第十七話
加筆したバトルのターンが書き終わったので更新再開します!加筆部分、区切りがいい所で話数を区切ったので2000文字の回と3000文字の回と、幅がありますがお許しください!必殺技めちゃくちゃ難しいですね、世の必殺技考える人尊敬しますわ……
気迫を漲らせてはいけない。そう。投げられた毬や枯れ枝や青竹をただ迎え撃つのだ。
気持ちが凪ぐまで、ゆっくりと呼吸をしながら、花鳥風月を愛でる平安貴族らしく耳の傍で木立がさわさわと揺れる音を聞く。怖くはない。後ろにかぐやがいる。大怪我をしてもかぐやが自分を救ってくれる。かぐやが守れれば自分も助かる。
いや……助からなくても、かぐやを守る。
ぼろぼろになっても帝を、京を守ってたった一人夜通し痛めつけられ戦ってくれたこの子を。
今度は俺が何があっても守る。
姫だとか男だとか女だとか、人外か人かなんてもうどうでもいいんだ。
剣豪だからとか、強いからとか、致死量の傷を負わない限り再生するとか、そんなこともどうでもいいんだ。
「わかんないけど、わかる。いい子だから、好きだから、守るのよ」
なあ同胞喰いの月衆、おまえにわかる?
「やっと! やっと喰える!! 美しい人のめだま!! 体!! 蓮の体も!」
叫びながら沼女が突進してくる。
よし、来い。来い。そうだ、もっとだ……もっと!
「?!」
沼女に戸惑いの色が浮かぶ。どちらに動く? なぜ動かない? 喰われる覚悟でも決まったのか? 帝は片足を上げ、太刀を後ろに引く。ようやく動き始めたがまったく見たことのない太刀筋で沼女の戸惑いは大きくなるばかりだ。
帝がモーションに入った時にはすでに沼女は襲い掛かる自分の勢いを殺せなくなっていた。猛スピードで振り抜いた太刀に当たりに行ってしまい、体は見事両断された。
「やった!」
かぐやが持っていた袋の中から鉄杭を出して両断した体のそれぞれを地面に打ち付けると、大量の油を撒いて枝を燃やす。沼女も無事に天に召されていった。
「はあああ怖かった……かぐやー、終わったよ」
かぐやは岩の上に寝そべって寝息を立てている。限界だったんだね、そう言って帝はかぐやを背負い馬を預けた農民の所へ戻ってきた。
「ひ、ひえ、御公家様そのようなぼろぼろの格好で!」
「大丈夫。二人とも無事です」
背に負ぶったかぐやの姿を見せる。
「この方をお迎えに?」
「はい。あ、これありがとうございました」
草鞋を返却し、沓を受け取ると眠ったままのかぐやを紐で自分の体に括りつけて前に乗せ、後ろから手を伸ばし手綱を握ると京までの道をゆっくりと戻ってきた。馬に揺られながらかぐやは目を覚ます。
「悪い、寝てた! おまえの命が危ないって時に」
「回復するのに手っ取り早いのは眠ることだからね」
背中が温かい。安心感と多幸感に襲われる。かぐやは鼻の奥がツンとしかけて慌ててまばたきをした。
それからまた季節が少し移ろい、帝と石上はかぐやの屋敷に集まっていた。
触手の月衆を討伐して以来、鳴りを潜めていた月衆がここ数ヶ月でまた暴れ始めている。
「京の外だけど、この“土蜘蛛”っていうのが頻繁に暴れ回っているらしい」
「先日は門の中に侵入して女人を攫っていったとか」
「逃げ延びた女官によると土に掘られた穴の中に閉じ込められているらしい。頭はあまり良くないみたいだな。人に食事をさせないと死ぬのを知らなくて何人も飢え死にさせてる」
京の外なら屋敷は少なく、彼らの好物の位の高い美しい人間を攫っていくことはできない。だがそれでも農家の嫁御や美しい娘、時折男や庭の桜の木など、手当たり次第に持って帰っているようだ。
「どれが気に入るかわからないから色々持って行ってる、って感じだな」
「ああ。俺に求婚に来た貴族たちが見目いい物をとにかく貢いでったような」
「もしかして、大王に献上してるのか」
その可能性は高い。自分が喰うつもりもあるのだろうが、監禁しておいて大王が地上に降りた際に捧げるつもりでいるのだろう。潰しておかねば大王の脅威が増す。
