貴族の声によって削がれた隙を突いて身を大きく反らすと切っ先をぎりぎりで躱して踏み込んできた月衆の背後に回り背中から斬り伏せる。
「驚いてねえで前見な。目を逸らすな、戦え! 死ぬな!」
「か、かぐや姫様、貴方を守るべく帝は兵を……」
斬り伏せた月衆が起き上がり更に斬りかかってくる。かぐやはその刀を弾き狙われている少年をどうにか守っていた。
戦闘経験のない貴族たちにも理解できる。帝が言う通りこの少女のような少年は自分が傷付くのも厭わずにこの国の者達を助けようとしている。だからこそ帝は挙兵したのだ。
「てめえで撒いた種だ。てめえで刈るさ。このなりだが一応男なんでな! 帝を守れよ」
守るべきは京と、頭である帝だ。歌を詠み蹴鞠をして長閑に暮らしてきた公家たちの体にびりっと電流が走った。
「…………っ、はい!!」
か弱い姫様でなくても、守る意味は充分にある。帝は両脇を腕に覚えのある兵に囲まれながら一体、また一体と斬り続けた。
帝は回転しながら斬り飛び退りながら斬り上に高く飛び着地しながら斬り、攻撃を回避しながら的確に月衆の動きを封じていく。かぐやとの修行と、月衆討伐で得た剣技を総動員して。後に続いた兵たちがかぐやや帝が斬り回復に移行している月衆に杭を打ち込み油や度数の高いアルコールを撒いて火を点ける。屋根が燃えないよう下に蹴り落とすと、下で待っている兵たちが急ごしらえで作った焚き火や炉に投げ込み回復する前に消し炭にしてしまう。上位になればなるほど回復の速度は上がるだろう。
「かぐや様!」
「なんとお強い!」
行け、倒せ、と平安貴族に似つかわしくない歓声が飛ぶ。その横で悲鳴が上がり石上を殺した月衆と同じ種の月衆が若い貴族を殺し舐め回していた。
「大王……!」
刃が届く期待でかぐやの口角が上がる。長い腕が伸びかぐやの体に巻き付いた。ぎりぎり締め付けられながら空中に持ち上げられる。
「蓮、おまえは罪を犯した。我ら月衆の愛を袖にしてこのような心の醜い生き物に想いを寄せた。ならば現実を知るが良いと罰として堕としてやったのにまだ……我らに弓を引くか」
かぐやは躊躇なく大王の腕を斬り落とす。
(愛なわけねえだろうが。牢に拘束して指もぎ取って足切って、犯してしゃぶって犯させて……そんなもんが愛なわけねえんだよ。俺にはもうわかる)
「れん」
与えられたおぞましい虐待の記憶に、一瞬隙が生じる。人型の月衆が笑いながらかぐやの両腕を拘束した。
大王は巨大な体をぞぞぞと動かして真っ黒い手をかぐやの鼻先に出した。そこにはかぐやが月で人々の様子を見ていた珠が乗っている。そこには年端もいかない子供の体を触る成人男性が、飢えた子供から食べ物を奪う老人が、泣き喚く赤ん坊から母親を引き剥がし犯す男達が映し出されていた。
「…………」
嘘をついて他人の物を奪おうとする者。嘘をついて領土を奪おうとする者。嘘をついて不義を隠す者。嘘をついて金をせしめる者。嘘をついて無能を隠す者。
人間は、大きな欲を嘘で包んで他人を利用しながら生きていた。
愛している、大好き、裏切らないよ。そんな言葉が全部上辺だけの物だと珠の中の人間たちは身を持って教えていた。
かぐやの目から涙が勝手に溢れてくる。体は震えて、声が出ない。大量の嘘を浴びせられ、自分は嘘をついていないのに息が苦しくなってくる。
やめろと叫ぶのを無視して、大王がかぐやの艶のある黒髪を元結ごと口に入れ、噛み千切って飲み込んだ。力を増して大王から後光が差す。
「じゃあ、あんたはなんでこの国を欲しがるんだ」
嘘ばかりの醜い人間を喰いたがるのはなぜだ、見目が自分たちと違うからか? それを美しいと感じたからか?
「その問いに答えるのはやめておこう」
月衆は嘘がつけない。月衆の中でも知能が高い特別な存在として生まれてきた大王。
(俺と同じように人間たちに魅力を感じてしまったからだ)
たとえ見目が整っていなくても、老人でも、泥まみれの武骨な農民であっても、嘘をつき他者を蹴落とし生汚くのさばる一方で、とんでもなく美しいものをたくさん持っているのが人間なのだと察しているからだ。月衆は羨ましいのだ。だから蹂躙して喰って地球を、この国を手に入れてしまえば自分たちにもそれが手に入ると思っている。
脳内で盛大に開演している舞台版かぐや(繰り返しますが、私の脳内で、です)に関しては活動報告をご覧ください。




