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第十三話

かぐや姫が少年だったら。第十三話、大きな喪失を経験するかぐや。

今日はWiFiの不調で更新ができませんでした。とりあえずiPhoneからどうにか更新です。

 御行の治療は三日三晩続いた。目は抉られたまま、体中が炎症反応を起こし高熱が出ている。意識は戻ったが、それからずっと予後が悪い状態が続いている。

 使いを待つためかぐやの屋敷で待っていた帝の元へ、御行危篤の知らせが届く。かぐやはすぐに、馬を引いてきた。帝の手を取る。

「行こう」

「うん……」

 かぐやは帝を馬の後ろに乗せ、鬼気迫る速さで御行の屋敷に向かった。

「意識があるうちに会えるかな……」

「絶対間に合わせるから」

「かぐや……かぐやがいてくれてよかった」

(違う、俺のせいなのに!)

 片手で手綱を握り、腰を掴む帝のその手をかぐやは掴む。失いたくない。死なないでくれ。


 通されただだっ広い部屋では、御行が変わり果てた姿で寝かされていた。目には義眼を入れておらず、濃い色の布が巻かれている。若々しくハリのあった肌は見る影もなく、体は棒のように痩せていた。横に控えていた医者が、かぐやと帝が来たことを教える。朦朧とした状態がここ一週間ほど続いており、水を飲む力さえないと言うが、それでもなお家の者とは話そうとするそうだ。

「みゆき! みゆき、なんで、なんでこんなっ」

 帝は御行に駆け寄って、痩せ細った手をぎゅっと掴んだ。

「みかど……」

 立ち尽くすかぐやに、御行の母が泣き崩れながら教える。

「目を奪われ、そこから回った菌で体が侵されました。食べることができなくなり、高熱が続き、もう……このまま死ぬのを待つばかりです。貴方に……最後に逢いたいと、うわごとのように、ずっと」

 泣きながら手を握る帝に、御行は掠れる声で答える。

「船から、落ちて……」

 どうしてそんな、嘘をつく。かぐやは言葉を失った。帝を巻き込まぬよう。かぐやのせいで起きたことだと帝に気付かれぬよう。御行はとうとう真実を話さなかった。

「みかど、かぐやと……二人に」

「うん、みゆき死なないで、お願いだから」

 帝はよろめきながら部屋を出ていった。かぐやは人払いがされたことを確認して、御行に駆け寄ると自らの腕を切った。流れ出る血を無理矢理御行の口に注ごうとする。

「なあ、飲んでくれ……回復するまで、どうか」

 しかし口に入ったかぐやの血を、飲み込む力はもう御行には残されていなかった。

「か、かぐや……」

 御行は枕の下から手紙を取り出した。


『万が一、この先自分が言葉すら話せなくなった時のためにこの手紙をしたためておきます。妖に目を抉られた後、体中が熱をもち、食べ物は体に入れるなり吐いてしまいます。このままでは俺は、死ぬかもしれない。そうなったらきっと俺に月衆のことを教えた貴方はひどく後悔するでしょうね。でも別に俺は、貴方に討伐を命じられて行ったわけではありません。今自分が生きているこの国を守るために、自ら妖退治を決めました。貴方が後悔することは何もない。宴の日一緒に朝焼けを見ましたね。はしゃぎすぎて体中が痛くなったけど、誰かと夜更けまで遊んだことなんてなかったから、楽しかった。帝と石上を守ってください、俺の大事な人です。帝だからじゃなくて、友達だから頼みます、守ってください。かぐやも友達だから。長生きしてね』


 次に話しかけた時には、呼吸は限りなく弱く、握った手の末端は冷たくなっていた。駆け込んできた医者は、御行が喀血したものだと思い込み焦っていたが結局、何もできないまま、御行の呼吸は止まった。生命活動が止まったことを医者が告げると、家族が若くはつらつとしていた御行の体に縋り付いて泣く。かぐやはふらついて、ただ一人その輪から外れて庭に降りると木の幹に体を預けてうずくまった。

(目を失っただけで死ぬのか、人の子は。療養していれば回復するのだと思っていた。あの時腹を切ってでも御行に血をあげればよかったんだ! じいちゃんも、ばあちゃんも、こいつらはこんなにも弱い、脆い……。俺のせいだ、月衆が厄災なんじゃない。俺が厄災だった)


 友達を失いショックを受ける帝を迎えに、石上(いそのかみ)が御行の屋敷を訪れたが、最後のお別れをしている帝から離れ、庭に降りてきた。

「かぐや。御行は月衆にやられたんだろ。俺は帝ほど馬鹿じゃない。あれは海に転落しただけの怪我じゃない……海に出る月衆の情報も独自に調べてたからね」

「石上……」

「俺、本当はあんたを口説こうと思って近付いたんじゃないんだ。帝の毒味役で来た。俺はうそつきだ……ごめんな。だけど、あんたの言う敵と戦う覚悟は決まった。それだけは本当」

 かぐやは慌てて立ち上がり石上の胸倉を掴む。

「だめだあんたまで……っ」

「俺なら力を貸せるから、代わりに帝のことは……この件に関わらせないでくれ。国とか京とか、本当はどうでもいいの。ただ、あいつが怪我したり、危ない目に遭うのがやなんだ」

「石上、あんたも巻き込まない」

 かぐやは力なく手を下ろした。

「あとは俺が一人でどうにかするよ。あんたは何もかも聞かなかったことにして帝のそばにいてやってくれ。守ってやってくれ。俺、やっぱりこの国のやつを巻き込むのはいやだ。いいやつが多すぎる」

 石上はかぐやの肩を掴んだ。驚くほど華奢な肩だった。人智を超えた力を持つと言われても庇護欲をそそる。

「一人でって……」

「最悪俺が死ぬだけで済むように考える」

 かぐやの体には超回復、不老、不死に近い長寿をもたらす効果がある、と以前聞いたはずだ。

「……不死じゃねえのかよ」

「不死じゃないよ」

 石上は、かぐやの首を見た。発疹は出ていない。

(こいつ、馬鹿なんかな。巻き込みたくないなら黙って離れればいいのに。一人で死ぬなんて言わなきゃいいのに)

 まるで引き留めてほしいような言動だ。

「回復に力が割けなくなったら普通に死ぬんだ。回復するまでに致命傷与えられたら間に合わない。だから、餌にされても体が散り散りになるまでは生きていられるけど、心臓や目まで喰われたらきっと最後は死ぬ」

 月衆は骨までしゃぶりつくす勢いで、時間をかけてかぐやを消費するだろう。何十年、何百年と大王に犯され、体液を搾り取られ、部位を喰われて、回復できなくなってきたらとうとう、死ぬ。いっそ、一思いに死ねれば楽だろうとかぐやは身を震わせた。

 それを見て、石上は気付いた。

(ああ、助けてほしいのか。本当は。俺たちに救ってほしいんだ。縋るような目をしている。自分で気付いていないのか)

明日以降更新できるのか?本編共々ヒリヒリする展開です。

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