第十二話
バトルソードプリンスオブカグヤです。第十二話です。休みの日じゃないと大幅な加筆できないんですけどここに来てバトルとか必殺技とか足したくなってきました。
「か、かぐや」
意識を取り戻した御行が掠れた声で呼びかける。
「御行!! 俺のせいだ……」
「ここは危険だ、たとえかぐやが男でも、あのような妖に勝てるはずもない」
そう言って、健気にも櫂を探し浜へ向かって漕ぎ出した。目は失ったが、一刻も早く医者に見せなければ命も危うい、そう判断したかぐやも手伝い舟を浜まで漕ぎつける。
「逃がしはしないよ、かわいい蓮、きれいな蓮、わたしたちの蓮」
にゅるにゅると月衆は、誘い出されるままに浜に上がってきた。
「……かぐやだ」
吐き捨てるようにそう訂正して、かぐやはいっそ緩慢なほど、ゆっくりと太刀を上段に構える。隙がない、触手の月衆は攻めあぐねぴたりと止まった。だがおいしそうだ、ほしい、かぐや? なんだそれは、このきれいな生き物は我ら月衆の末の子で、慰み物で、食べ物の、蓮だ。蓮、蓮! 足の指を、爪を、髪を、手の指を、一本ずつ食べるために大事に飼っていたのに! めだまは大王様に献上するのだ。ああうらやましい、さっき食った栗皮色のめだまもそれはそれは美味だったが。月衆は恍惚と唾液代わりの溶液を飲み込む。
「人の子ならばやはり位の高い、若い、うつくしいおのこのめだまが一番おいしい……!」
かぐやが一歩踏み出した、そこから目で追い切れぬほどのスピードで斬り込んでいく。回転しながら触手の攻撃をいなし、流れるように触手の根元を斬る。何本もの触手が一斉に矢のようにかぐやの足を狙い突き立てられる。かぐやは飛び退り避けると腰を低く落として体勢を整え細い触手に脇腹を貫かれながら踏み込んだ。一秒にどれだけの手数を繰り出しているのか常人には見当もつかない。
「おおきみ、さまの、ところへ」
「…………っ」
「おまえは、おおきみさまのえさ、この国の民も大王の餌! あああがああああうああああ」
「五月蠅い」
じり、じりと這いずり回る触手を制するように構えを下段に変え、間合いを取る。触手に貫かれた腹から血が滲む。海岸に血だまりができる。
「人の子の振りが上手だねえ、月衆のくせに。おまえの周りの人の子も、おまえが瑠璃だの金だの喰らうのを見たらひっくり返るだろうねえ、化け物だと! 我らを裏切って逃げだんだ、今戻っても咎人だよ、大人しく戻っておいで、抵抗して腕が捥げるのは嫌だろう?
どのみち人の子の国にはおまえに生きる場所なんてないのだから……」
太い触手の下に深く潜り込んで躱すと、かぐやは太刀を月衆の顔に突き立てた。
「ああああああああああああああああああああ!!!!!!」
断末魔を響かせ、月衆は動きを止めた。すぐに再生がはじまるだろう、だが今は御行を助ける方が先だ。かぐやは刀を納めると御行の目に布を巻いて止血を試みる。
「しっかりしろ」
かぐやは自分を責めた。敵の情報を盗み見られただけではない。月衆が位の高い若い男の目玉を好むことも忘れていた。美しい目玉は特に好まれる。
「くそ……」
忘れていたのだ。自分が美しい物を栄養源として食す人ならざる者であるということを。鉱石や花を喰らう人外の化け物だということを。人間の営みに慣れ過ぎて、愛され過ぎて、自分は人間であると錯覚したのだ。
「……俺は月衆だ、人外だ」
そんな簡単なこと、なんで忘れてた。この国の人が餌にされるのを止めたかった? 結局巻き込んでいるだけじゃないのか。
「気味が悪いだろうが、堪えろよ」
人間を越えた存在である月衆、かぐやの体液には、回復の効能がある。超回復、不老、不死に近い長寿。慰み物にしてねぶれば、唾液、涙、汗、血液、そして精液とあらゆる体液が搾取でき、指を切り取られても自ら舐めれば代わりの指が生えてくるので半永久的に餌にすることができる。美しい上になくならない餌。月衆にとってこんな都合の良いものはなかった。かぐやは荒く息を吐く御行の顎を掴み、半ば強引に口付けた。促すように舌を絡めてやると、こくんと喉が動く。
わずかばかりの体液ではあったが、止血はできた。御行を抱え上げて馬に乗ると、使者の元へ駆け戻る。その間も流れ出る血を御行に飲ませ続け、屋敷に着いた時かぐやは意識を失った。血を流しすぎたのだ。従者がそのまま、御行を引き取り屋敷の中に連れて帰った。
「かぐや様もこちらで手当てを!」
従者が再び屋敷の前で倒れているかぐやを引き取りに来た時にはすでに、かぐやは姿を消していた。自分がここにいては安全に治療が行われない、と朦朧としながら体を引きずって歩く。
「かぐや! ぼろぼろじゃないか、かわいそうに」
がくんと膝を突くかぐやを気遣って、翁と媼が背を撫でる。
「舐めておけば治ります」
「な、何を言って」
「……治ってしまうんです、俺は、ここに来るべきじゃなかった。人の子としてもう少しここにいたかった」
腕を自ら舐めると血が止まり、傷が塞がっていく。
「こんな化け物を今まで育ててくれてありがとうございました」
「滅多なこと言うもんじゃない。おまえはまだここにいるんだよ。いていいんだよ」
媼はかぐやを抱きしめた。
「どこの誰であっても、もうわしらの子だよ」
「おまえが何と戦っているのか、わしらにはわからん、だがもう少しここに隠れ、帝の力をお借りすることだってきっとできるはず」
「おまえを誰にもあげやしないからね」
「帝まで巻き込むわけには行きません」
(貴い人だからじゃない。あいつだから巻き込みたくねえんだ)
翁は抱きしめる腕に力を込めた。
「ああかぐや、わしらは年寄りじゃ。どのみち、あと少しで天からお迎えが来る。その間だけでもいい、わしらのかわいい子でいておくれ」
翁と媼の体温が肌を通し伝わる。憧れていた人の子の温度。求めてはいけない、ここにいてはいけない、わかっているのに体が動かない。自分と言う餌の存在を欠いて年月が経ったせいで、敵の力も弱まっているのではないかと期待してしまう。かぐやは年老いた両親の腕の中で大きく息を吐いた。頼む、まだもう少しだけここに……。
「本当は出ていくべきなのでしょうが、どうか今しばらくじいさまばあさまと一緒にいることをお許しください。もっと強くなります、もっと、もっと。必ず……止めて見せます、何もかも」
大きな姿になってからは随分久しぶりに、媼のしわがれた手がかぐやの頭を撫でた。
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