神速の救死扶傷。――二龍山を平伏させた、薬学徒の補水塩
この日頃は力無双を誇り、素手で巨大な柳の木をも引き抜くという魔王が、この時はどうしたことか顔面を土気色に染め、両手で死に物狂いにお腹を押さえながら、担架の上で脂汗を流して激しく絶叫していた。
付き従ってきた数人の兵卒たちは、完全にパニックに陥り、右往左往している。
「大変だ! 提轄の兄貴が呪いにかかっちまった! 山の下で生水を数口すすり、半分腐りかけた羊の脚肉を喰らった途端、腹に穴が空いたかのように悶絶し始め、すでに十数回も激しく下している。人相が変わるほど拉しちまってるんだ!」
急性胃腸炎。抗生物質も電解質という概念も存在しない冷兵器の古代においては、どれほど頑強な大男であっても容易く命を落とす、文字通りの重症だった。
「全員下がりなさい! 周りを取り囲まないで、息を吸わせて!」
美嘉は一歩でその側へと突進した。大学三年生の薬学部としてのプロの組織本能が、この瞬間に完全に覚醒する。彼女はすぐさま女兵たちに鋭い指示を飛ばした。
「早く! 今しがた沸騰させたばかりの熱湯を持ってきて! その中に塩を小さじ一杯、白糖を三杯加え、人肌に冷まして大師に飲ませるのよ!」
これこそが、現代医学における最も基礎的な経口補水塩の処方だった。脱水によるショック症状を未然に防ぐ、命の組織液である。
さらに美嘉は、薬箱の奥から、自ら細かく篩にかけ、調合を重ねて作り上げた独門(特製)の防潮土製「黄連黄芩散」を取り出した。これらの生薬には天然のベルベリンが豊富に含まれており、古代においては最上級の止瀉抗菌薬となる。
美嘉は魯智深の髭だらけの大きな顎を力任せにこじ開けると、その薬粉を、温かい特製の塩砂糖水とともに、この花和尚の喉の奥へと生々しく流し込んでいった。
「大師、飲み込んで! 私の言う通りに、大きく息を吸って。すぐに痛みが引いていきますから!」
美嘉の瞳はどこまでも清徹で、そこには凛とした果断な拒絶の意志が宿っていた。宮崎駿のアニメのヒロインのようなその剥き出しの剛勇さに、周囲の無骨な好漢たちは息を呑み、誰一人として声を出すことすらできなかった。
言うなれば、それは神技の如き奇跡だった。半時(約一時間)も経たぬうちに、現代の精緻な配合比率に基づく補水塩と特効の薬散を飲み干した魯智深の、あの引き裂かれるような腹の絞痛は奇跡的にぴたりと治まり、土気色だった顔面には見る見るうちに健康な血色が戻っていった。
花和尚は、もはや翻江倒海(のたうち回るような)の嵐が去った自身の腹を叩き、一拍置いて勢いよく跳ね起きた。その大きな二つの眼を皿のように見開き、目の前に立つ、全身泥と他人の血にまみれながらも心からの懸念を湛えている三娘を見つめると、激しい感動のあまり自らの太腿をバチンと叩き、合掌して大声を張り上げた。
「灑家は三十数年を生きてきたが、今日初めて、本物の神仙が下界に降り立つ姿を目にしたわ! 扈お嬢さん……いや、三頭領! これから先、灑家と二龍山の数百人の弟兄たちの命は、すべてあんたに預ける! もしこの山の中で、あんたに少しでも不実な口を叩く不届き者が現れたら、灑家がこの禅杖で真っ先にそいつの頭を叩き潰してやる!」
その傍らにいた楊志、施恩、曹正たちも、次々と拳を包んで深く感謝の意を示した。
この一戦において、美嘉は自らの優れた医術によって梁山泊の無数の兵たちの命を救っただけでなく、新しく入山したばかりの二龍山の大軍(魯智深や楊志の強力な派閥)を、扈三娘の味方として、背後にがっちりとバインドすることに成功したのだ。
数日の後、徐寧の鉤鎌槍が朝廷の連環馬を大破し、官軍は全軍覆没(全滅)。呼延灼と凌振の二将は梁山泊へと帰順した。
梁山の聚義庁では盛大な慶功宴が催され、烈火に油を注ぐような賑わいを見せていた。
酒は三巡し、上座に座る宋江は満面に春風を浮かべながら酒碗を掲げていた。その大きな二つの手が微かに震えるほど歓喜に浸りながら、宋太公の傍らに座る美嘉へと視線を向け、大声で称賛の言葉を放った。
「今日、朝廷の官軍を大破できたのは、前線の将兵たちが命を賭して戦ったからだけではない! 後山を守り抜いた三娘妹子こそ、まさに巾幗鬚眉に譲らず、女傑の中の女傑である! あの一百名の女兵たちが四面の旗印に従って救死扶傷の役割を全うし、我が梁山泊の無数の好漢たちの命を繋ぎ止めてくれたのだ! 老太公、あなた様は本当に素晴らしい娘を迎えられた。この妹こそ、我が梁山の大功臣である!」
「及時雨の兄貴の言う通りだ!」
下座にいた魯智深が真っ先に立ち上がり、大きな碗を掲げて高呼した。
「三娘の受けた大恩、俺たち二龍山の弟兄は永世にわたって忘れねえ!」
智多星の呉用もまた、羽扇を静かに揺らしながら、その狐のように鋭い瞳で美嘉を深く見つめ、意味深な笑みを浮かべた。
「扈お嬢さんのあの四面旗による指揮の法は、小生すら自愧(恥じ入る)するほど見事なものでした。公明の兄貴、これから先、この山寨における医療、伝令、糧務のすべての差配は、お嬢さんの右に出る者はおりますまい」
太公の隣に座っていた美嘉は、綺麗な顔をほんのりと朱に染め、少し気恥ずかしそうに長髪をかきむしった。彼女は自分が今、古代の格式の中にいることを一瞬忘れ、まるで現代の大学のソフトボール大会で優勝した表彰式のノリのまま、一左一右に座っていた宋江と宋太公の手を力強く掴み、そのまま空高くへと掲げたのだ。
満堂の好漢たちから轟然たる歓声が沸き起こり、雷鳴のような拍手が聚義庁を揺るがした。宋江は突然手を空中に掲げられ、驚きながらも美嘉を見つめ、次いで宋太公を見つめると、満面の笑みを浮かべて何度も、何度も深く頷いた。
この時、聚義庁の最後尾に小さくなって縮こまっていた矮脚虎の王英は、全山寨の頂点に立つ豪傑たちから衆星捧月(星々が月を戴くよう)に囲まれている美嘉の姿を見つめていた。さらに耳に飛び込んでくる魯智深や楊志たちの、明らかに美嘉のバックボーンとして立ち塞がる強力な宣言を聞き、その醜い顔面は完全に土気色(面如死灰)へと変わっていた。
これ以降、あの無理やり妻に娶ろうという一筋の邪念すら二度と抱くことができなくなったばかりか、美嘉に対する彼の態度は、完全に、恐れおののくほどの恭々しいものへと変貌していった。




