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「……八木くん。本当に、私と二人きりでよかったの?」
休日の午前10時。
日差しが心地よく差し込む俺の部屋で、白雪詩織がちょこんとベッドの端に腰かけていた。
今日は神埼の提案(という名のお邪魔)を白雪が「今回の取材は私との個別イベントです」と見事にシャットアウトし、実現した完全二人きりの自宅デート……もとい、執筆取材日だ。
「いいも何も、白雪が『部屋に行きたい』って言ったんだろ」
「……だって。神埼さんが来てから、八木くんを一人占めできる時間が減っちゃったんだもの」
膝の上で手をギュッと握りしめ、白雪は素直すぎる本音を口にする。
私服の薄手のニットからは華奢な肩のラインが見えていて、自分の部屋に女の子がいるという現実に俺の心臓は朝からずっとバクバク言いっぱなしだ。
「ほら、八木くん。座って」
白雪がトントンと自分の隣のスペースを叩く。
「え、あ、うん……」
戸惑いながら隣に座ると、白雪はすかさず俺の腕に自分の腕を絡め、肩に重みを預けてきた。
ふわりと香る、シャンプーの甘い匂い。
「……白雪? 近すぎないか?」
「デートだもの。これくらい当然よ。……それに、こうして八木くんの温度を感じていると、すごく安心するの」
白雪は俺の肩に頭を乗せたまま、ゆっくりと目を細めた。
「私ね、八木くんの部屋に来たら、ずっとやってみたいことがあったの」
「やってみたいこと?」
白雪は照れくさそうに、でも愛おしそうに部屋の隅にある本棚を見つめた。
「八木くんがいつも作品を生み出しているデスクで、八木くんがキーボードを叩く音を聞きながら、私は隣であなたの本を読むの。……それが、私にとって一番の贅沢だから」
「……白雪」
どこまでもまっすぐで、どこまでも重くて、温かい愛。
学校での無表情な「ぼっち女子」だった彼女が、俺の前でだけ見せるこの愛おしい表情を、俺はもう誰にも渡したくないと思ってしまっていた。
俺はデスクの椅子を引き、ノートPCを開く。
「じゃあ……白雪の特等席、用意するよ」
白雪の目をまっすぐ見て、俺は自分の膝の上をぽんぽんと叩いた。
「っ!??!?」
白雪の顔が、一瞬で耳まで真っ赤に染まった。
「え、えええっ!? ひ、膝の上!? そ、それは流息に刺激が強すぎるというか、心の準備が……!」
「ダメか? 『一番近くにいるガチ恋勢』なんだろ?」
いつも攻め立てられてばかりだった俺の、ささやかな反撃。
白雪は両手で真っ赤な顔を覆い、ガタガタと震えたあと——意を決したように、おずおずと俺の膝の上に腰を下ろした。
背中から伝わる白雪の体温と、鼓動の速さ。
「……八木くんのバカ。こんなの……集中して本なんて読めないじゃない……///」
「はは、お互い様だよ。俺もキーボード叩く手が震えてる」
俺は白雪の腰にそっと手を回し、彼女の肩越しに画面へと手を伸ばした。
密着した状態でカタカタとキーボードを叩き始める。
「……八木くん」
「ん?」
「私……神埼さんにも負けないし、これからどんなライバルが出てきても、絶対に八木くんの一番でい続けるから」
「……ああ。俺のメインヒロインは、最初から白雪だけだよ」
「……〜〜〜ッ///!!」
限界を迎えた白雪が、俺の胸の中に顔を埋めて大人しくなった。
甘くて、恥ずかしくて、けれど世界で一番幸せな執筆時間が流れていく。
俺たちのラブコメは、まだまだ始まったばかりだ。




