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第十話

かぐや姫が男の子だったら、という童話新訳バトルファンタジーの第十話です。いわゆる日常パート。自分が見たいのでメインキャラ全員女装のシーンを入れました。

かぐやは帝に手を引かれ、屋敷の庭にやってきた。

「曲水の宴って知ってる?」

帝の屋敷で毎年行われる、和歌を詠む大規模な宴で、日本に生まれて三年のかぐやですらその存在は聞いたことがあるくらい有名で盛大なものだった。

「今日はかぐやのために宴をしたいと思います!」

「え?」

連れてこられた先には御行と石上(いそのかみ)が立っていた。

「毎日月衆(げっしゅう)のことばかり考えて不安になるのも体に悪いからね」

「誰かと馬鹿騒ぎしたこともないだろう?」

ない、とかぐやは首を振った。


本来の曲水の宴は、水の流れのある庭園などでその流れのふちに出席者が座り、流れてくる盃が自分の前を通り過ぎるまでに詩歌を読み、盃の酒を飲んで次へ流し、別堂でその詩歌を披講するという行事である。

 が、これは若い三人が馬鹿騒ぎするために考えた宴だ。流す盃の中には酒ではなく紙を入れ、呑む量と無茶振りが書かれている。

「盃が流れてきたら自分の横に用意した酒を指定された杯数飲み干して、指示に応じる」

「拒否は」

「できない」

 石上と御行が駆け寄り迎えに来る。

「物真似でも歌でも愛を囁くでも、指示通りやらなきゃだめだぞ」

「この間見た御行の物真似はなかなかに大事故だった」

 邸内には女官が集まり美しい男四人の宴を囁き合いながら見守っている。最初に盃をせせらぎから上げたのは帝。紙には、即興で愛の歌を歌え、との指示があった。

 帝は紙に書かれている二杯、酒を呑み庭に設えられた能舞台に上がると美しい声で歌い始める。

 歌え、を詠え、すなわち和歌を詠めという意味で捉えていたかぐやは面食らったが、耳に染み入る歌声である。ふと女官を見ると、皆一様にうっとりした表情で帝を眺めている。

 二番目は、石上。酒は難なく呑んだが、行動の指示に目を剥いた。

「庭の木を本気で口説く」

 庭で一番の大木を、幹に触れながら褒め口説くのだが、よほど恥ずかしいのか頭の先から赤くしていた。聴こえない! と調子に乗った周りに囃し立てられ、大声で木に色っぽく囁きかける様子はさながら藤岡弘、である。

 続いては御行。

「五、五杯!?」

「頑張れー!」

 呑み終えると御行の顔は真っ赤になった。酒が弱いのだ。指示は物真似。一つも似ておらず上滑りしそれが面白くなって笑ってしまう。またも大事故となった。

 最後に、かぐや。三杯盃を開けて、指示は石上をお姫様抱っこ、というものだった。かぐやは人並み外れた怪力の持ち主なので体格差があっても抱え上げることができる。

「ふざけんなよこれ俺が恥ずかしいだけだろ」

「暴れると落とすから大人しくしてろよ?」

 抱え上げられた石上は両手で顔を覆って羞恥に耐えている。割に合わない、と石上はかぐやを米俵のように肩に担ぎ、尻を鼓に見立てて叩く。

「降ろせー!」

 ぐるぐる回ると酒が回るのかかぐやはぎゃあぎゃあ騒いで抵抗した。最終的には楽しくなって笑いが止まらなくなる。

 女官の前まで行って歌ったり、即興で漫談などをしているうちに夜が更けてくる。

 宴の間は庭から邸内に変わり、帝がかぐやに教えた。

「いつもの曲水の宴だと、白拍子が舞を奉納すんのよ」

 白拍子というのは女性が神楽舞をする時に水干や烏帽子、太刀などを()いて男装して踊ったものだ。神楽舞、奉納舞は女性は男装、男性は女装、すなわち巫女装束で披露する。

「やってみる? かぐやほどの美人なら神様もきっと喜ぶよ」

 女官が白い巫女装束を広げた。もうお衣装は用意してあります! と。

「でも俺踊ったことないよ?」

「教えるよ、俺やったことあるから。俺も美しいから何度もやってる」

 石上が、こいつ自分からやろうとするんだよ、と呆れながら言った。確かに美形だがこの長身では神様も性別を見誤りはしないだろう。

「帝綺麗だから似合うぜ」

 かぐやが言うと、帝は嬉しそうに笑った。

「お世辞に決まって……ねえか、嘘つけねえんだよな」

「かぐやはいっちゃんより正直者だから」

 したたかに酔っている四人はなぜか全員で神楽舞を奉納することになった。実は準備万端の女官たちが、かかれ! と言わんばかりの勢いで四人の着物を剥き化粧を施し始める。

「中納言様お綺麗ですわ」

「綺麗なわけあるか!」

「大納言様の方がお美しいわ」

「でけえ……」

 月衆の脅威もひと時忘れ、御所の中に笑い声が響き渡る。


 能舞台には篝火が焚かれ、現れた巫女装束の四人は確かに美しかった。現代に伝わる神楽舞はゆったりと上半身だけを動かす物が多いが、四人は鈴を打ち鳴らし、激しく官能的に舞って見せた。

暗闇の中で白い千早が翻り、薄く光っている。着付けている時は笑っていた女官たちも皆その美しさに心洗われ目を細めている。


 女装も崩れ紅も剥がれたあられもない姿で、いびきをかく三人に折り重なるように眠っていたかぐやは、差し込む朝焼けに目を覚ました。自分が圧し掛かっていた御行を揺さぶり起こす。

「まだ起きるには早いよ……わあ……」

「夜が明けてく」

 青と紫の空を白い光が照らし、庭の草木はきらきらと輝いている。二人の気配に下敷きになっていた帝と石上も目を覚ました。

「すごいきれい……きもちわるい」

「吐くなよ!」

「頭痛てえ……二度と酒は呑まない」

 御行は弾かれたように笑っている。こんなの初めてだ。貴族に生まれ、この若さで大納言になり、親しい者はいたがここまで羽目を外したことはなかった。こんなに楽しいのは初めてだ、と噛み締めて、つられて笑っているかぐやと顔を見合わせた。


「かぐや。いっぱい遊ぼう、明日も明後日もその次もここにおいで。遊んで暮らしてるって責められてもいい。ご飯も干菓子も成果物も一緒に食おう。蹴鞠とか毬杖(ぎっちょう)、やったことある?」

 帝が微笑んだ。なぜか御行が興奮気味に答える。

「俺も毬杖好き!」

「面白いのよ毬杖」

 毬杖、槌をつけた木製の杖を振るい、木製の毬を相手陣に打ち込む遊び。蹴鞠がサッカーやフットサルなら、毬杖はゴルフかホッケーだろう。

「いっちゃんも上手いよね。今日から毎日やろう毬杖」

「上手いけど毎日は無理だわ、三日に一回ぐらいにせん? 腰が死ぬ」

 石上が悲壮な声を上げたのでまたかぐやは笑い声を上げた。笑うと本来の顔立ちの幼さが際立つ。月に戻る前の思い出作りくらいはさせてくれ、とかぐやは大王に願う。

 帝は真逆のことを考えていた。

 かぐやを月には渡さない。かぐやを苛める奴しかいない場所になど帰すものか。


楽しく書いていますが反応があるともっと楽しいのでポジティブな感想をいただきたいです。ツイートやRTなども……アドバイスやネガティブな感想、間違いの指摘など重く受け止め楽しく書けなくなってしまうタイプなので、ポジティブな内容の感想でどうかお願いしたいです。

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