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「先生! 取材ですわ! 創作には新しい刺激と、現場の空気を肌で感じることが不可欠です!」
「……言い方に騙されないで八木くん。神埼さんはただ、あなたと一緒にお出かけしたいだけよ」
日曜日の午後。
俺——八木和真は、駅前の大型ショッピングモールに連れ出されていた。
隣には、私服姿の二人の美少女。
清楚な白のワンピースにカーディガンを羽織った白雪詩織と、トレンドを押さえた華やかなシフォンブラウスにショートパンツの神埼朱里だ。
「……で、なんで俺が二人の買い物(※建前は執筆の取材)に付き合ってるんだ?」
「決まっていますわ! 次回作のデートシーンのリアリティを高めるためです! さあ先生、まずはあちらのカフェで作戦会議を——」
「ダメよ神埼さん。八木くんは人混みが苦手なの。まずは静かな書店で新刊のチェックをするのが先決よ」
神埼が俺の左腕を軽く引っ張れば、白雪も負けじと右腕をぎゅっと抱え込む。
すれ違う通行人や他校の生徒たちから、「なんだあの男……」「二度見したわ」「爆発しろ」という刺さるような視線が飛んでくる。
「(……助けてくれ、精神が削られる……!)」
結局、二人の主張の間をとって、大型書店のラノベコーナーへ向かうことになった。
ズラリと並ぶ文庫本。その一角に、俺の著書『余命半年の俺が、死にたがりの少女を救うまで』が平積みされている。
「……あ」
白雪が足を止めた。
彼女は自分のカバンから、大切そうにビニールカバーで保護された俺の本を取り出す。
「八木くん。私ね……この本に出会うまで、学校に行くのも、人と話すのも、全部どうでもよかったの」
白雪の瞳が、本を見つめながら柔らかく揺れる。
「でも、YAGI先生の言葉に救われた。だから……正体が八木くんだって知ったとき、本当に神様がいたんだって思ったの。私にとって八木くんは、命の恩人みたいなものなんだよ」
「白雪……」
普段はポーカーフェイスで「重い愛」をぶつけてくる彼女が、心からの感謝と情熱を素直に口にする。
作家として、これ以上誇らしい言葉はない。俺の胸がじんと熱くなった。
「……くっ、白雪さんズルいですわ!」
神埼が悔しそうに拳を握りしめた。
「私だって! 先生の描く心理描写の緻密さにどれだけ救われたか! 先生、私を次回作のヒロインのモデルにしてくださいまし! 取材ならいくらでもお供しますわ!」
「モデルなら私よ。だって私、八木くんのリアルな表情も、照れた顔も、一番近くで見ているもの」
白雪がすかさず牽制し、俺の腕を引き寄せる。
「なっ……! 私だって、先生の執筆中の癖や思考のパターンを研究し尽くしてみせますわ!」
「研究なら私の愛の方が深いわ」
「愛の深さなら負けません!」
またしても始まったガチ勢二人のバチバチなヒロイン争奪戦。
周囲の客が「え、何あの修羅場?」「ラノベのコーナーでリアルラノベ始まってる……」とチラチラ見始めている。
「二人とも、声が大きい……! 書店の中なんだから静かに!」
俺が慌てて小声で注意すると、二人はハッと口を噤んだ。
そして、顔を合わせると同時に——くすっと小さく笑い合った。
「……神埼さんって、本当に八木くんの作品が大好きなのね」
「白雪さんこそ。先生への愛が深すぎて、少し尊敬してしまいますわ」
さっきまでマウントを取り合っていたはずの二人が、作品への愛という共通点を通じて、どこか通じ合っているようだった。
「……でも、八木くんの『一番のファン』の座は譲らないけど」
「望むところですわ! 私が真のメインヒロインになってみせます!」
ライバルであり、一番の理解者同士。
二人の熱量に圧倒されつつも、俺の心の中には新しいストーリーのアイデアが溢れ出していた。
(……Wヒロインが互いを認め合いながら、主人公を引っ張り回すラブコメ……悪くないな)
帰り道、クレープを片手に楽しそうに作品論を語り合う二人の後ろ姿を見ながら、俺は次の原稿への意欲を燃やすのだった。