「少しずつ京の中に侵入してきてる。かぐやの気配を感じているわけではなさそうだ。京に入ろうとしているのなら、標的は美しい女官たちか、あるいは公家の男か」
京に入る前に討伐に行かねばならない。飛んで火に入る夏の虫状態なのは、餌だったかぐやも、位の高い美しい男に該当する帝も石上も変わらない。
檜扇を勢いよく広げて石上が煽った。
「俺たちが標的ならば石室の中にでも籠って震えてやり過ごした方がよいのではないか?」
「か弱き女人や力のない稚児が攫われ喰われるのをただ見ていろと?」
かぐやも艶やかに笑って見せる。もちろん、本当にそうするつもりなど微塵もない。石上の手から畳んだ檜扇を奪い取り、帝が膝をぱんと叩いた。
「は、そんなことできるわけないだろ」
かぐやと出逢った頃は剣術の修行など嫌だ怖いと半泣きだった、やんごとなき男である。
「おまえがそんなことを言うとは」
「留守番でもいいんだぜ? 帝は優しいから刀を振るうには……」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 国の頭が皆を見殺しにしてどうするの」
石上の心にはわだかまりがあった。こんなことにならなければこいつは花木を愛でて暮らしていたのだろうに。けれど、自分の身は自分で守れなければならない。
「京に入る前に止めよう。献上品を貯め込んでいるってことは、大王が知らぬ間にここに降りてきている可能性はないってことじゃん?」
三人なら、活路が見出せる。突き出した拳を三人でこつんと合わせて、討伐の準備を整えるために帝は馬を繋いである繋ぎ石に一足先に向かった。
石上がぽつりと言った。
「月に戻らなくても、みんなで戦えばいいんじゃない。もうおまえだけが犠牲になることないんじゃない」
「…………帝が、いや、あんたもだけどさ。無事なら。俺はそれでいい。一番あいつが危なくない方法を取りたい。わかってる、鬼が出ようが蛇が出ようがあいつをここに閉じ込めてしまえば危険は及ばない。土蜘蛛だってまた俺一人で行けばいい。俺は月に戻るよ」
かぐやは俯いて、衣の裾を指の先が白くなるまでぎゅっと握った。
「そうしなきゃいけないのに……! 心がばらばらなんだよ! あいつを守りたくて、だけど……一緒に戦いたい、戦って生き残りたい」
「しなきゃいけない、するべきだ、よりも……したい、っていうのが心ですよ。かぐや」
かぐやは唇を噛み締めた。
「だめだ」
心とはかくもままならぬもの。石上は黙ってかぐやの背を叩いた。
「かぐやは策を練って海の月衆を倒したろ。帝だって考えて沼女を倒した。今度は三人だ。きっと勝てる。俺も調べたが土蜘蛛は大王やその側近、俺たちがずっと鬼と呼んでいた月衆より弱い。そうだろ?」
かぐやは黙って頷いた。鬼の強さはお墨付きだが、土蜘蛛は各地に現れた個体をその地の領主が討伐したという記録もある。
川を散歩していたら、小さな子供が拾った丸い綺麗な石を渡してくれたことをかぐやはふと思い出した。ここで帝を守ることに専念したらおそらく、攫われた中に含まれるそんな人々が犠牲になる。
「一人より三人の方が強いよ。海の月衆倒した時だって一人だったからだいぶ消耗したろ」
「頼っていいのか」
「もちろんですよ」
心は揺らぐ。結局、一緒に戦いたいという願いを押し留めることが出来ずかぐやは帝や石上と並んで馬に乗った。
馬も直前で逃がすつもりでいることを悟ったのか、帝の馬を世話している厩番が鞍を付けながら言った。
「この子らも一緒に戦わせてやってください。わかるんです。彼らは人と共に戦うことに誇りを持っている。そこが野原でもいくさ場でも、ずっと共にありたいはずだ」
帝は笑って、愛馬に頬擦りした。
昨日スーパームーンだったんですがお休みが今日だったので加筆間に合いませんでした。
@kaguyarensaityu にて更新のお知らせをツイートしておりますので、RTやいいね、感想などぜひよろしくお願いいたします。




