第二十五話
かぐやと帝をそれぞれ足手まといヒロインっぽく見せないようにするのなかなか大変でした。性別が男ってだけで足手まといヒロイン化防げるんだろうか……。帝のバトルシーンを増やしたのには実はそういう理由があったり。
――――……
そして、満月。刻限が迫っている。どこに上陸しても兵が分散しないよう兵も帝も、そしてかぐやも帝の屋敷で待機する。すると伝令が駆け込んできた。
「申し上げます、上空の月から光の帯のようなものが降りて参りました」
「場所は」
「……京の……この屋敷の、真上です」
予想通り、かぐやを取り返しにやってきたようだ。だが京中で一番兵が集まるこの場所に来てくれて助かった。むしろ好都合だ。帝は広大な屋敷の屋根には特に力自慢の者を配置した。
「かぐや!」
「来たか。屋根の上で止める。町へは入らせねえ」
俺も行く、と二人は屋根の上に駆け上がった。月衆たちの乗った巨大な光の塊は、輝く雲のように見えた。大王や、引き連れた月衆たちの見た目は確かに禍々しかったが、彩雲は美しく集まった貴族たちはまばゆさに目を細める。どこからか、音が聞こえる。
地響きのような音にも、楽器の音色にも聴こえる不思議な音だ。
ディジャリドゥという民族楽器によく似ていたが、平安時代を生きるかぐやたちには笙の音色に聴こえていた。
釈迦来迎図に似たものを感じた兵は足を震わせ、太刀を取り落した。
未知の妖に対する恐怖を、神に対する畏れに脳がすり替えたのだ。防衛本能が働いたのだろう。多くの貴族が、闇そのもののような大王たちを目の当たりにして神々しさに硬直した。
「む、むりだ、こんな、神を……討つなど、わたしには」
がくがく震えている中年の貴族の前に若い公達が飛び出してきた。
「鬼どもめ、成敗してくれる!」
大王の前にいた蛸のような月衆が彼の足を巻き取り逆さに吊り上げて叩きつけた。
「ああっ、ひっ」
若者の頭の中に帝の声が響く。京を、民を、かぐやを、共に守ってほしい。
「か、かぐやさま、月には、行かせません」
宮仕えをしてはいるが、彼は位が高くなかった。餌として喰うのには適さないのか、月衆はいたぶって愉しんでいる。かぐやが飛び出して巻きついている足を斬り、目を真っ二つに切り裂いた。視界を奪われた月衆は呻り声を上げて苦しんでいる。その隙に心臓に杭を刺し、捕らわれた公達を抱き上げて飛び退ると油瓶を投げつけ松明をぶつけて燃やした。
「貴方は……」
高位ではない彼は求婚には来なかった。そのためかぐやの顔を知らない。腕に覚えのある若く美しい少年兵が自分を守ってくれたと思っているため、名を訊こうとしたのだ。こんな気骨のある者もいたのか、とかぐやは口の端を上げた。
「かぐやだ」
「姫では……?」
ぼんやりする彼もろともかぐやを貫こうと土蜘蛛の月衆が肢を振り上げる。かぐやは彼をひょいと横抱きにして後ろに逃げる。
「ボサッとすんな! 足捻ったか?」
「いえ、平気です」
「顔が赤いけど」
「い、いえっ、平気です、平気です」
男とはいえこれほどまでに儚く美しい少年に見惚れて戦えないのでは情けないことこの上ない。彼は自分を奮い立たせ、再び太刀を構えた。
かぐやは屋根の上を走り兵の前に飛び出た。
「こいつらは神でも仏でもない。俺の知ってる神様はなあ、俺のこと喰ったり殴ったりしねえんだよ。不浄の体でここに入るな!」
屋根を伝って邸内に入らないよう、帝は殿に控えている。ふと後ろを振り返ると、上陸した触手型の月衆を斬り伏せるために振り上げた帝の刀が月光を受けて輝いていた。帝の笑った顔や手の温度を思い出す。
(神様、あんたは帝やじいちゃんやばあちゃん、死んでいった石上や御行の中にいたんだろ)
一体マウントをとって喉笛を掻き斬ると返り血の代わりに吹き出る粘液を浴びながらまた心臓に杭を刺す。
神様はすべすべで温かい。こんな気味の悪い感触ではない、とかぐやは温度のない粘液を拭う。自分の血の色が帝と同じ赤でよかった。
「温かい?」
「かぐやは抱いているとあったかいねえ」
こんな会話があったことを想い出し、心底安心する。俺は人間じゃない。だけど自分より小さくか弱い者をいたぶって愉しむこいつらとは違う。
「蓮や。蓮や。このような下等な種族と馴れ合うな。おまえは誇り高き月衆の末弟。嘘を嫌い無垢な魂を持つ我々月衆の愛おしい末の子」
大王の地を這うような声が轟く。俺が月衆だとわかってしまったら、この人たちは俺を助けるだろうか。敵と認識し排除するのではないか、かぐやの背筋を冷たいものが下りていく。
帝が一体月衆を屠りかぐやの横に飛び出してきた。
「さすが帝、中納言石上麻呂様が剣を教え鍛えたお方だ」
称賛する兵に苦笑する。
「いっちゃんよりかぐやに教わったことの方が役に立ってるんだけどね。おまえはかぐやだ。大丈夫。ここにいるみんな、おまえが月衆だってこともおまえが俺たちのために自分を投げ出そうとしてることも知ってる。わかってて、助けたいって思ってくれてる」
言葉を理解できる知能が備わった人型の月衆がげらげらと下卑た笑い声を上げ突進してきた。
「しってる、しってるぞ帝だ! 一番位の高い子! いい匂い!」
「帝こちらへ! お下がりください!」
数人の公達が帝の腕を掴んで自分たちの後ろに隠す。かぐやのことも庇おうと腕を掴むが、簡単に振り解いて刀を構える。
「もしやそのお顔はかぐや姫……」
求婚に来たことがある若者が声を上げた。まさか、この射るような視線を月衆に投げている少年が?!
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