第二十一話
人型月衆vsいっちゃん、に帝とかぐやが合流しました。クライマックスに近いです。
月からは八体の月衆が降りてきていた。体は黒く、所々から突起が隆起していて、目は複眼だった。口は顔面を横に割るほど大きく開くが唇もなくただ裂傷が走っているだけのように見える。京に時々現れる『鬼』の特徴と一致した。その力は凄まじく強く、石上は走りながら矢をつがえ放ったが飛んでくる矢を掴み粉々にしてしまう。
人型だから人と同じだというのは甘すぎる考えだった。だが今更退くことはできない。
「接近戦じゃないとだめか」
危険を承知で踏み込む。月衆を討つために鍛えてもらった特別な太刀である。切れ味はお墨付きだ。後の世で鬼を斬った刀として伝えられる刀の内どれかを今石上は手にしていた。柄を強く握り込み、振り上げるが骨が硬く刃先は月衆の皮膚の表面だけを斬りつけるだけにとどまった。かぐやと同様ならこの程度の傷は回復するだろう。月衆の手が伸びる。石上は袴を翻しその長い足で腕ごと月衆を蹴り飛ばした。
「いたいゆるさない食べちゃおう」
「食べちゃおう」
「食べちゃおうね」
大きな手が伸びる。石上は刀身でガードしようとしたが、複数に囲まれ隙を完璧に消すことができない。右半身を守ろうとした瞬間に腰を掴まれ引きずり倒された。上から圧し掛かられ、奪われた刀が肩を切り裂く。
「ああああああっ!」
「痛い?」
「痛そう」
「痛そうだねえ」
これで抵抗できない、月衆たちはにやりと口を歪ませ顔を見合わせた。
「痛そうな顔かわいい」
「苦しそうでかわいい」
「この国の人間弱ぁい! ねえ腰なんて我らの半分もないよ」
直垂の中に刃先が入り、内側からぷつんと紐が切られる。貴族とは思えない筋肉の付いた、引き締まり過ぎた細腰を掴んで引きずると月衆は笑いながら叫んだ。
「こんなんじゃ、あかちゃん、産めないよお?」
「こいつら、雄はあかちゃん、産まないんだよ」
じゃあここもいっぱいぶっていいね、と拳が腹に振り下ろされる。熱さにも似た衝撃が走って、呼吸が出来ず激しくむせる。
「かわいいかわいい」
「この子目が金茶だ」
「おいしそう!」
美味そう、と歓声が沸き上がる。足が長くて綺麗だから足ももいで食べようよ、と月衆が腕を離して太腿の付け根に刀を添わせた瞬間に、石上は身を翻し逃げ出した。太刀はもう数本持ってきている。馬から下ろした荷物に駆け寄ろうとするが、斬られた場所から血が吹き出し走ることがままならない。
「いっちゃん!!」
蹄の音と帝の叫び声が聞こえる。
(やっぱり素人の術じゃ弱かったか)
かぐやが馬上で自分の腕を斬りつけた。石上に駆け寄り流れる血を差し出す。
「何してんのかぐや!」
「飲め、回復する」
「いやだ、飲めるか血なんて」
口内に指を突っ込んで無理矢理血を流しこんだ。喉が動くのを確認しかぐやは満足げに笑う。
「ああああはあああまためだまがおいしそうだ! あれはあ、位の高い雄だあああ! 蓮もいる! 食べよう食べようっ、早く!」
月衆は四つ足でわらわらと駆け寄り帝とかぐやを羽交い絞めにして組み敷く。
「ねえねえこの子もお腹がちいさいよお」
「腰が細いって言うんだよ……かわいいねえかわいいねえ食べてあげよう」
「こしがほそいからあかちゃん産めないの? 中身出したらあかちゃん入れる場所できるかなあ?」
(なかみ、出したら……?)
帝は恐怖のあまり泣き出した。抵抗が激しく照準がずれて月衆の振り下ろした刀は帝の脇腹をわずかに斬っただけだった。どうにか刀を握り直し突き立てる。黒い体からタールのような粘液質な血が滴る。
「は、ぁっ……うう、は、はなせ……っ」
ぽろぽろこぼれ落ちる涙を月衆たちは舐めとる。
(俺たちの体液には何の効果もないだろ!)
「綺麗だなあ、綺麗なもの、おいしい、だいすき」
確かに人間の体液に月衆のような回復効果はないが、綺麗な物は彼らの糧となってしまう。もしただの体液である涙さえ『綺麗な物』と認定されてしまったら月衆に力を与えることになる。帝は荒い息を吐き顔を真っ赤にしながらどうにかせり上がってくる涙を堪えた。
(泣かないようにしないと、我慢して、泣いたらだめだ)
「っ、う」
「怖いの?」
「怖くない……死にたくない、やだ、っ、こわい」
怖い、と本心を唇に乗せた瞬間、ぶわっと涙が沸いてしまった。喉を鳴らしながらどうにか飲み込もうとする。
「は、はぁっ、うう、でちゃう」
泣いている場合じゃないのに、と顔を動かすと同じように組み敷かれているかぐやの姿が目に入った。
かぐやの血液を注がれ回復した石上が一体を斬りつける。回復する間を与えず即死させれば死ぬ。心臓に刃を突き立てて息の根を止めると、油を撒いて火をつけた。月衆の体は消し炭になり、一体殲滅に成功する。
「っし、一体殺った……」
「殺された」
「殺された」
「いなくなった」
不死に近い回復能力を持ち寿命が異常に長いため仲間の死に慣れていない月衆が目を見開いて石上に襲い掛かる。
「こっちから殴るよ」
フェイントを疑い咄嗟に殴るよと宣言された方に避けてしまい太い腕が横腹にめり込んだ。
「我ら嘘つかないよ? こっちに避けたら斬れたのにぃ」
殴られた石上は月衆のターゲットが自分に集中しているのを感じて密かに口の端を上げた。
「来い……来い……ほら、こっちだ」
石上は刀を上段に構える。長身を生かし、刀身で殴るように振り下ろす。吹っ飛ばされた巨躯の月衆を一歩踏み込んで真っ二つに切り裂いた。今度は大きな目に刃を突き刺して脳を攻撃し、血振りの後また火をつける。月衆が燃える同胞の上に石上の体を倒そうと胸倉を掴んで持ち上げる。下から炙られ、石上は悲鳴を上げた。
「離せ、熱い……熱いっ、やめろっ」
「いっちゃん!」
ラノベまったく読まずに育ってきた勢なので流行を押さえてはいませんがその代わりランキングトップとは毛色の違う作品にはなっていると思います、当初はサブタイトルも付けてませんでした。箸休めに違うテイストの読みたくなったら和風ファンタジーをぜひ…… フォロワー @kaguyarensaityu も感想(ポジティブなのでお願いします)も、RTやいいねもお待ちしております。




