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「——ちょっと待ちなさい! その原稿の言い回し、YAGI先生の初期作品における『叙情的な文体』の魅力が少し薄れてないかしら!?」

「なっ……! これは今の流行とテンポ感を意識した、YAGI先生の新たなる進化の兆しよ! 過去の型にとらわれすぎるのはファンとして浅いわ、神埼(かんざき)さん!」

「なんですって……!? 浅い!? この私に向かってなんて暴言を……!」

放課後の図書室。

いつもの静寂はどこへやら、二人の美少女によるバチバチの火花が散っていた。

事件の発端は一時間前にさかのぼる。

俺——八木和真のクラスに転校してきたばかりの文芸部員、神埼朱里(かんざき あかり)。

校内でも有名な容姿端麗な優等生である彼女が、何を思ったか俺と白雪のいる図書室の席に殴り込んできたのだ。

理由は単純。白雪が図書室で「YAGI先生の最新原稿(のコピー)」をうっとり眺めていたのを偶然目撃し、重度のラノベオタクである神埼が食いついたからだ。

そして——身バレの連鎖は、あまりにも呆気なく起きた。

『これ、YAGI先生の未公開原稿じゃない!? なんで持ってるの!?』

『……八木くんが、本人だからよ』

『はい!?!?』

白雪がドヤ顔でバラした結果、神埼は「嘘でしょ!?」と教室中に響く声で叫び、その場で八木の原稿(と八木本人)を拝み倒すという、白雪とまったく同じ狂乱ステップを踏んだのだった。

そして現在。

「YAGI先生の専属助手」の座を巡り、二人のガチ勢による不毛な議論が勃発していた。

「……あのさ、二人とも。俺の目の前で作者の文体論争をするのはやめてくれないか? 恥ずかしさで筆が止まるんだが」

俺が頭を抱えて呟くと、二人はハッと同時に振り返った。

「す、すみませんYAGI先生! 駄目ね白雪さん、先生の貴重な執筆時間を私たちの議論で奪うなんて!」

「それはこちらのセリフよ、神埼さん。急割り込みしてきたのはそっちでしょう。八木くんの隣は私の指定席なの」

白雪はすかさず俺の右隣をキープし、俺の腕にすり寄るように距離を詰めてくる。

対する神埼も負けじと、俺の左側に回り込んで身を乗り出してきた。

「私だって文芸部として、先生の執筆環境を完璧にサポートできます! アイデア出しでもプロロットの精査でも、何でも命じられてください!」

「サポートなら私で十分よ。八木くんの好きな紅茶の砂糖の量まで把握してるのは私だけなんだから」

「そんなの今日から暗記します! むしろ先生の執筆中の癖や集中できる室温までデータ化してみせますわ!」

左右から迫る二人の美少女。

校内の男子が見たら全殺意を向けられそうな状況だが、当の俺は「ガチ勢二人に挟まれて原稿を解体分析される」という集団恥ずかしめプレイに耐えている状態だった。

「(……死ぬ。照れ死にする……!)」

冷や汗を流す俺の横で、白雪がじっと神埼を見つめた。

そして、どこか牽制するような、少しだけ不安そうな声で口を開く。

「……神埼さん。あなた、まさか……八木くんのこと、『作者として』じゃなくて……その……」

「え?」

神埼は一瞬きょとんとしたあと、白雪の言いたいことに気づいたのか、顔をパッと赤くした。

「~ッ!? ち、違いますわよ! 私はただ純粋にYAGI先生の作風と世界観を愛する一ファンとして……! ……あ、でも、実物の八木先生がこんなに落ち着いていて素敵な方だなんて思っていなくて、その……少し、ドキッとしたのは否定できませんけど……///」

モジモジと髪を弄り始める神埼。

「ッ~!! ほら見なさい! やっぱりライバルじゃない!!」

白雪が珍しく声を張り上げ、俺の右腕をギュッと抱きしめた。

腕に柔らかい感触が伝わってきて、俺の思考が跳びそうになる。

「八木くんは渡さないわ……! 最初にファンになったのも、正体を知ったのも、『求婚する』って言ったのも私なんだから!」

「き、求婚!? 白雪さん、ご本人の前でそんな大胆なことを……!? くっ、遅れをとりましたわ……! でも私も負けません! YAGI先生の第二のヒロイン枠は私がいただきます!」

「ヒロイン枠は譲らないわよ! 私がメインヒロインなんだから!」

「展開によっては負けヒロインが逆転することだってラノベではよくあることですわ!」

「……二人とも、俺をダシにラノベの文脈でケンカしないで」

俺のツッコミも虚しく、図書室の隅っこで展開される「ガチ恋ファン同士のメインヒロイン争奪戦」。

白雪の重すぎる一筋な愛と、神埼の熱烈なアプローチ。

正体を隠してひっそり執筆するはずだった俺のラノベ作家ライフは、なぜか実写版ラブコメの主人公状態へと急速にシフトしていくのだった。

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