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第十九話

馬だけは殺せぬ……(ネタバレ)

 帝が二人を手招きして耳打ちする。

 三人だからこそできる作戦。うまくいく保証はないが、とにかくやってみよう。三人は手を繋いだまま全力で走った。

「?!」

 不可解な行動に土蜘蛛は動揺を隠せない。

「かぐや、行くよ!」

「ひい、ふう、みい、っ! 行けッ!」

 帝と石上(いそのかみ)は、かぐやが地面を蹴り上げると同時に思い切りかぐやの体を土蜘蛛目掛けてぶん投げた。カタパルトの要領で普通に飛ぶより高度が上がる。スリーマンセルだからこそできるとんでもない技。後に帝が『三位投擲さんみとうてき』と名付けた。

 かぐやの体はふわりと滞空し、狙い通り土蜘蛛の頭の上に着地する。

 予想の通り、鎧のようにガードされた肢に比べ頭や背は柔らかい。かぐやは頭の上に跨り土蜘蛛の目を突き刺した。

「グアアアアアアアアアアアアアアア」

 咆哮が空をつんざく。肢が生えかけているのを再び帝と石上が斬って、かぐやが振り落とされないように動きを止めた。

「俺の背中踏み台にしておまえも登れ!」

 石上が叫ぶ。いっちゃん、ごめん! と大声で叫んで、帝が石上の背中に足を掛けて高く跳躍した。かぐやが身を乗り出してその腕を掴む。並外れた腕力のおかげで百八十センチくらいはありそうな帝の体をキャッチできる。

「かぐや」

「怖くないか」

「うん。かぐやこそ」

 下を走りながら石上が、いちゃいちゃすな、と突っ込んでいる。

「引き上げてやるから援護しろ!」

 太刀を刺し、頭を上に向かせて土蜘蛛が苦し紛れに吐き出した糸を回収する。手にするのは非常に気持ちが悪かったが縄の代わりに使えるのはこれしかない。かぐやは糸を下に向かって投げる。

「巻き付けろ、引っ張るから!」

「頼む!」

 帝を越える長身の石上の体にも土蜘蛛の糸が巻き付けられ、土蜘蛛の頭上にいる二人が思い切り糸を引くと石上は高くジャンプした。土蜘蛛の横腹を蹴り上げて背中に上る。

「同時に行くぞ! せーのっ」

 頭を斬りおとすと凄まじい声で土蜘蛛は悲鳴を上げ、ぴたりと動きを止める。

「やった!!」

「いやまだだ、これだけの大物だぜ? いつもみたいに杭を刺して燃やすのにもどれだけかかるか」

 山の傍には豪農の屋敷が点在していたが、人は住んでいるのか住んでいないのか、ひっそりとしていた。ところが、その屋敷の戸が開いて木の杭を持った人々が駆け寄ってきたのである。

「わしらも手伝います!」

「うちの娘が土蜘蛛に攫われたんじゃ」

「うちは嫁が」

「我が家は幼い孫が……」

 集まった農民は総勢三十人ほどに膨れ上がった。かぐやがそのうち五人を連れて攫われた者達を助けに向かう。土蜘蛛の餌穴は山に入ってすぐに見つかった。生き延びた人や馬が穴の中から悲鳴を上げている。

「無事か! 馬もいるな!」

 かぐやの馬も無事に生きていた。攫われた僅かな数の少年が穴の入り口で女性や子供を背に庇うようにして座っている。かぐやが穴に入ると土蜘蛛だと思ったのか木の棒を手に取り戦おうとする。

「助けに来た!」

「助かったのですか!」

「女子供守ったんだな、よく頑張った。偉いぞ」

 京から攫われたのは稚児から殿上に上がったばかりの少年が多かった。かぐやに頭を撫でられて、堪え切れず泣き出してしまった。

「あんたらもよく生きたな、こんな過酷な状況でも馬喰わずに耐えたのか」

「はい、馬たちが私たちに寄り添って温めてくれました」

 おまえも立派だったなと馬の横面を撫でるとどこか誇らしげにしている。

「桜の花を齧って空腹を凌ぎました」

「そりゃまた……宮中の女官に負けねえ雅さだ。怖かったろ」

 農家の娘の頬に零れた涙を拭って微笑むと、少女たちは声を上げて泣き出した。

「助けていただいていいのですか! だって私たちは米作りの農家で公家のお姫様でもないのに……このまま土蜘蛛の贄にされるのだとばかり……私たちが喰われることでお姫様の身代わりになったと捨て置かれるものだと思っておりました」

 かぐやは帝や石上と比べると十センチほど低い、およそ百七十センチくらいのスレンダーな体型をしているが中身は男前である。少女たちを抱き寄せて背を撫で

「当たり前だろ、もちろん男だって俺は守るけど、あんたら……女人っつうのは腕の力も拳の力も男より弱い。危ねえ目に遭った時に怖くねえように優しくしてやんのにお姫様だろうがただの娘だろうが、区別なんてねえよ」

 と言い放った。少女たちは腰を抜かした。

「おお、だ、大丈夫?」

「素敵すぎて……お名前は?」

 かぐや、と名乗ればなよ竹のかぐや姫だとばれてしまう恐れがある。

「えーーーーっと、訳あって真の名は告げられません。竹の君とでも呼んでくれ」

 しばらくの間、京の内外の女性の間で麗しき竹の君の噂話がブームとなった。目撃者の証言や想像を元に描かれた姿絵に初恋を奪われる幼女たちがいたとかいないとか。

 ともあれ、かぐやは救助された人々を引き連れ帝たちの元に戻ってきた。

「我らも手伝います!!」

 助けられた者達は再会の喜びも束の間に大量の薪を運び一気に高温で土蜘蛛を燃やす。

 巨大な体は炭になるまで長い時間を要したが、ようやく消えてなくなり一時的に京の外には平穏が戻ってきたのであった。


馬と犬と猫と兎とリスとハムスターだけは殺せぬ……

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