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第十一話

かぐや姫が少年だったら仲間と共に月からのお迎え(妖)と戦っていたかもしれない、という御伽話新訳です。楽しげな日常パートの後には、シリアスなバトルのパートが待っているわけで……

 月に戻るまでにやれることはまだある。かぐやは人払いをして、部屋に籠っていた。古来より伝わる妖の特徴が自分の知る月衆と合致していることを突き止めたのである。

(ここ最近海に出没し人を喰う妖、こいつはおそらく月衆(げっしゅう)だ)

 かぐやはその月衆にについて数日熱中して調べていた。御行は、かぐやを驚かそうと裏門からそっと屋敷に入り、沓脱くつぬぎ石から忍び足で廊下を歩いた。襖の隙間から、かぐやの寝姿が見える。

(昼寝してるのか)

 文机に近付いて、かぐやが何か書いていた紙が目に入ると御行は息を呑んだ。凶悪な妖を退治するため、かぐやは自分に求婚してきた男を試して兵を準備させようと考えていたのだ。


『月衆の襲来は満月の日が多い。記憶は曖昧だが、自分が竹に入り込んだのも満月の日だったような気がする。こうしている間にも海沿いの町に住む人間たちが毎日のように月衆に喰われている』

(帝になら、充分な兵が用意できるかもしれない。そして充分な数の兵のうち何割かは……妖に喰われて犠牲になるだろう。それもやむを得ない……とは、割り切れないんだな、かぐや)

『兵を頼む』という文字は何度も消されて、文机の横には手入れされた太刀が置かれている。

 御行は黙ってその場を離れた。

 海沿いの町には、母方の親族が社を持っている。神職の美しい娘がいたはずだ。

「止めなきゃ……」


(早く何とかしなくては)

 屋敷を出た所で、御行は帝と鉢合わせた。御行の顔は真っ青になっている。

「みゆき、どうした? 具合悪い?」

(兵を整えて? そんな時間はない。俺が止めねば……あの穏やかで美しい海沿いの町は月衆に蹂躙(じゅうりん)されて血塗れの廃村になるんだ……それだけじゃない。帝もかぐやも標的にされるかもしれない)

 帝は歩み寄って御行の肘を心配そうに擦った。大丈夫? と眉を寄せて訊いてくれる。

「……帝。しばらく会えないかもしれないけど、息災で」

「え、どうしたのほんと、みゆきどっか行くの?」

「大丈夫、親族の用事で海の方へ行くんだ。造った船が海へ出る。その祝いの祭りに出るんだよ。心配しないで」

 その笑顔があまりにも透明で、帝は言葉を失った。

 数日後、京を噂が駆け巡った。


 大納言大伴御行は求婚中のかぐや姫から『龍の首の珠』を持って来いとお題を出されたらしい。勇んで海に出掛けて行った、と。確かに、龍の伝説のある海に警戒していた月衆は棲んでいる。あの日、帝が屋敷の前で御行と擦れ違ったと言っていたのだ。

 あれを見られていたとしたら……。うかつだった。かぐやの心臓が早鐘を打つ。


 かぐやの元に御行の使者が文を持って駆け込んできた。

「大伴御行様が、海に出られました、周りの者には龍の珠を取りに行くのだと言って……!!」

 信頼できる従者にだけ、御行はすべて打ち明けていたのだろう。

 家の中で質素な着物と袴に身を包んでいたかぐやを見ても、使者は驚かない。翁と媼は顔を見合わせた。

「俺が斬るつもりでいたのに!」

 かぐやは奥の間に飛び込むと打たせた太刀を掴んで使者の乗ってきた馬を奪い取り、海岸まで一気に駆けていく。

 悪い予感は的中した。沖に浮かんだ舟を取り囲むように、黒い蛸のような、蛇のような禍々しい触手が這い回っている。中心には赤くただれた目が辛うじて二つついていた。明らかに、龍などという神々しいものではない。

 海に飛び込み、泳いで舟に近付こうとするかぐやをあざ笑うように妖は笑い声を上げた。

「きれい……きれいなまなこ。ああ、おいしそう……」

 触手で船上の御行を絡め取り、線のような口を開く。

「くっ、う、はなせっ」

 口から長く伸びた舌が御行の小袖の中を這いずり回る。

「当てずっぽうでいいからとにかく振り回せ!」

 舟の上に辿り着いたかぐやが叫ぶ。御行は雄叫びを上げて太刀を振り回すが剣先はかすりもしなかった。

「きれいなもの、おいしい。この子の目玉、きれい、きれい」

 触手に両の目をえぐり取られ、御行の悲鳴が海に響き渡った。妖がぎょろりとかぐやの姿を捉えた。

「ああ、見つけた! こんなところにいたか、蓮! 早う帰って来い、大王様に食べられるために、あははははは! うつくしいのう、いっそ、私が食べてしまおうか」

 月衆の興味の対象がかぐやに移る。御行は触手からぼとりと海に落とされた。えぐられた目はもう何も捉えることが出来ず、気を失いぐったりと沈んでいく。かぐやは海に飛び込み自分より二回りは長身の御行をかろうじて舟の上に乗せる。

 かぐやは自分の迂闊さに歯噛みする。

「うああああああああああああ」

 慟哭と言うより獣の雄叫びに近い音で吼えると、太刀を抜いて鞘を船上に捨てる。自らを捕えようとうねりながら向かってくる触手を駆け上り、右から這い寄る触手を切り捨て、体を回転させて前から来る触手も叩き斬った。頭上をかすめる触手に片手をかけ、一瞬でよじ登り蹴り上げて高く飛びあがる。一番太い触手を斬り落とす。


ツイッターでのご紹介やRT、感想(一言でも!ただしアドバイスや否定的な感想は落ち込んでしまいモチベが下がるので、正直に申しますといただいて嬉しいような感想がほしいです)お待ちしています。

二次創作大歓迎なのでうちの子イラストなどすごく求めております。

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