幕間:辰門司君視点のお話・京都からの刺客 その3
ぶっちゃけ、これを修行の場にするとか、明らかに危ない。下手すると一瞬で負けると自分でも思う。だけど、やっぱり自分は強くなりたいって考えちゃうバカ者なんだよ!
「くっ、あぁっぶね!? やっぱりやめときゃ良かったかなぁ!?」
「だったら今からでも。辞めたらどうだ!?」
「いいやっ、それは流石になぁ! 自分でやるって決めたんだ、最後までっ、やり通して見せるとも! ひえっジリって!? ジリって!?」
か、髪の毛掠っただけだってのに心臓が凍りそうになったぞチクショウが。でもこの当たっちゃいけない緊張感が、集中力を、こう高めてくれるような!
「イヒィッ!? でも心臓にめっちゃ悪いぃ!?」
「俺の攻撃をあえてギリギリで回避するような酔狂のくせに、よくぞ言ったものだ!」
回避してないと死ぬからなぁ! いや、本当はもうちょっと余裕持って回避すれば、反撃も出来るかもしれないなー……くらいには……いや、殆どないに等しいですけど。
「うぐっ、やべって、のホォッ!?」
「ええい奇妙な悲鳴をあげるな。最初に会った時と印象が違うぞ」
「無理して修行してるからなぁっ! 余裕もないんだよっ!」
情けない悲鳴を上げるしかないんだよなぁ……ああチクショウ、俺ってばなまじ強いから分かっちまうこの打撃のやばさよ……とはいえ。さっきから、ギリギリの所でバトってるせいか、結構……
「余裕がないという割には……少しずつ動きが良くなって言ってるな」
「ギリギリ、一杯、でずっと頑張ってるんだ……そりゃあ、な!」
反撃せず回避に専念してるお陰で、なんとか目が慣れてきた。時間稼ぎしつつの修行っていう発想、意外に悪くないかもしれん。回避する時の、効率的な動き方が、ちょっと分かってきた気がする。
「俺も舐められたものだ……修行用の木人代わりにされるとはな」
「木人は自分から殴ってこないでしょうがチクショウ!」
「その舐めた認識を、そろそろ改めさせねばならん」
いーや、もうちょっとこの舐めた動きに付き合ってってあれちょっとタイミングがはやくなったようなぁっ!?
「あぶなっ!? ちょ、動きが早く!?」
「少しばかり、本気を出すとしよう……修行などという舐めた認識を叩き直してくれる」
ちょちょっ、やばい。こんな早く本気出してくるとか! もうちょい時間を稼げると思ってたけど予想以上にキレやすかったよこの人!
「クソッ、しかもスピードだけじゃなくて重さも上がってやがる!」
「当然だ、貴様のその余裕を引き剥がすつもりで拳を振っている」
今全力で回避してるけど、反撃する余裕がないからなぁ! 何が怖いって、これでも全力出してる雰囲気じゃないんだよ!
「ようやく修行のつもり、などという奢りは捨てたか?」
「……いいや、そうでもねぇさ」
「何?」
さっきまでは、あえて自分を抑えた、いわば偽りの限界だ。でも今は……俺の実力を本当に限界まで使ってもギリギリくらいだ。こういう状況でこそ、真に修行になるってもんだろう!
「さらに自分の経験になりそうだ!」
「もはや余裕ではない、執念だな、貴様のそれは……!」
全力で避けても、それでも薄皮を拳が、爪先が、踵が、肘が、掠めていく。一手一手に集中して回避する必要があるから、より自分の動きを意識しなければならない。
「一発一発、丁寧に、丁寧に……意識しろっ!」
「口に出そうと、動きが良くなるとは……っ」
もっと、もっとだ! 相手の拳の動きを、蹴りの軌道を、全部見極めて! そっからどうやって避ければ、力を無駄にしなくて済むのかっ!
「いいねぇ、余計に動きが、研ぎ、澄まされて、いく気がするよ……!」
「……何だ、何だこれは?」
少しずつ、動きを、極めるように、研ぎ澄ませるように。そうすると分かってくる。自分が、どういう動きをすればいいのか! 少しずつ、少しずつ!
「明らかに、動きが、より良く、進化している……バカな、この短時間に!?」
「言ったろ、俺は修行、してるんだって!」
戦いの間も修行にするくらいじゃないと、時間稼ぎも……いや、ごめんやっぱ手のひら返す。
さっきから、自分の動きが研ぎ澄まされるのと一緒に、欲が湧いて来た。この目の前の大男に、勝ちたいって!
「体力に余裕はない筈だ、回避に専念して、体力を擦り下手している……それなのに動きは更に、まだ際限なく!」
「育ち盛りなんでねぇ!」
回避する動き、体の動かし方。その全ては、根本的に武術の動きに流用できる。筋肉の動かし方を応用するんだ。無駄なく、力を動かすコツを!
「っ、侮っていたか、貴様をっ!?」
思いっきり振りかぶった。間違いない、渾身の拳が来る。だが、だがここだ!
「そうだな……後、隙有り注意だぜお兄さんよぉ!」
驚いてんじゃねぇ、その驚愕が付け入る一点……力を動かすコツは、ぶっつけ本番しかない! 勝つんであれば、ここできっちり決める! 拳を構えろ!
「な、ここで」
「ここだからダヨォ!」
飛んでくる必殺の一撃! ここに合わせるしか、勝機はない!
避けろ、避けろ避けろ避けろぉぉぉぉぉおっ! 渾身の一撃を全力で避けるんだっ!
「っっぁあ!」
「ゴォァアッ!」
足 真っ正面 来る 当たる いや 避けられるっ!
「—っ!」
「……げ、が」
……避けた。正面に向けて、立ち向かうように避けて、そのまま、顔面に拳を叩き込む。力を込めて、思いっきり、振り切れぇ!
「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおっ!」
——振り切った。手応えあり。
ガシャん、って音がした。吹っ飛ばした方向。校門を吹っ飛ばした向こうに。あいつが転がっていた。
「……やれた」
……マジで、勝てちった。
書いてて楽しかったです。




